第292話イナイさんが又何か作ってます!

「えーっと、なんかここ数日暴走しててすみません」


ぺこりとイナイに頭を下げる。なんかこう、ちょっとやりすぎた気がするんだ。

こないだの段々畑とかね。ハクが木材ガンガン運んでくれるので、すげー楽だった。


「んー、いつもの事だろ」


イナイは細かい部品をカチャカチャといじりながら答える。ここ数日、イナイは何かを作ってた。

イナイにしては珍しく、作ってる最中ずっと魔術を使っている。なんか目元に魔力が集まってるから、細かい物を見ようとしてるんだと思う。

傍から見る分には、腕輪の類かなと思うんだけど、中央の部品の中に、色々歯車が内蔵されているので、ただの腕輪ではではないんだろう。ぶっちゃけ時計っぽい。

あと、細かすぎて近寄るとまずそうで近寄れない。実は若干離れて会話してる。イナイも集中してるせいなのか、返事が上の空な部分が有る。


しかし、いつもの事か。俺そんなにいつも訳の分からないことしてるかな。

いや、してるか。イナイにしたら何してるのって事、多いか。


「タロウさんが時々、良く解らない方向に力を入れ出すのは、いつもの事だもんね」


シガルにまで言われた。そうすか、俺いつもそんなんすか。

シガルはグレットをブラッシングしている。ハクもなぜか一緒になってやっているんだが、ハクが触るたびに微妙に震えてるんだよな・・・。

クロトはなんか、グレットの目の前で座ってる。何してるのあの子。


「うっし、出来た。ほれ、タロウ」


イナイは仕上げと、ドライバーでネジを止め、出来たものを俺に投げつける。慌てて受け止めて、それに目を向けると、良く知っている物だった。

これ、時計だ。それも俺の腕時計に似てる。時間表記もそっくりだ。つーか、本当に時計だったよ。


「イナイ、これって、まさか作ったの?」


イナイに尋ねる。するとイナイは伸びをしつつ応えてくれた。


「一回お前の時計バラしていいか聞いたろ?あれ見本に作ったんだよ」


そんな事も有ったっけ?全然覚えてない。

多分樹海で色々やってた頃に安請け合いな返事をしたんだろう。そういえばしばらく時計が部屋に無かったような気がする。


「でも、そのままだと、使えないでしょ、これ」

「そのままだとズレていくから、ちゃんとこの世界に合わせて調整したぞ。そのせいで何回作り直したか分かんねーけどな」


何回か作り直しただけで完成品に到達できるのがおかしい。

けど今の返事だと、作ってから数日確認とか、そういうのの繰り返しだろうから、そこそこ時間かけて作ってるな。

もしかして、かなり最初の頃から作ってたんじゃないだろうか。


「便利だと思ってな。この世界には、正確に時間を計る道具は無い。太陽や星の移動を見て、時間計ってる事の方が多いぐらいだからな。きっちりと正確な時間合わせ、なんて無理だ」

「それで、これを?ていうか、完成品貰っちゃっていいの?」


イナイの言葉が真実ならば、この時計はこの世界で初のクォーツ時計ではなかろうか。

確か。電池で動く時計ってクォーツ時計だったよね?つーか、機械式時計すっ飛ばしちゃってるんだが、いいのかこれ。いや、むしろ機械時計の方が複雑だったんだっけ?

それにしたって、よくばらしただけで仕組みが分かるなこの人。


「ああ、それもう既にかなり作った後の、安定して作れるようになった物の一つだから、安心して受け取れ」

「え、そんな大量に作ってんの?」

「おう、もう王都にはいくつか有るぞ。そういえばお前にやってねえこと思い出してな。やるよ。腕に巻く形の方が良いんだろ?」


多分完成品は、ブルベさんに渡してるのかな。なんか、新しい物作ったら報告みたいなところあったし。


「ちなみに『デンチ』だっけか。それがちょっとわかんなくて困ったけどな」

「ああ、そっか。この世界、魔力水晶を動力源にしてるもんね」

「おう。なので同じく、それにも使わせてもらった。魔力は極小で動くから、かなり長期間持つはずだ」


便利だなー、魔力。いや、むしろ、魔力で調整されてるのかもしれない。

魔力っていうのは、この世界の力みたいな物なところが有るから、世界の流れに合うように調整されるのかも。


「有りがたくもらっておくよ」


俺は久しぶりに、左腕に時計を巻く。なんか、本当に久しぶりだ。こっちでは役に立たないと思って着けて無かったからな。


「喜んでもらえたようで何よりだ」


イナイがすごく嬉しそうな顔で俺に言う。俺、そんなに嬉しそうにしてたんだろうか。


「タロウさん、すっごい嬉しそう」

「・・・ここ最近で、一番笑顔」

『そうか?』


シガルとクロトも、俺が喜んでいると見えるようだ。ハクさんはあんまり興味ないのか解ってないそうです。

しかし、そっか、嬉しそうだったか。


「大事にするよ」


触った感じ、材質は普通の物っぽいので、荒っぽく使うと、多分壊れる。

狩りとか、動きの激しい時は気を付けないと。


「大事にしてくれるのは有りがたいが、壊しても直してやるから大丈夫だぞ」

「うん、それでも、きをつけるよ」

「そっか」


俺の返事に、目をつむって嬉しそうに応えるイナイ。

この時計は、俺の時計とそっくりだ。わざわざ、そっくりに作ってくれたんだ。

流石にそこに気が付かないほど、間抜けじゃない。大事に、しよう。








「あ、そうそう、この村そろそろ出発しようかって相談しようと思ってたんだけど」

「ん、良いのか?」

「へ?」


村を出る話をすると、むしろ俺が確認された。何で・・・とは言わない。今回俺暴走しまくってたからな。

まあ、畑は、任せよう。あれから数日たってるけど、特に問題もないみたいだし。


「えっと、うん、俺は」

「そうか。なら明日、この家大掃除して、村長に礼いって、明後日出発でいいか?」

「うん、お願いします」


そうだね、借りた家をきれいにして返さないとね。一応基本的に軽くは掃除してるので、そこまで大変じゃないとは思うけど。


『じゃあ私は、作物の礼に、また肉とって来よう』

「そうだね、この村には、お礼になるね」


ハクは、何度か山に入って、狩りをしに行っている。その際、おすそ分けと、村に配ってかなり喜ばれていた。シガルも一緒にいってることが多いので、二人とも感謝されていた。

この村でも肉を食べないわけでも、狩りをする人間が居ないわけでもないのだが、今はそっちの仕事ができる人間が街に出払っているらしい。

なんでも、作物を運ぶ護衛だそうだ。人間より、野生の獣からの護衛らしい。


「じゃあ、明日はそういう事で」


纏める荷物もほとんどないし、掃除もそこまで時間かからないだろう。

いや、しかし、この数日楽しかったし、癒された。やっぱ俺、田舎暮らしの方が楽なのかな。

まあ、何年も畑仕事は大変だと思うから、軽々しく言えないけど。

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