第302話東の事情を聞きます!

「ところで今回はどれぐらいいるつもりなんだ?」


食事を終え、食後のお茶を飲みながらイナイが聞いてた。そうだなぁ、どうしようか。

この街、ちょっと特殊なので散策したいし、調べてみたい事も有る。となると、少なくとも十日ぐらいは居たいな。

まあ、早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれないけど。


「十日ぐらいは、居たいな」

「そうか」


イナイは俺の返事に短く応え、お茶をすする。多分これ、どんな返事でもそう応えたんじゃないかな。

1年とか、2年とか言わない限り、イナイは受け入れる気がする。


「此処って街だし、組合は有るのかな?」


シガルが首を傾げながら疑問を口にした。何故かクロトが同じ方向に首を傾げている。思わず俺も同じように首を傾げる。

イナイはその光景に少し口元を緩めながら答える。


「組合は在るぞ。一応街ぐらいの大きさの所には、基本在る」

「そっかぁ。じゃあ、明日か明後日にでも行って来ようかなぁ」


ふむん、今日は行かないのか。てっきり、じゃあ行ってくる!っていうかと思った。


「今日は行かないの?」

「うん、ちょと腰がだるくて。お昼過ぎたら訓練はするけど。お仕事は止めとこうかなぁって・・・昨日少し張り切りすぎちゃったかも」

「あ、はい」


うん、なんていうか、理由が、うん。いかん、なんで俺が照れてるんだ。

腰が若干だるいのは、俺も同じだったりするけど。あ、イナイが少し顔赤い。


「・・・今日は、のんびり?」

「そうだね、お昼まではのんびりかな。ちょっと街散策して、訓練に行くぐらいかな」


クロトがお茶をフーフー冷ましながら聞いて来たので、頭を撫でつつ答える。

訓練もお休みにしても良いかなーと、少し思ってるけど。基本的に完全休日にすること少ないからな、最近。

まあ、出来ることの幅を増やしたいので、色々実験もしてるからってのも有るけど。


「ハク起きないね。どうしようか」

「シガルが起こして起きなかったら、そのまま寝かせとけばいいと思う」


そのまま寝かしとくと、後で何か言われる気がするので、一応起こす。起こした事実が有れば、ハクも特に何も言わないだろう。

というか、言わせん。起こしたのに起きない方が悪い。


「じゃあ、あたしはとりあえず、グレットにご飯あげてくる」

「おう、これもってけ」


シガルが席を立つと、イナイがグレットの餌を手渡す。紙に包まれてるけど、たぶん肉の塊だと思う。

結構デカいけど、グレットの大きさだとぺろりと食べるんだよなぁ。やっぱ図体デカいと燃費も悪い。


「はーい、行ってきます」

「・・・僕も、行っていい?」

「クロト君も?」

「・・・うん」

「じゃあ、一緒に行こうか」


クロトの手を取って、シガルは部屋を出て行く。クロトも結構グレット好きだな。グレットもなんか懐いている感あるし。

一番懐いてほしいハクは散々な感じだけど。暫くは慣れないのかね。

なんて考えていると、胸元に少し重みを感じる。横に居たイナイが俺の胸元に頭を預けていた。


「なあ、タロウ」

「ん、なに?」


まったりした気分でイナイを受け止め、その頭を撫でながら聞く。ただこれだけの事が、楽しい。

彼女が傍に居る事が、彼女が俺に体を預けて居る事が。その髪を撫でているだけの事が、とても楽しい。


「昨日は、その、どうだった?」

「ゴフッ」


質問の内容にお茶を吹きかける。鼻から出るかと思った。


「けふっ、げふっ、な、なんて?」

「いや、だから、昨日結構頑張ったんだけど、その、先にばてちまったから、もしかして満足してないかなって」

「・・・あ~」


イナイさん、一番先にダウンした事を気にしてましたか。大丈夫、それ全部シガルのせいだし。

そもそも、俺も最終的にシガルにギブアップ宣言したし。3回目のギブアップでようやく認めてくれたけど。

若いって怖いね。もう限界だと思ってるのに体は反応するんだから。シガルが凄いせいなのか、俺が若いせいなのかは判んないけど。


「俺もシガルに負けたし、その、良いんじゃないかな」

「そ、そうか」

「うん」


お互いに照れながら、昨夜の事を話す。なていうか、一番年下のシガルの方が、あっけらかんと話すってのも、おかしな話だ。

あの子凄まじく積極的なんだよなぁ。むしろそれが当然ぐらいの勢いだし。なんとなくだけど、本当になんとなくだけど、あの知識、絶対自分で調べただけの知識じゃないと思うんだよなぁ。


「シガル、凄いよな」

「うん、凄いね」


イナイはお茶を飲みつつ呟く。ぶっちゃけ、俺は夜のシガルには勝てる気がしない。

あの時のシガル、普段と雰囲気が違い過ぎるんだよ。元気溌剌なのが普段のシガルだけど、普段の幼さとか、可愛い感じとか消えるからな・・・。


「あ、あたしも、頑張るから」

「え、あ、はい」


少し顔を俯け、こちらから顔が見えないようにしつつ宣言するイナイ。可愛い。イナイは逆に、可愛くなるんだけどな。普段がしっかりしすぎてるせいだと思うけど。

ただ、そうなると俺の身が持たない気がしてくるのは気のせいだろうか。

・・・そういや、アロネスさんに精力剤系も作り方教えて貰ったな。作るか?


