第290話正気に戻りました!
爺ちゃん元気ですか?
この国に来て、この村に来て、はや数日。
あれから俺は、変わらず農耕作業に勤しんでおります。
「何してんの俺」
新しい畑を作り終わって正気に戻る。なんか楽しくなって、ハクと一緒に山切り開いちゃったよ。
全力で魔術使って、一日で段々畑作っちゃったよ。馬鹿じゃねえの?俺本気で馬鹿じゃねえの?
『タロウ!次は何する!?』
ハクさんがとても楽しそうです。この人は正気に戻らないっていうか、その時の楽しいを優先するので全く問題ありません。
・・・俺も変わんねえわ。
ていうか、イナイも一向に止める気配がなかったんですけど。シガルも割と楽しんでるし、グレットも意外と楽しそうだ。
あいつ木材とか収穫物とかいろいろ運ばされてる筈なんだけどな。
「おーい、タロウちゃーん!ハクちゃーん!」
遠くから俺とハクを呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると、村長さんのようだ。多分経過を見に来たのかな?
この土地、村長さんの土地なのよね。
何度か最初の時のお詫びと、村の作業の手伝いのお礼に食材を貰っていて、その際にご飯をごちそうしたりで、世間話をする機会がいくらかあった。
なので、何時聞いた話だったか忘れたが、村長さんに、正確には村長さんの息子さん達がどうにかしたいと話していたのを聞いて、やりましょうかなどと言ったのが事の発端だ。
最初村長さんは断った。いくらなんでもお客人にそんな重労働させられないと。正直やって思ったけど、普通断るわこんなん。
俺は魔術があるし、ハクと一緒にやったから全然苦じゃなかったけど、普通だったらきつすぎる。
何がきついって、やる予定だった規模が普通にでかすぎるのと、森の魔物や野生動物の問題も有った。
勿論、人間側のエゴで山を切り開いているので、襲われるのは仕方ない。こっちがテリトリーを犯しているんだから。
ただ、周り山だらけなので、この山一つ開く程度なら、そこまで問題ないだろう。残っている山に逃げると思う。
つーか、上から見たらわかるけど、本気で彼方まで山だらけなんだよな。見事に山しかねえ。一応街と呼べる所に繋がる道は有るし、ウムルに出荷するための道も有るけども、やっぱ山しかない。
とりあえず村長さんの呼びかけに答えようかね。
「ハーイ、今行きまーす!」
『降りるのか?』
「うん」
ハクは俺に確認を取ると、俺を掴んで空を飛び、村長さんの所まで飛んでいく。
「止まるとき、気を付けてくれよ」
『わかってるよ』
勢いよく村長さんに体当たりとか、シャレにならないので釘をさしておく。まあ最近はあんまりそういう事言わなくても良いと思うようにはなってるけど。
まあ、偶にやってくれるけどな。こないだの竜のまま外に出て行こうとしたのとか。
「ハクちゃんは凄いねぇ。空を飛べる人なんて、初めて見たよ」
『すごいだろー』
村長さんの言葉に、にこやかに答えるハク。おかしいな、年齢だけを考えたらハクさんの方が年上なんですよ?
