第299話森の街を歩きます!

「なんか、不思議な街だねぇ」

「そうだな、空が見えない。木漏れ日の中で生きる街って感じだな」


空を見上げ、素直に日が入らない街を見て、呟いた言葉にイナイが応えてくれる。

木漏れ日の街、か。字面だけだと結構ロマンチックだな。


「前の村の方が、素直に切り開いた感じがして、どっちが山奥か分からないね」

『どっちもあんまり変わんない気がする』


シガルはむしろ前の村の方がここより切り開かれてる印象のようだ。

ハクにはどっちみち山なんだろうが。いや、どっちみち、村でも街でも関係なく、『人の住んでいる所』なのかもしれない。


「・・・でも、偶に、開けてる。木も、人の手で植えられて、整理されてる」


クロトが街をキョロキョロしながらいう言葉を聞いて、その上で改めて周りを見てみる。

確かに、言われてみればきちんと整備されている感じもする。森の中の街であることには変わりないが、だからと言って未開の山道や、けもの道を歩くような不便さは無い。

あくまで木々が茂る中、歩きやすい道が有る。


「クロトの言う通り、区画でもっと開けたところが有る。日がしっかり当たらないと育ちにくい植物も有るからな。ただ、この街は昔からこうやって森の中を整備して生きてきた。

森の恩恵を受けつつ、それに頼らず、自身での開拓もしていった街だな。亜人にこういう生き方する種族がいて、そういう種族が住み着いてるのも大きいだろう」

「あ、そうなの?」

「あれ、知らなかったのか?この国は、割と亜人の多い国だぞ。どちらもが穏やかな気質な所が肌にあったんだろうな」


そうか、そういう事情の国も有るのか。

そっかそっか。その穏やかさは好きだなー。俺この国は好きだな。


「まあ、何でもかんでも上手く行ったわけじゃねーけどな。それでも、彼らは上手く共存してるのが、この国で、この街だろうな」

「こういう国が増えればいいのにね」

「全くだ。無駄に争って、資源を浪費して、人命を失って、なーにが面白いんだか」


イナイの説明に嬉しくなって、笑いながら言うと、イナイは何かを思い出したように物凄く不満そうに言った。

・・・なんかあったのかな。


「イナイ、どうしたの?」

「・・・すまん、こっちの話だ。今は関係ない。ちょっと戦争の話を聞いてな、思い出してちょっとむかついただけだ」

「そっか」


戦争か。この穏やかな空間に居ると、別世界の話に聞こえる。

けど、やっぱり、常に傍に有る物なんだろうな。特に、イナイ達みたいな立場の人には。


「・・・なんか、物凄く見られてる?」


シガルが人の視線が気になるようで、首を傾げる。

確かに、さっきから見られている気がする。ただ、それは俺達というよりも、グレットに行っている。


「まあ、そんだけでかけりゃな。めったに見れねー大きさの獣見たら、そりゃ皆見るだろ」

「・・・でっかいね」


クロトがポンポンと叩くと、グレットは嬉しそうにグルグルと鳴く。グレットとクロト、なんか相性良いな。なんか波長が合うのだろうか。


『・・・ん』


ハクがポンと叩く。俺が見た限り、物凄く優しかった。間違いなく優しかった。俺はそう断言できる。

だがその瞬間、グレットはビクっと跳ね上がり、尻尾を丸めて怯えつつハクの方を向いた。


『・・・なんでだ!』


その反応がお気に召さなかったようで、ハクはグレットを怒鳴りつける。グレットは反射的にシガルの後ろに隠れ、キューンキューンと、図体に似合わない鳴き声で、隠れない巨体を隠そうとする。


