第301話宿の警備は万全です!

「・・・あー、朝か?」


ぼやっと意識が覚醒し、もそもそと起き上がると、両隣に下着姿のイナイとシガルが寝ている。

シガルはともかく、イナイも寝てるのは珍しい。寝顔が愛しく想え、髪を軽くなでると、シガルは気持ちよさそうにすり寄って、イナイは無反応。イナイさん、ちょっと寂しいっす。


ハクとクロトは隣の部屋だ。この部屋、部屋っていうか、ちょっとした家レベルの広さで、別室も有って、ベッドも複数ある。

そのうちの一室に、二人が寝ている。もちろんあの二人が仲良く並んで寝るはずも無く、真反対の位置で寝転がっている。


「あいつら起きてんのかな・・・」


一晩中つけてた防音の技工具を落として、隣の部屋を見に行くと、二人ともまだ寝ていた。

今日はみんな寝坊助だな。まあ、ハクは寝始めるといつまでも寝てる時も有るから、そう珍しくも無い。

ただ、クロトは道中での疲労が出たのかもしれない。クロトの体は多分普通の人と違うのかもしれないが、それでもあれだけ毎日車に揺られるのに耐えていれば、疲労も蓄積するだろうと思う。


因みに俺達の部屋に、俺達3人で、かつ防音なんてかけていたのは、お察しという所だ。

ただなんつーか、シガルは本当に元気だわ。イナイが一番先にばてたけど、ばてた理由がシガルがイナイに対して張り切ったからだからなぁ・・・。

あの子何で、あっち方面の知識あんなに豊富なの?


「・・・あ、まずい、朝から思い出す事じゃなかった」


朝なのも、若いのも有り、元気なのは俺も同じだったか。振り向くとまだ気持ちよさそうに寝ている二人がいる。


「・・・これを見て、そっち方向に思考が行かない辺り、体が反応してるだけなんだよなぁ」


寝てる二人を起こそうとは思わない。つーか、むしろこのまま眺めててもいいぞ俺は。


「朝飯作って、それでも起きて来なかったらちょっと訓練に出るか」


この部屋キッチンあるし、適当に何か作ろう。

あ、材料がイナイの腕輪の中だ。どうしよう。


「・・・外に買いに行くか」


とりあえず着替えて、一部が少し落ち着くのを待って、外に出る。

そう言えば、階段どこなんだろ。転移装置は勝手に使っていいのかな?

とりあえず転移装置の傍まで行くと、人は居ない様子だ。うーん、勝手に使っていいものか、どうしたものか。

・・・自分で降りてもバレないかな?


「うん、居ないな」


ちゃんと下の階層の転移装置の傍に誰も居ないのを確認し、傍に転移する。その瞬間館内に鐘の音が鳴り響いた。


「え、な、何が起きたの!?」


突然の事態に呆然としていると、何処からともなく、女性の声が響く。


『侵入者確認!侵入者確認!阻害結界を転移魔術で突破!熟練の魔術師と思われる!現在一階転移装置傍に反応を確認!皆警戒されたし!』


・・・あ、これ、もしかしなくても俺の事っすわ。一階転移装置傍って時点で完全に俺の事っすわ。

あー、セキリュティ装置的な物が有ったんすね。そうよね、こんなでかい建物、転移で侵入されたらわかんないもんね。


「あー、これ、イナイさんに怒られんじゃね?」


疑問に思うまでもなく怒られるだろう。いや、怒られずともきっと呆れられるだろう。そしてその横でシガルが苦笑しているのが頭に浮かぶ。

そんな考えを巡らせていると、こちらに集団で人がやってくるのが解る。数人は来る前に魔力が走ってる辺り、強化魔術や、攻撃魔術の事前準備をしながら来ているな。

やっべ、どうしよ。


「動くな!動けば命は無いと思・・・」


その先頭にいたのは、イナイを歓迎していた責任者の女性だった。既に腕には魔力が迸り、何かが形作る寸前で留められている。

ただ、その表情は、驚きの表情である。うん、ごめん。


「あ、あはは、その、すみません。こんな事になるとは知らず」


挙動不審になりつつ謝罪と言い訳をする。つーか、阻害結界って。確かになんか邪魔な魔力波が有るなと思ったけどさ。

しかも突破したのも感知するとか、どんなもの仕込んでんだこのホテル。

そういえばイナイさん関わってますね!あっても不思議じゃないですね!


