第282話ポヘタ王国を出ました!
「流石にちょっと狭かったな」
笑いながらそんな事を言いつつ、運転をするイナイ。俺達は街を既に出発し、国境を越え次の国へ向かっている。
何が狭かったっていうと、後部座席の事だ。後部座席にはシガルとハク、荷台に虎が座っている。
主に虎がスペースを凄く取っているので、少し狭い。虎も荷台になる部分に押し込められているので、窮屈そうだ。
後部座席を少し前に動かしたのにそれでも狭いんだよなぁ。
「大丈夫ー?」
シガルが虎に声をかけながらなでると、ゴロゴロ言ってるのが聞こえる。図体がデカいせいか、凄い聞こえる。
まあ、狭いとは言っても、はみ出ている頭は後部座席に乗っているし、そこまでぎっちり詰め込まれているわけじゃない。
勿論頭はシガルの方を向いている。ハクからは極力離れているのが良く解る。
『なんだようー』
ハクが虎の胴体をぺしぺし叩くと、そのたびに虎はビクッとする。反応が両極端だよなぁ。
ただ、ハクもなんだか虎を気に入ってるみたいなので、叩く力も可愛い感じの筈だ。
『うー』
ハクは怖がられているのがご不満なようです。虎を捕えるに至った経緯を軽く聞いた時、ハクが追いかけまわしたと聞いたし、しょうがないんじゃないかな。
とはいえ、その虎に与えた選択肢が食われるか従うかって言ったのも凄い話だ。従わなかったらどうするつもりだったんだろう。
「なかなか慣れてくれないね」
『こんなに可愛がっているのに』
シガルが苦笑し、ハクは不貞腐れる。ハクさん的には可愛がっているようです。でも怯えてる虎にしたら怖い人が近づいてくるという認識でしか無いと思います。
でもまあ、最初の方はもっと怯えてたと思うし、少しは慣れたんじゃないかな。
「そういえば、名前はつけないの?」
虎が名前を呼ばれる様子が無いので、気になってシガルに聞いてみた。名前つけないんだろうか。
名付けない方が良いとかあるのかね。
「え、あたしが付けていいの?」
あ、やっぱりまだ名付けて無かったみたいだ。
「だって、シガルが主人でしょ?」
シガルは意外そうな声音で応えるが、この虎はシガルが主人だし、それならシガルが名前を付けるほうが良いと思う。
「そっか、じゃあ、どうしよ」
シガルは虎を見て、うーんと唸りながら首をひねる。今回は俺のネーミングセンスが輝く出番はない様だ。
すみません、調子に乗りました。許してください。
『エングレグレット』
「え?」
俺が誰に謝っているのか解らない謝罪を心の中でして、シガルが名前に悩んでいると、ハクが唐突に言った。えっと、それは虎の名前、なのかな。
シガルはハクが口を出したことに驚いている。
『何でか知らないけど、思い浮かんだんだ』
「・・・そっか。じゃあ、今日からこの子はエングレグレットだね」
『いいの?』
「うん」
どうやらハクの名付けた名前で決定のようだ。シガルがその名を呼びながら虎を撫でると、理解したかのようにゴロゴロとその手に顔をこすりつけながら鳴く。
なんていうか、図体はデカいけど、猫だな。いやでも、どことなく犬っぽい反応もするな。
それにしても以外だ。ハクが名前を付けるとは思わなかった。
「・・・エングレグレットか。なるほど、似てる」
ボソッと、クロトが口にしたのが聞こえた。似ているって、何にだろう。
俺はなんとなく、いつものパターンで、訪ねても答えが返ってこないじゃないかなーと思いつつ、訊ねてみる。
「クロト、何に似てるの?」
「・・・なんだろう?」
うん、やっぱり。俺の問いに、首を傾げながら答えるクロト。クロト君、ついさっき言った言葉の意味は解っててください。
いやまあ、クロトが悪い訳じゃないんだろうけど。クロト自身だって、解らないのに口にする事が有るって言うのは、気持ち悪いんじゃないだろうか。
今度そこもちょっと聞いてみようかな。
「ハクは、人族の神話を知ってるのか?老竜にでも教えてもらったのか?」
イナイが、唐突にそんな事を言い出した。なんで今その話なんだろう。
『いや、知らない。なんで?』
「その名前は、とある神が傍らに従えた神獣の名前だからだよ。てっきり知ってんのかと思ってた」
『そうなのか、初めて知った』
なるほど、神話に出てくる名前なのね。偶然・・・ではない気がする。クロトが似ていると言ったのも含めて、偶然とは思えない。いや勿論偶然の可能性も有るけどさ。
『何故か自然と出てきたんだ』
「もしかしたら何処かで話を聞いてたのかもね」
『かもしれない。老は色々話してくれたから、聞き流した話の中にあったのかも』
ああ、そうか、その可能性もあるのか。覚える気が全くない話で、頭の片隅に残ってたのかね。
まあ、真実は解らないけど、とりあえず虎の名前は決定と。でも長いな。
「これからその名前でよろしくね、グレット」
なんて思ってると、シガルさん普通に略称で呼ばれました。やっぱそのままは長いよね。
グレットは嬉しそうにシガルに顔をこすりつける。
『むー、名付けたのは私だぞー』
そしてまたハクはグレットをぺしぺし叩く。
だが、何かを理解しているのか、グレットは怯えつつも、ハクの顔をペロリと舐める。
ハクは一瞬きょとんとした後に、嬉しそうにグレットの顔をわしゃわしゃとなで始める。
あのー、嬉しそうなのはいいんだけど、どう見てもそれ嫌がってると思うんだ。止めてあげない?
「じゃあ、足環に名前も入れてあげないとね」
『そうだな!』
足環には、つけてる動物と、その飼い主の情報が入ってるんだっけ。
「次の街に行ってからな。この中じゃやりにくいだろ」
「はーい!」
『わかった!』
イナイが声をかけると、素直に従う二人。なんというか、やはり保護者だな。
年齢だけで考えるとハクが保護者な筈なんですけどね。ハクさん見た目通り若々しいですからね。
うん、俺精一杯オブラートで包んだと思う。
「国境にたどり着くまでまだ時間かかるし、寝てても良いぞ?」
「いや、起きてるよ。イナイ一人起きて運転させるのも、なんか悪いし」
「そっか」
イナイは俺の言葉に、こちらを見ずに嬉しそうに笑う。少し照れている感じがとても可愛い。この人ホントいつまでも可愛いよなー。ずるいわー。
「次の国って、作物の輸出が多い国だっけ」
「そうだな、基本的に農作物が主軸の国だ」
「自然も多そうだねぇ」
「多いっていうか、自然しかないっていうか・・・」
イナイが少し言葉を濁したが、濁してもそこまで言ってしまったら解る。つまりど田舎なんですね。
道もあまり舗装されてない感じになってきてるし、山が物凄く見え始めてる。もしかして王都もこんな感じの国なのかね。
「まあ、野菜は美味いぞ」
「そうだろね」
というか、農作物主軸でやってる国で、農作物が美味しくなかったら問題でしょう。
でも、おいしい物は期待したい。そこを楽しみにしておこう。
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