第289話畑を手伝います!

「腰に来るなぁ」


中腰で畑の作物を収穫しながら呟く。畑泥棒じゃないですよ?

単純に、大変そうだった畑の収穫の手伝いです。なぜこうなったのかは自分でも良く覚えていません。

なんか気が付いたら手伝う流れになってた。よくあるよくある。因みにシガル達は別の人の所の手伝いをやってる。


「タロウ君ー、少し休憩にしようかー」

「はーい」


俺は手伝いをしている畑の主に声をかけられ、作業を中断して腰を伸ばす。収穫が手作業だと、大変だなぁ。

数日なら良いけど、毎日やってたら腰いわしそうだなぁ。腰をトントンと叩きながら持ち主のおじさんの所へ歩いて行く。


「うちのかみさんの作った物だが、良かったら食べてくれ」

「ありがとうございます。頂きます」


大きな弁当箱を持ってきたおじさんは、俺にもそれを食べるように促し、俺は有りがたく頂く。

素朴な味が多いけど、材料が新鮮なせいなのか美味しい。村では出荷出来なかった作物なんかを使ってるらしいけど、普通に美味しいな。

まあ、日本と同じで、何か欠けてるとか、そんな事で出せないんだと思うけど。もったいないなと思うけど、ちゃんと消費されてる分良いかな。

あ、でも、煮物はめっちゃ味しみててうめえ。初めて食べる味だな。

基本、肉類は入ってない。村の人は栄養足りてるのかね。


「都会の子の口に合うかね?」

「美味しいです。特にこの煮物」

「そりゃあ、良かった。それはかみさんの得意料理なんだ」


俺の返事に笑顔になるおじさん。なんというか、この村の人はみんなのんびりしてるというか、ゆったりな空気で良いな。

もぐもぐと咀嚼しながら見渡す限りの広大な畑を眺める。普通に視認出来る範囲ではあるが、それでも広大な畑。それが全部このおじさんの畑だという。

村に住む住人の殆どが、同じ規模かそれ以上の畑を抱えているそうだ。この村、人数そんなに居る風には見えないのに、よくやっていけるな。


「この広さを、ずっと一人でやってるんですか?」


俺はなんとなく、おじさんに聞いてみた。これ一人ではきついなと思ったからだ。


「いやぁ、普段は時期のズレた物を作ってる連中に手伝ってもらったり、息子に手伝ってもらったりしてるんだけど」


息子さんいるのか。今日は何で一人なんだろう。


「ちょっと、手違いがあって、自分の畑は自分でやるしかなかったんだ。君たちが手伝ってくれて本当に助かるよ」

「手違いですか?」

「うん。たいしたことじゃないんだけどね」

「でも、息子さんぐらい手伝ってくれても良いんじゃ・・・・」


何か事情が有ったらしいが、それでも息子さんぐらい一緒にやっても良さそうなもんだけど。


「少し前に出て行ってね。こんな畑しかない村に居られるかーって。どこで何してるのやら。のたれ死んでないと良いけど」


どうやら息子さんは家出の模様。ノンビリ言ってるけど大丈夫?この世界危ない生き物沢山いますよ?

