農業国、のどかな地。

第283話田舎の村です!

「こりゃあごっついダバスだね。はい、身分証返すねお嬢ちゃん」

「はーい。でっかいでしょー」


国境地を越え、新しい国、ギレバラドア王国の北の地の村に辿り着いた。

村である。街ではなく村である。国境の地であるが、村である。むしろ国境だから村なのだろうか。

ウムルでもそうだったけど、ポヘタに行く人って少なそうだったもんな。ウムルには村すらなかったのを考えればこっちの方がましかもしれない。


村の入り口っぽい所には、兵士さんとはどう考えても見えないおじさんが、とりあえず作りました的な感じの槍をもって居眠りをしていた。

なので起こすと随分と驚かれてしまった。こんな村に物好きだねぇと言われてしまったぐらいだ。

話を聞くと、野生動物なんかが入ってきて悪さをしないように見張りを立てている感じで、人の出入りを確認するのが主目的じゃないそうだ。大分緩い。

ていうかその理由ならなおさら居眠りしてちゃダメでしょ。


「しかし、こんな翼の生えたお嬢ちゃんなんて初めて見たよー。それに堅そうなウロコだね。まるで竜みたいだね」


このおじさん、なんとなく見たままの感想を言ってるだけなんだろうけど、大正解です。

しかし、このおじさん、『亜人』に忌避感とかない人っぽい。ハクに対しても凄く普通だし。

この国はもしかして、こういう感じの国なのかな?だったらちょっと嬉しいな。


「えっと、あとはそっちのお嬢ちゃんだね。いいかい?」


おじさんはイナイに身分証の提示を口にし、イナイは素直に身分証を提示する。


「・・・えっと、ウムルの貴族様、だよね?これ、本物だよね?」

「はい。ですがあまりお気になさらず。ただの旅行者と思って頂ければ」

「はいはい。じゃあ返すねー。どうぞどうぞ。何もない村だけど、作物はこの村も美味しいから、ゆっくりっしてくといいよ。泊まるつもりなら村長の家の傍に空き家が有るから、それ使うと良いよ」


そう言って、とある方向を指さす。気のせいか、山なんですけど、そっち。え、何それ、あの山の向こうに住んでるの、村長さん。

しかし軽い。ポヘタと違って、貴族に対する反応がめっちゃ軽い。

もしかしてこの国、王様いるけど、貴族とかほぼ居ない国だったりするのかな。単純にここが田舎でそういう事に疎いのかな。


俺達はおじさんに促されるままに村に入る。つっても、囲いも殆どないけど。

ただ、作物を守る為か、村の中の畑の柵や、遠くに見える畑なんかを囲う柵は結構頑丈そうだ。

けど、これだと守るのは大変そうだけど、おじさんの緩さからみて、そこまで被害にあう事も無いのかな?