彼女は表情を引き締め、周囲を警戒しながら俺を見据える。魔術も解いていない。いつでも撃つ体勢だ。

やばい。俺がやった事、もしかして凄い問題なんだろうか。


「先ほどの転移の使い手は、貴方ですか?」

「はい」

「誰かにそう答えろと脅されているわけでは無いんですね?」


ああ、なるほど、侵入者と鉢合わせて、俺がそう言わされてると心配されてるのか。良かった。


「はい。すみません。お騒がせしました」


俺頭を深く下げ、心の底から謝罪する。あの轟音では、泊ってた方にも迷惑だったのでは。

彼女はまだ警戒を解かず、誰かに目配せをした後、また俺に目を向け、そのまま動かずに沈黙が続く。

あのー、俺、どうしたらいいですかね?


「あのー」

「動かないで下さい!」

「は、はい!」


すげえ剣幕で怒鳴られたよ。怖いよう。この世界怖い女性多いよう。いや、それは別に元世界でも変わらんか。

あと俺が思わず謝る性格なのも、この手の受け答えの結果であろう。ヘタレとか、昔から知ってるから。今更だから。

しばらくじっとしていると、女性が警戒を解き、他の授業員にも解散を告げる。ここに集まって無い人たちがいる所を見ると、この人達は荒事要因なのかな?


「失礼いたしました」


女性は俺の傍まで来て、頭を下げる。


「え、い、いや、悪いのは多分俺ですから」


素直に転移装置使ってれば、多分この事態は無かったはずだ。おそらくさっきの人達は、本来の業務の手を止めてきている筈だ。

その証拠に、思い切り動きまわってるし。本当に申し訳ない


「いえ、イナイ様とご一緒という事で、ご説明を省いたこちらに落ち度があります。どうか頭を御上げ下さい」


俺が頭を下げるのよ良しとしない返事をする彼女の言葉に、まずは頭を上げる。


「では、改めて、申し訳ありませんでした。当館では警備機構として、魔術阻害の結界と魔力反応探知の機能を持つ技工具を多数設置しております。

よって階段か、この転移装置を使った移動以外の方法で移動された際や、魔術を当館で許可なく使った際、先ほどのように警鐘が鳴り響きます」


なるほど理解。俺二つやっちゃった訳ですね。すんません。ほんとうにすんません。


「よって、転移魔術が使えるお客様にはご不便かもしれませんが、他のお客様の安全の為、当館での転移魔術の使用はご遠慮ください」

「あ、はい、すみません」


そうよねー。こっちの世界そういう概念というか、考え方が薄いと思ってたから、大失敗したわ。

こういう所も有るよね。一個賢くなった。


「それにしても凄いですね。あの結界を突破しておきながら、なんの反動も受けていないなんて」

「あー、その点に関しては、もっと過酷な環境下での訓練とかやってたので」

「・・・なるほど、流石ステル様と共に歩むお方という所ですか」


いや、そういう訳じゃないんですけどね。そもそもあの人達は、最初はそんなこと関係なく俺鍛えてたし。

まあ、今は多少関係あると思うけど。


「転移装置の使用も、貴方でしたらご自分で自由に使えると思いますので、お好きにお使いください」

「え、良いんですか?」

「はい、本来は、私どもが魔力を注ぎ、お客様をご案内する物ですが、どうやら貴方はあまりそういった事を好まれないようですので」


あ、なるほど。俺が一人で出歩いてるのを見て、あんまり人と関わるのが好きじゃないと判断されたな、これ。

ま、いっか。気軽に上り下り出来るなら、それ自体は助かるし。

・・・毎回人呼ぶのも地味に気が引けるし。素敵に小市民だわ。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、使わせてもらいます」

「はい。これからお出かけですか?」

「ええ、ちょっと食材を買いに。この辺だと、どの辺が一番近いですか?」

「食材、ですか?あの、良ければ朝食をお持ちしましょうか?」

「あー、いえ、今皆寝てるんですよ。もしかしたらさっきので起きてるかもしれないですけど」

「・・・おそらく起きているかと。警鐘は館内全体に鳴り響いていますし、今この階層にお客様がおられませんので流していませんが、他の階層には先ほどの警鐘の説明を流しております。おそらく、起きておられるかと」


あー、大音量だったもんなぁ。起きてるか、そりゃ。


「えっと、じゃあ、ちょっと部屋に戻って様子見てきます。起きてるようなら、お願いします」

「はい、わかりました」


俺は転移装置に魔力を注ぎ、中に入り、上層に移動する。

転移を使うより、少しだけ魔力消費少なくて済むけど、魔力を貯める行為が有る分、少し遅い。

と言っても、一回使う分だけ注ぐなら、たいして差はないが。


部屋に戻ると、ハク以外は起きていた。ハクさん神経図太すぎるだろう。

イナイもシガルも事態の内容を予想していたようで、館内説明で、何が起きたのかを大体察していたらしい。

若干あきれられつつも、しょうがないなという感じの反応をされた。怒られるかなーと思ってたけど、そうでもなかった。良かったぁ。

あ、朝ご飯は美味しかったです。

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