第298話国の立て直しですか?

「労働組合はなんと?」

「規定通り、貴国が組合に変わらず有る事を約束するならば、組合としては貴国に何ら制約を設ける物では無い。とのことです」

「相変わらず、人間味が有るのか無いのか判断に困る組織だな、あそこは」


部下の報告に苦笑しつつ、敵に回すと面倒くさい組織を敵に回さずに済むことに、とりあえず安堵する。

今回の内乱、組合を通して雇われた傭兵も多数いた。勿論、王城で俺が切り捨てた連中の中にも。

本来、反乱軍として戦い、国に負けた。であるならば国としては、そこに属していた人間への処罰なりなんなりという話になるが、組合を通してとなると話が変わる。

組合を通して傭兵として雇われたという事は、国家反逆の罪ではなく、あくまで戦力として扱いを受けた存在であり、責は全て雇った人間に帰属するという物。


つまり反乱に参加しても、あくまで組合から降ろされた仕事という事で、個人は罰される事は無い。

だが、その代り良い事ばかりでもない。傭兵として参加という事は、美味しい所にありつくことはできないという事だ。

組織そのものがこけた時の不利益がない代わりに、大勝利した時の利益も存在しない。あくまで契約時の支払いのみという事だ。


「今回参加した傭兵共は、可哀そうにな。勝利を目前に、無事仕事を終えられると思ってたんだろう」

「切り殺した陛下がおっしゃられますか?」


俺の呟きに、苦笑しながら応える部下。それもそうだと思うが、あの場で躊躇も加減もする訳にはいかなかった。

組合の傭兵共には、偶にとんでもないのが混ざっている時が有る。今回はそれが無かったが故に、単身の快進撃などという事が出来ただけだ。

むろん、部下の存在が有ったからこその単身突撃ではあったが。あの場にあいつ以外の部下も複数人潜伏していたからな。

流石に何の保険も無しに突撃するほど馬鹿でもなければ力量も無い。俺は俺より強い存在を知ってるが故に、自身を止められる存在がいない等とは思えん。


「ミッツェ、ケネレゲフからの報告は?」

「まだですね。幾らなんでも、しばらくは戻ってこないのでは無いでしょうか。彼がどれだけ優秀といっても、限度がありますよ」


部下の一人に、国内の反乱軍の残滓を潰す仕事を任せている。

正確には、王が変わったお触れを国中に撒く仕事と、それに反乱軍が従うかどうかの調査だ。と言っても、従わなければ潰すだけだ。あいつでも流石に時間がかかるか。

ただ、あいつは護衛としても居てほしい存在だ。けどあいつ以外動かせないのも現状。ままならんな。


「あいつが傍に居ないと、不安だな」

「なら、他の者でも良かったでしょうに」

「ぬかせ。あいつ以外、今は単身で動かせん。お前らの事は信用してるが、信用だけじゃ動かせん。行った先で死なれちゃ困る」

「嫉妬しますねぇ。私達では役に立ちませんか」

「それこそ馬鹿を言うな。お前達がいなければ何も出来ん。いくら武力が有ろうが、俺一人で何ができるものかよ」


部下が他の部下に嫉妬するというが、俺にとってはお前らも居なくては困る。俺が信用できる部下達だ。

こいつらが居るからこそ、まだこの国を捨てずにいるようなものだ。

俺は親父殿と違い、自分の実力を、自分の能力を理解している。何よりも人間が一人では何も出来ない事を知っている。


「お前達がいるから、俺はここにいる。お前達がいれば、この国が無くなっても、俺はやっていける。下らんことを言うな」

「変わりませんねぇ、そういう所」

「王に成ったからって、何が変わるものかよ。俺は母の事が無ければ、お前らと共に国を捨てても良かった。そのついでにこの国滅ぼすのも面白かったかもしれんがな」

「けど、継いでしまった以上、やる事はやる、ですか」

「当たり前だ。権利には義務が有る。義務を果たさず権利を振りかざす馬鹿とは違うという事を見せてやる」


親父殿とは違うという事を、国民に見せる。まずは、国内の立て直しの為にも、動かせる人間と、収入の把握が必須。

後、親父殿の息のかかっていた貴族は要らん。大半は反乱軍に殺されているが、いくらか生き残っている筈だ。その排除も必要だ。

後は、反乱軍から使えそうな人間も引っこ抜く。反乱分子を抱えるのは趣味ではないが、人手が足りん。あまりに従わねば潰すしかないが、使える物は何でも使う。


「組合にも、借りを作らねばな」

「そうですね。しばらくは自国内で回す事は無理でしょう。とはいえ、支払いには困りませんが」

「金なら有るが、金しかない。親父殿は本物の馬鹿だ。あれを使えばまだ戦えただろうに」

「私もあの金額を目にした時は、ため息が出ましたよ・・・」


何かと言えば、内乱時でも使わずにため込んでいた親父殿の資金だ。税からちょろまかした物なのだが、使うべきところにも使わず、自分の資産として隠してやがった。

あの膨大な金額を兵にまわせば、まだ戦えただろうに。大馬鹿者だ、あの親父殿は。

そのおかげで当面金には困らないというのも、なんとも。


「とはいえ、使い潰す訳にもいきません。いつまでも組合に支払いをし続けるわけにもいきませんから」

「解っているさ」

「今後どう、されます?」


どう。どうか。部下たちの視線は、俺が今後、どの方向に行くのかと問うている。

国の中でつつましく生きるのか。この国をもっと大きくするのか。


「別に俺は争いが好きなわけでは無い。挑まれれば叩き潰すが、こちらからはいかん」

「そう言うと思いましたよ。当面は国内の立て直しに専念ですね」

「おう。ただし、やるときは躊躇せん。その時はよろしく頼む」

「はっ」


正直なところ国なんてどうでも良いが、こいつらが快適に過ごせる場を作ると思えば、まだやる気は出る。

だからこそ、こちらから戦争を仕掛けるのは面倒くさいし、無駄だ。

あくまで戦争は仕掛けられてから勝利だ。その方が外聞も報酬も良い。


とりあえず親父殿いつまで幽閉してようか。出すと絶対面倒なので、出したくないな。

もう一生閉じ込めておいても良いんじゃないか?そう思い至ったときに、母の泣き顔がちらつく。



・・・母が帰ってくるまでにしておこう。母に感謝しろ馬鹿親父め。

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