「なんか、緩い国だね」

「そうだな。けどこの村はこの国でも殊更緩いな」

「あ、そうなんだ」

「まあ、ここはこの国にすればど田舎だからな。しょうがない部分も有るだろうな」


あ、田舎なんだ、やっぱり。まあ、そんな気はしてたけど。

見渡す限り豊富な自然。と言えば聞こえはいいが、ほぼ山しかない田舎だ。

いやまあ、正直こういう所自体は好きなんだけどね。川無いかな。釣りがしたい。


「やっぱりみんな、ダバスだって思うんだね」


シガルがグレットを撫でながら言う。草食の虎ってすごい違和感あるけど、皆そっちの虎だと思うのは、至極普通だろう。

肉食で狂暴らしいほうの虎が、こんなに人に懐いてゴロゴロ鳴いてるとは思うまい。


「まあ、当然だろうな。特に、従えてるのがシガルだから猶更・・・」


そこまで言って、イナイはシガルを見て固まり、シガルをじっと見つめる。


「ど、どうしたの、お姉ちゃん」


シガルはいきなりイナイが自分を見据えていることに驚き、慌てる。


「・・なあ、シガル」

「な、なに?」


イナイは神妙な顔でシガルに近づいて行き、シガルは少し緊張した顔で応える。

俺は突然の事に動けなかった。


「・・・背、抜かれてる、な」

「へ?え、あ、ほんとだ!」


イナイはシガルに近づき、少し目線を上げる。本当に少しだけ、シガルの方がイナイより目線が上になっている。

いつの間にか、シガルがイナイを追い越していたようだ。


「もう抜かれるのか・・・」


イナイはあからさまに肩を落とし、ボソッと呟く。少しだけ気持ちはわかる。俺も男では小さいもん。

どいつもこいつも俺よりデカいのばかりだからね。


「お姉ちゃん、凄い顔で迫ってくるから、何かしたのかと思ったよ」


ほっとした顔で言うシガルに、イナイは恨めしそうなジト目を向ける。


「したじゃないか、あたしをこんなに早く追い抜いたじゃないか」

「そ、それはあたしにいわれても困るよ!」


恨めしそうな声のイナイに、慌てて返すシガル。


「ふふ、冗談だよ。成長が早いな、本当に」

「も、もう、本当にびっくりするからそういうのやめてよ」

「あはは、すまんすまん」


少し自分より上になった頭をポンポンと叩くイナイ。その手はとても優しいので、さっきのは本当に冗談だったんだろう。

いや、ほんの少し本気な気もするけど。


「シガルはお袋さんみたいになるのかね」

「・・・お母さんに似たら美人になれるんだろうけど、あんまり似たくないなぁ」

「お袋さんに似るの嫌なのか?」

「えっと、その、ちょっと事情が有って。別にお母さんの事は好きなんだけど。こう、身内ならではの知りたくない部分を知ってるから、似たくないなっていうか」

「ふーん。まあ、解らなくはないが」


シエリナさんか。似たくないと言いつつ、二人は少し似てると思うのは俺だけだろうか。

いやまあ、あの人とあんまり話した事は無いんだけど、似てると思う。特に親父さんの対応を見てるとすごく。


「でも、早く大きくはなりたいな」


そう言ってシガルは俺の腕に抱き着く。


「こうした時、もうちょっと顔が近くにあると良いなって思うし」


俺を見上げながら言うシガルに少しドキッとした。シガルはこういう時、年齢にそぐわない顔をするから驚く。

驚いていると、反対の腕を掴まれる。振り向くとイナイが抱き付いていた。


「なんだよ。別にいいだろ」


多分ちょっと驚いた顔をしていたんだろう。少し拗ねた感じでイナイは言葉を口にする。

この人狙ってやってるのかしら。可愛くてしょうがないんですけど。


「な、なんだよ」

「んーん。イナイは可愛いなって」


おそらくきっと、そんなイナイを見てにやけていたのだろう。イナイは普段の察しの良さを発揮せず、ちょっと慌てる。

俺はそれもさらにかわいく思えて、そのままの感情が口に出た。

この人ホント可愛いわ。


「・・・仲良し」


クロトがなんか若干嬉しそうに呟いた気がする。振り向くと、虎に乗っていた。

・・・なんだろう、虎にまたがる少女って感じで、個人的には不思議な光景。いや、クロトは男だけどさ。

この世界では普通なんだろうけど、やっぱり違和感。虎が大人しく従うというのが、なんとなくまだ慣れない。

まあでも、元の世界でも子供のころから育てれば懐いたりするけども。


『あ、ずるい!私ものせろ!』

「・・・僕に言わずに、この子に聞けばいい」


ハクが少し目を離している間に乗った模様。発言から、聞いて乗せて貰った感じなのかな?

もしかして、クロトも会話できるんだろうか。

ハクはクロトに言われて、若干唸りながらグレットにキュルキュル鳴く。するとグレットは耳を落とし、尻尾を丸め、少し怯えつつしゃがむ。


『・・・そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。ちょっと乗せてって言っただけなのに』

「・・・うなりながら言うからだろ」

『大体なんでお前は乗ってるんだ!何で怖がられないんだよ!』

「・・・知らない。この子が乗せてくれただけだ」


村の入り口からほぼ離れていない所でぎゃんぎゃん騒ぐので、ちらほらと居る村の人も何事かとこちらを見始めている。

流石に止めるか。さっきのおじさんは元気だなーって感じで見てるけど、のんびりしてるなあの人。


「はいはい、落ち着く。村の人が驚くからやめなさい」


間に割って入ると、クロトはすぐに大人しくなるが、ハクは頬を膨らませてシガルに抱きつく。


『いいもん、私はシガルが居るもん』

「あはは、また後で優しくお願いしてみよう?ね?」

『・・・うん』


拗ねるハクを慰めながら、歩を進めるシガル。その後ろを近づきたいけど近づけない感じでクロトをのせて歩くグレット。

なんかちょっと面白いな、これ。


「さて、とりあえず、泊めてもらえそうな所にまず向かうか」


俺の腕をまた取り、歩きだすイナイ。それに素直に従い俺も歩き出す。

しかし、あの山の方にあるっておおざっぱだな。俺とかイナイは探知が使えるから良いけど、普通の人は大変な事になるんじゃないのか。

まあとりあえず向かうかな。

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