まあいいや、今更だし。
それにしても村長さん、ハクが飛べる事実を知っても、かなりノンビリな反応だ。なんかこういうの良いよなぁ。
最近『亜人』に対する反応が、きついのが多かったから癒される。
「どうしました、なにかありましたか?」
「いやあ、進み具合を見に来たんだけど・・・」
村長さんは出来上がった段々畑を見て言葉を失う。ですよね。俺もそうなると思います。
我ながら全力でやりすぎた。ハクと二人でやるとあまりに順調に開拓が進み、なんかこう、感覚がマヒしていた。
「これ、本当に二人でやったんだよね・・・」
「ええ、まあ」
『簡単だったぞ!』
お婆さんの呆れ半分、驚き半分の言葉に、胸を張って応えるハク。ハクさんはぶれないっすね。
俺はブレブレですよ。何暴走してるのかと、ついさっき気が付いた次第ですよ。イナイが止めなかったし、問題ないとは思うけど。
「とりあえず、魔物や野生動物を少し押しのけた畑なので、しばらくはそれらの対処も考えないといけないと思いますけど」
なんか蛇の様なトカゲの様な、微妙な両生類のようなやつとか、巨大なインコみたいなのとか、植物みたいなのとか、ワニみたいなのとか、色々居た。
でっかい虫も居て、見つけた時は少しビビった。強い弱いじゃなく、多脚の腹側を見て、少しぞわっとした。
小さければそこまでなんて事無いんだけど、でかいと流石に気持ち悪い。6や8ならまだともかく、数えきれないぐらい足が有る奴だったから、怯んでしまった。
まあ、ハクさんが退治したんですけどね。畑の肥料になってしまっております。
「その辺は、普段からある程度どうにかしてるんだ。自分達で対処を考えるよ。でも申し訳ないね、こんな立派な畑作ってもらって・・・」
あの魔物達どうにかしてるんだ。罠とかかな?
少なくとも、あのでかいインコ、お婆さんがどうにかできると思えんのだが。普通にお婆さんの2倍以上あったぞ。
小動物に限らず、こっちを襲ってこない動物はなるべく攻撃しないようにはしておいたけど、あいつは普通に襲ってきた。
まあ、こっちが攻撃したと思われたんだと思うけどさ。
「大丈夫、なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。それよりもこんな事してもらっても、たいしたお礼が出来ない事の方が問題だよ」
魔物の被害より、俺達への礼が出来ない方が問題、か。いいな、この人。この村も、村長さんも、良い人達が沢山だな。
それが知れただけでも、嬉しい。もちろんこの人たちがまったり過ぎるだけかもしれないけども、それでもやっぱり、この優しさは心地良い。
「それなら、またこの村に来たとき、美味しい作物をご馳走してください。後寝床もまた貸してもらえたら」
「そんな事で良いのかい?」
「はい、そんな事で良いです。なので、この村の畑、頑張ってやっていって下さい」
「ははっ、言われるまでもないねぇ」
お礼は貰った。もう、貰った。俺にとっては、この数日の心地よさが、礼で構わない。
少し。ほんの少しだけ、切ない気持ちになることは有るけど、懐かしい気持ちだった。楽しい時間だった。
じいちゃんちに遊びに来た時の、楽しさを、思い出した。だから、それでいい。
「それに、お礼っていうなら、もう一杯食べ物貰ってますから」
イナイが見て『良い』と判断する物ばかりを貰って、数日の食事は作られていた。
となると、それだけでもいくらになる事やら。村長さん達は良いからお食べと言って渡してくるので、有りがたく頂いたけど、売ればそこそこの額に成った筈の物だ。
「それに対する対価でやってもらったにしちゃ、大層な物を貰う事になるねぇ」
「俺達は拓いただけです。これを有効活用する術は持ってません。だから、うまく使って下さい」
『そうだぞ。好きに使え!』
畑を貰う事に少し戸惑いを見せるお婆さんに、気にせず使ってくれという俺とハク。
お婆さんはやや悩んだ後に、ふっと笑う。
「・・・不思議な子達だねぇ。ありがとう二人とも。村にとって有効になるよう使わせてもらうよ」
「はい」
『うん!』
よしよし。つーかぶっちゃけ、使い渋られても困るのもあるしね。俺達は別に定着するつもりは無いので、好きに使っちゃって下さい。
ただやっぱり、魔物の被害が少し心配だけど。まあ、そこはちゃんと考えが有るんだろうと思うし、信用しておこう。
さて、正気に戻ったし、そろそろ次の街に行く事を考えようかな。
長かったな、正気に戻るまで。俺ほぼ毎日野良仕事してたぞ・・・。
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