『・・・なんでだよう・・・』


なんか、猫好きが好きだーって突撃して、逃げられる人みたいだ。ハクの場合は怖がられてんだけどさ。

グレットも中々慣れないなぁ。

一時なれるかなーって気配も有ったんだけどな。何でダメなんだろ。本能的な物なのかなぁ、やっぱり。

でもそうなると、クロトが怖くない理由が良く解らない。


「あはは、グレット、大丈夫、大丈夫、怒られてないから」

「・・・大丈夫」


シガルとクロトでグレットの頭を撫でると、少しずつ落ち着きを取り戻す。


「・・・きゅる~・・・」


あ、ハクが落ち込み過ぎて、完全に言葉になって無い鳴き声になってる。ドンマイ、ハク。

まあ、生き物って慣れるものだし、ゆっくり慣れて行けば良いと思うんだ。

シガルがちゃんとハクも慰めてるから大丈夫だろ。


「ところで、こういう所の宿だし、グレットは部屋には入れられない感じかな」

「というよりも、基本は入れられないんだよ。あの村が例外だ。一軒家好きに使わせてもらったからな」

「あ、そっか。広かったもんね」


普通に庭付き一戸建てで大型犬を家に居れてるようなものか。馬よりデカいけど。

寝転がると部屋の半分近く占領してる状態だったな。でかいでかい。


「ふと思ったんだけど、こいつ特別料金とか取られるような大きさなんじゃ」

「・・・今更かよ。こいつ引きっとった街での支払いはそうだぞ。普通に1つ分だと狭いから区切りを取ってもらった」

「え、そうなの!?」


俺の疑問に、呆れたように答えるイナイ。だがそこで、シガルが驚く。シガルも知らなかったみたいだ。

俺は勿論知らなかった。はっはっは。


「ご、ごめんなさい!お姉ちゃん幾ら?ちゃんと払う!」

「あ、ああ、わりいわりい、気にすんな。元々分かってたからな。それにそんなにたいした額じゃねえよ。あたしらの宿泊費の方がよっぽど高い」

「ほ、ほんとに?」

「ああ、大丈夫だ」


焦るシガルの頭を優しくなでながら応えるイナイ。シガルも知らなかったのか。

一応グレットはシガルの物なので、シガルが支払いを負うべきって思ってるんだろうな。


『食事類は私達で用意してるんだし、良いんじゃないか?』

「それとこれは別だよぉ」

『そういう物か?』


ハクのシンプルな思考で良い気もする。シガル個人でっていうよりも、皆で飼ってる感じするし。

食事代浮いてるし、良いと思う。


「俺も出そうか?」

「良いよ別に。めんどくせえ。どうせ宿代後で渡してくるだろ、お前」

「まあ、そこはね。なんなら稼いだ額全部渡しといても良いけど。必要な時言うし」

「お前、あたしを信用しすぎだろ」

「え、イナイ以上に信用できる相手なんて居ないと思うけど」

「・・・あそ」


イナイはそっけなく応えるが、若干照れてるだけだと思う。可愛い。

でも実際、俺にとってはイナイが一番信用できる相手で、信頼できる相手だ。


「まあ、信用は嬉しいが、自分で持ってねえと、いざという時困るから持っとけ」

「へーい」


まあ、そりゃそうね。無一文は困るね。


「それにお前ら、普通なら稼ぐのに数年かかる額、既に稼いでんだぞ」

「あはは、あたし、旅し始めるまで、こんな事になると思って無かったよ」

「シガルは旅に出て、大分逞しくなったな」

「ほんと?なら嬉しいな。目標はお姉ちゃんに並ぶことだからね!」

「おう、頑張れ」


シガルがいつもの癖で拳を作るのを見て、イナイはその頭をがしがし撫でる。

俺この旅で、既にこの二人の信頼関係が、俺より凄いのが解っちゃってるだけに、なんかこう、ね。

自業自得なんだろうけど、ちょっと寂しい。


「さて、着いたぞ」


雑談しつつ歩いているうちに、目的地に到着。


「・・・なんか、でかい」

「お、おっきいね」

『なんか縦に長いな。倒れないのか、これ』


珍しく高層ビル的な建物がそこに有り、上の方が木からはみ出ている。おそらく上から見えた建物の一つだろう。

それにしても高い。この世界の建築技術でも、こんな高い物作れたのか。

・・・倒れないよね?


「ね、ねえ、イナイ、これ、大丈夫?」


若干不安になって、イナイに聞く。が、それに帰ってきたのはニヤッとした笑いだった。


「さて、いくぞー」


俺の言葉に返事をせず、そのまま建物の中に入って行くイナイ。

大丈夫だよね!?これ大丈夫だよね!?

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