「ああ、そうだ、お前に言っとく事が有る」

「ん、なに?」


イナイの声のトーンが、真面目な話のトーンになった。なんかあったのかな。


「前に、内乱やってる国が有るって言ったの、覚えてるか?」

「あ、うん、どこに行くか決めた時だよね」

「ああ、そうだ。で、その国の反乱軍は、一応鎮圧された訳なんだが」


ほむ、終わったのか。

・・・あれ、なんかおかしくね?


「鎮圧?」


確か反乱軍優勢って聞いたような気が。


「ああ、そうだ。そこもちゃんと覚えてたか。そうだ、反乱軍は負けた。最後の最後にひっくり返された。その後生き残った主要な人物も、順調に処刑されているか、捕らえられている。もう今の反乱軍に力はねーだろうな」


ほむ。でもそれなら国は落ち着くのかな。いや、反乱軍が出来た位だし、国の政治は結構酷いのかね。

ただ、なんでその話を俺にしたんだろう。あ、そうか、この後行くと言い出しかねないと思われてるのかな?


「んー、危なそうだし、行かないよ?」

「お前の性格上、それは解ってる。そうじゃない」

「うん?」


俺がその国に行くのを危惧してじゃないのか。じゃあなんでそんな話に?


「この国はそこの隣国。て事は、何か問題が起こってもおかしくねえ。特に今は、国境傍は何が有るか分からん。反乱軍が勝ってりゃ違ったろうが、反乱軍が負けたことで収拾がついてねー事が有る。

お前を巻き込む気は無いが、このままこの国に居たら、何かに巻き込まれるかもしれねぇ。それを伝えとかなきゃとな。

・・・実際、国境傍じゃ、少し問題が起きてる。このままだと色々不味い位にな。向こうさんがどう対応するのか次第で、下手すりゃ戦争に成りかねねぇ」


イナイは国から色々と情報を貰っているんだろう。若干苦々しい顔をしながら俺に事実を伝える。

多分、今言われたこと以外にも、もっと有るんだろう。俺が関係ない事が多いから、ざっくりと省略してるだけで。


「その、国境傍の問題、どっちが悪いとか、有るの?」

「厳密に言うと、悪いのは国っていうよりも、敗残兵になった連中だ。ただ、そいつらの存在が、ここと向こうの国の諍いを引き起こしかけてるって所だ」


負けた反乱軍が盗賊とかにでもなって、こっちの国で暴れてるとかかなぁ。

でもその場合、単純にそいつら捕まえるだけじゃダメなんだろうか。


「そいつらの逮捕だけじゃ、解決しないの?」

「無理だな。その辺も、元々の問題が有ってな。どうやら国境傍の連中は反乱軍に物資支援もしてたらしい。その後の契約を約束する事でな。ただ今回の事で、生き残った連中がまだ支援をしろと馬鹿言ってるらしい」

「無茶でしょ、それ」


間違いなく、支援したところで、何の意味もない。つーか、それならいっそ、そこで働けよ。


「ああ、無茶だ。中核が全滅。残った連中もほぼ居なくなった。なのに、支援はしろと。支援が有ったって、もはやどうにもなんねぇってのにな。

間違いなく、その連中はその恩を返す気なんてねえ。元々の契約を盾に、乞食をしているだけだ。

ただ、その事実は、多少なりとも隣国の内乱に、この国が係っていたという事実でもある。どうなるか、微妙な事案だ。あのまま順当に反乱軍が勝ちゃあ、何の問題も起きなかったんだがな」


イナイは苦虫を噛み潰すような表情で言う。イナイがこんな顔するって事は、よっぽど面倒なのかな。


「とりあえず、心に留めておく」

「ああ、そうしてくれ。ホント言うと、あたしは今の状態の王都には、あんま行きたくない」

「そっか、分かった」

「・・・そんなアッサリで良いのか?」


俺のアッサリした返事に、少し驚くイナイ。けど、そんなの当り前だろう。この旅は確かに俺がしたくてやってるけど、イナイやシガルの「嫌だ」を無視してまでやる気は一切ない。

むしろ、普段が我儘聞いてもらってるんだ。イナイの要望を応えないわけが無い。


「イナイが嫌なら、当然」

「・・・そっか」


イナイは嬉しそうに、また俺に体を預ける。

そうか、そんな事になってたのか。まあ、とりあえずこれ以上東の方に近づかなきゃ大丈夫かな。

少しこの街で観光したら、また南に行こう。

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