第297話グレットは優秀でした!

『お、次の街ってあれか?』

「そうだね、あれっぽいね」


ハクとシガル会話を聞いて、イナイが車を止め、皆で下を見る。山の上から見える景色に、街らしきものが見えた。

山と森の中に建物が沢山あるという感じで、どこから山で、どこから森で、どこから街なのか良く解らない感じだ。

いや、もしかすると、あの一帯全てが街なのかもしれない。


「凄い所だね。街の中で迷子になりそうだ」

「・・・タロウさん達はいいけど、あたしは本気で危ない」


俺の言葉に真剣な顔で言うシガル。そんな事無いよ。俺も迷子になるよ。

だって俺、王都で何度迷子になったか。人を目印にした場合は辿り着けるけど、一人で気ままに歩いてると、結構迷う。


『私が居るから大丈夫だ』

「ありがとう。でも、なるべく自分で気を付けるね」


そう言えば、ハクは迷子になった事無いな。一度通ればほぼ迷わず目的地に行くみたいだし、知らない所を歩いてその帰りも特に迷わないし。

ハクは探知もなにも使ってないけど、問題ないんだよなぁ。そういえば探知なしで接近に気が付くんだよな、こいつ。


「んー、見える距離だが、遠いなこれは」


イナイが街を眺めながら呟く。直線距離ならそんなに遠くないが、山道を下らなければいけないので、まだそこそこ距離が有る。


「・・・まだ、つか、ない?」


壊れた人形の様な、なんとも不安になる動作で首を傾げながら聞くクロト。どうやら山道はクロトには鬼門のようだ。

やっぱり、クロトは白いままだから辛いのでは。とんでた時とか、真っ黒だったし。


「ねえ、クロト、黒いの少し纏ってみて」

「・・・いいの?」

「うん、ちょっとやってみて」

「・・・ん」


クロトは俺の言葉に素直に頷き、薄く黒を纏う。初めて会った時より、少しだけ黒さは弱めな感じだ。


「・・・あ、少し、楽」

「やっぱ、そっか」


やっぱり、クロトのあの黒は、クロト自身の能力強化とか、保護の役目も有ったみたいだ。


「クロト、車に乗ってる間、そのままになっときなよ」

「・・・でも」

「いいから。気持ち悪いの我慢してまで頑張らなくていいよ」

「・・・うん、ありがとう」


ぽやっとした顔で笑うクロト。うん、黒いのはなるべく使ってほしくは無いけど、だからってクロトが苦しむのは間違ってる。

前に約束した時だって、クロトの身を守る為なら使っていいって言ったんだから。


「・・・でもいつか、平気になる」


シガルと同じように、胸元で両手を握り、静かに闘志を燃やすクロト。車酔いってなかなか治らないって聞くけど、どなのかね。


「とはいえ、もう直ぐ日も落ちる。このまま行っても着くのは真夜中だ。今日はここで休んで、明日だな」


イナイが車から降りて、野営を宣言する。まあ、もう夕方だからな。高所からだから夕日がきれいだなー。

朝方の紫色な感じも好きだが、くれていく赤い感じも綺麗だ。

さて、明日は次の街に到着か。今回は今までで一番時間かかったな。あ、いや、一番は護衛しながら行った時か。















「えーと、このまま入って行けばいいのかな?」

「多分な」


森の中なんだけど、背の高い木々の間に道が有る不思議な感じ。木で作られたガードレールな感じ?

遠くの方に同じように道になっている所が有るのを見かけるあたり、おそらくこういう道なのだろう。


「そういえば、イナイはこの国には来た事無いの?」

「有ったんだけど、そん時はずっと馬車ン中いたからなぁ。身分証も、出す必要がなかったから、表に出てねぇ」


どうやら、馬車から出なかった模様。流石貴族様。


「イナイ、良く迷わずこれたね」

「お前、あたしが下調べなしで適当に走ってたと思ってんのか」

「あ、すみません」


そうですよねー。普通道調べますよねー。すみません、何も調べてないです。

あ、でもちらっと視界の端にシガルの顔が見えたけど、若干気まずそうな顔してた。


「さて、そろそろ、だと思うから、降りるか。そのまま街まで行くとやっぱりな」

「あいあい」


イナイの指示に従い車を降りて、車をしまう。そのままだと、やっぱり目立つもんね。


「シガルとクロトはグレットに乗ってな」

「えっと、お姉ちゃんは?」

「歩くが?」

「じゃあ、あたしも歩く!」


シガルは自分だけ歩くのが嫌なようで、イナイと同じが良いらしい。

クロトは、抱えて既に乗せてしまいました。


「・・・ぼくも」


うん、言う気がした。でもごめんよ、クロトの歩幅だと、時間かかるんだ。


「うん、ごめん。でもクロトの歩幅だと少し時間かかるから、のってて」

「・・・わかった」


少ししょんぼりしながら承諾するクロトに、少し罪悪感。


「街に付いたら、一緒に歩こう」

「・・・うん」


良かった、笑顔に戻った。まあ、街に付いたらゆっくりでも良いよね。


『いっそみんな乗ったらどうだ?』


ハクの提案と同時に、グレッドが吠える。


『ほら、乗れってさ』


どうやらグレットはハクの言葉に同意したらしい。便利だなぁ。


「んー、じゃあ、甘えるか」

「そういう事なら、よろしくね」


イナイとシガルもグレットに乗る事を良しというので、皆で乗る事になった。

俺は皆が良いならそれでいいや。主体性がないとかしったこっちゃない。






さてそれで、皆で乗る事になったのだが。


『なんで私だけはしってるんだよ!』

「・・・怖がられるから」

『うるさい!なんでお前が怖がられないんだ!納得いかない!』

「・・・知らない」


こんな感じでハクはブーブー文句を言いながらグレットの横を走っている。何故ならハクが乗ったとたん、グレットの手足が震え始めたからです。

しばらくそのまま歩かしてみたんだけど、流石に可哀そうになったのでやっぱ歩こうと言ったのだが、ハクが自分が言い出したからと自分だけ走っていくことになった。

別に走らなくても良いと思うんだけどな。


因みにグレットの走行は意外と快適。あんまり上下に揺れないので、結構のり心地いい。


「やっぱり早いね!」

「そうだな、歩くよりはあっという間につくな」

『もうちょっと早く走れると思うぞ?』

「そうするとまたクロトが酔いかねないから無しで」

「・・・無し」


そんな感じで穏やか(?)に次の街まで着きそうです。

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