第294話村で皆と別れをします!

「道中で食べてね」

「はい、ありがとうございます」


村長さんから今日採れた作物を受け取り、お礼を言う。

かなり山盛りある。多分グレッドに運ばせる前提で渡されているんだろう。


「皆気を付けてね。暫くは山道だから、獣にも注意してね。まあタロウちゃんとハクちゃんがいれば大丈夫だと思うけどね」

「いえ、ありがとうございます。ちゃんと気を付けます」


こちらを気遣ってくれる村長さんに再度お礼を言う。ここにいる間、心地が良かったのは、村長さんのおかげでもあるな。

ここにいる間、なんだかんだ気にかけてくれていた。


他のみんなも村の人達に声をかけられている。大体今後の事を気にかけてくれている言葉が多い。

なんか、イナイは家具の類を直したりしてたらしく、そのお礼も言われてるな。ハクも肉の提供が、思っていたより感謝されている。

クロトは何というか、お爺さんお婆さんの心を射止めてたらしく、別れをかなり惜しまれている。


「本当に寂しいね。また近くをよる事が有ったら、来て頂戴ね」


優しい笑みで言う村長さんを嬉しく思いながら頷く。婆ちゃんは物心ついた時に居なかったので、いたらこんな感じだったのかな。


「また、いつか」

「ええ、楽しみにしてるからね?」


お世話になった感謝を込めて、深く頭を下げる。そこまで長い日数いた訳じゃない。

けど、それでも、楽しい数日間だった。心穏やかで、ゆったりできる、温かい時間だった。

旅に出て、目新しい物を見たいくせに、ゆったりした時間に癒されるってのも変な話だけど、それでも暖かくていい時間だったんだ。










『またなーーーー!』

「じゃあねーー!」


ハクとシガルが手を振りながら歩く。イナイとクロトも同じように手を振っている。

グレットが、別れを告げるように大きく鳴いたのを見て、やっぱりこいつ結構話理解してる気がしてきた。

あ、俺も一緒に手を振ってますよ?


「良い人達だったね」

「そうだな。小さい村ってのも有るんだろうが、それでも暖かい村だったな」


イナイもどうやらあの村の人達を良く思っているようだ。


「あ、車はもう少し向こうに行ってからな」

「はーい。じゃあ、グレット、それまで荷物をお願いね?」


イナイの言葉にシガルが元気よく応える。グレットは結構な荷物を持たされているのに何やらご機嫌だ。

歩き方が若干スキップしてるように見える。この図体なのに軽やかだよなー。間違いなく100キロ以上あるのに、足音が殆どしないんだよなこいつ。


『次はどこに行くんだ?』

「一応この国の王都に向かおうかなって」


なので、今は王都の方に向かう街道を歩いています。街道という名の山道だけどな!

一応馬車の類が通れる程度の広さは有るのだが、いかんせん山道である。しばらく歩けば平坦な道になるらしいが、それすなわちしばらくはこのままという事だ。

ただ、王都の前に街が有るらしいので、まずはそこに向かう。


「グレットがいて助かったねぇ」


貰った食材を皆で抱えて山道とか、動きにくいにも程が有る。


「まあ、一応腕輪が有るから、何とかなるっちゃなるけどな」


そうね、今までも結構そうしてるもんね。


「まあ、居るなら居るで頑張ってもらうさ。な」


イナイがグレットをポンポンと叩くと、応えるように鳴くグレット。基本返事するなこいつ。

もしかしてそのうち言葉喋りだしたりして・・・・。流石にそれは無いな。


「次の街まで結構かかるんだっけ?」

「そうだな。車使ってもあと2日かかるな」

「結構かかるね。いや、まだ早い方なのかな?」


この世界だと、馬車や、徒歩が普通だ。徒歩なら休憩がいるし、馬だって休ませてあげないといけない。

となると、必然到着は遅くなる。もちろん馬を使い潰すなら別だろうけど。


「もう少ししたら、少し高所になる。そこで車を出そう」

「うん、わかった」


ふと、クロトを見る。グレットの荷物の中に混ざっている状態のクロトは、ぽやっとしながらグレットに身を任せている。

まあ、クロトに歩かせたら、歩幅的な意味で大変だろうから、この点もグレットがいてよかった。

今後もこういう事が有るかもしれないのを考えると、グレットが居るのは意外と便利なのかもしれない。


「・・・なあに?」


俺の視線に疑問を覚え、首を傾げながらクロトが聞いてくる。


「ん、グレットがいてよかったね、ってね」

「・・・うん」


どうやらクロト自身も、今の状態が助かっていると思っているみたいだ。最近のクロトは、黒を出してない。

約束を守ってるのも有るんだろうけど、なんか、意図的に出さないようにしてる節が有る気がする。まあ、確かめた事は無いから、なんとなくでしかないけど。


「そう言えば、この国って農業が基本なんだよね?」

「ああ、そうだな」

「街のほうも、そうなの?」

「山手の方は畑、街の方は果樹園が主だったかな」


なるほど、住み分けが有るのか。山手の方にも果物が無い訳じゃないが、確かに果物の類は少なかった。

平地のビニールハウス的な感じなのかもしれないな。あと、果樹園にするための平地か。

楽しみにしてよっと。

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