息子さん、ちゃんと生きてるだろうか・・・。

そういう事考えると、俺は運がよかったなぁ。リンさんに出会えて無かったらあそこで終わってただろう。

セルエスさんが居なかったら、俺多分一般人レベルのままだったろうし、色々と運がよかった。その代りここに至るまでの、本当に血反吐を吐く訓練が何度も有ったけど。


「息子さん、無事だと良いですね」

「まあ、危険な事は嫌いなやつだったから、危ない事からは逃げて上手いこと生きてるとは思うんだけどね」


ははっと苦笑しながら言うおじさんの顔は、それでもやはり心配そうに見えた。

世の中絶対なんて無い。俺はそれを良く知っている。この人も、きっと、それを理解して答えている気がする。

だから、何とも言えない気分になって、うまく返事が出来なくなってしまう。


「ああ、ごめんごめん、つまらない話をしちゃって」

「い、いえ、そんな事ないです」


つまらない話なんかじゃない。おじさんにとっては、絶対につまらない事じゃない。

駄目だな。つらい話をさせておきながら、その返事もロクに返せないとか。


「今日は、息子さんの代わりに働きますよ。こき使って下さい」

「はは、残念ながら、うちの息子は君ほど役に立たないんだよ」


今度はそれこそ大笑いするように言う。息子さん、サボリ癖でも有ったのだろうか。いやま、畑仕事が嫌いだったのかも。村を出て行くぐらいだしな。

まあ、だとしても、今日は一日手伝うんだ。代わりに頑張ろう。


「そう言えばタロウ君、どこまで終わったんだい?」

「あ、はい、この辺までは終わりました。籠は言われた通り、畑に置いてますけど」


俺は今日やる予定だと聞かされている範囲の収穫の、半分をやったと伝える。最初こそ素のままやっていたんだが、こりゃ終わんねえやと思い、強化を使って速度を上げたのでまあまあ早い筈だ。

とはいえ、あまり慣れてない作業なので、それでも遅いかもしれないけど。


「え、ど、どこまでだって?」

「あそこまでですけど」

「も、もう半分終わったの?」

「あ、はい」


おじさんはすでに半分の作業が終わった事に驚く。どうやら普通よりは早かったようだ。良かった良かった。

このままやれば、今日中に終わりそうだ。


「はぁー、元々こういう仕事でもしてたの?それにしても早すぎるけど」

「いえ、全くした事が無いってわけじゃないですけど、ここよりもっと小さな畑でやる程度です」


おじさんは感嘆の声で言う。そうか、ちょっと早かったか。ま、早く終わる分には良いんじゃないかな。

おそらくハクが手伝っているであろう所はもっと早いと思うし。あいつはこの手の作業に使える魔術が有るからなぁ。

俺も、やってみれば出来んことも無いのかもしれないが、流石にこの人達の生活を支える作物をダメにしかねない事はしたくない。


「本当に助かるよ。グレットだっけ?あいつを仕事に使わせてくれるのも助かったし」

「そこに関してはシガルに。あいつの飼い主はシガルなんで」

「よくしつけられてるし、懐いてるよねぇ。あれだけデカいとダバスでも言う事聞かなそうなのに」

「そうですね、シガルには凄く懐いてます」


ぶっちゃけ躾はしてないんすけどね。単純にハクが怖くて大人しい所も有ると思うし。ハクが色々と細かく言ってるらしいところも見かけたし。

ハクが居ると意思疎通が簡単で助かる。


「向こうもたぶん、今日は作業速いですよ。遅いのは多分クロトぐらいで」


クロトは慣れてないだろうし。あの黒いのを使わないとたぶん作業はそんなに早くないだろ。ただその代り、おじいちゃんや、おばあちゃんのアイドルになってる可能性がある。

そもそも最初に会った時点でなんか可愛がられてたので、今頃猫かわいがりされてる気がする。

子供って事も有るけど、見た目可愛らしいし、基本大人しいし、間違いないだろう。


「ごちそうさまでした」

「はいはい。たべる時もしていたけど、それは君の国での作法なのかい?」

「あ、はい。故郷の」

「へぇ」


手を合わせてごちそうさまをすると、面白そうに聞かれる。やっぱこっちにはない習慣か。

まあ、向こうの世界だって、国によって違うし、当然だと思うんだけどね。素手で食うのが作法な国だってあるし。


「さて、では、残り半分、終わらせますかね」

「助かるよ。今日はお礼にごちそうしないとな」

「あはは、期待してます」


あの煮物はおいしかったし、食べた事無い味だったし、素直に甘えよう。

さてさて、スピード上げていきますか!

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