第279話作りすぎました!

「・・・どうすんべこれ」


ちょっと作りすぎた料理が、俺の目の前に鎮座しております。張り切り過ぎた。これ全部食えるかな。

ま、まあ、ハクがきっと食べてくれるだろう。たぶん。おそらく。


「しかし、遅いな。シガルはともかく、イナイまでこんなに遅いと思ってなかった」


領主との話が長引いてるのかな?

流石に全部作り切る前に帰ってこないと思ってなかった。冷めちゃうな。

まあ、鍋のまんま持ってきてるのも有るから、そっちは温めればいいけど。


「シガルについて行けばよかったかなぁ」


思わず口に出たが、そうすると今回の仕事なかったしな。

なんだかんだ、報酬は良いものだった。材料費出してないのにこんなに貰っていいのかと聞いてしまったぐらいだ。

それについて行けばよかったも何も、付いて来るなって言われてたしな・・・。

泣いてないです。ええ泣いてないですとも。


「うーん、寂しい」


最近本当に一人になると、とても寂しく感じる。以前はこうじゃなかったのにな。

・・・よく考えたらクロトも遅くね?大丈夫かな。なんて頬杖ついて考えていると、ドアが開く音がした。


「・・・ただいま」


クロトだ。今日も少し汚れてるな。随分楽しんで来たみたいで、まあ、結構結構。


「お帰りクロト。大分汚れたねぇ」

「・・・ご、ごめんなさい」


ありゃ、謝られてしまった。結構笑顔で言ったと思うんだけどな。実際怒る気なんて全くないし。

イナイじゃないけど、子供は汚れて遊んでこそだろう。服汚したのを怒る親は俺には理解できない。勿論礼服の時はお願いだから大人しくしててっていう気持ちはわかる。


「怒ってないから大丈夫だよ。とりあえず、汚れ落としに行こうか。着替えは有るし」


クロトの着替えの殆どはイナイが持ってるけど、いくつか部屋にも置いてある。

適当に着替えを掴んで、クロトの手を引いて、湯あみ用に作られた部屋を貸してもらう。

風呂は無いけど、わざわざ湯あみ用の部屋は作ってるって、変な所だと思う。ま、今は都合が良いけど。


「ついでに俺も汗流そう」


今日は結構頑張ったので、割と汗をかいている。ただ、汗を垂らすわけにはいかないので、そこは気を付けていた。汗たらしたら一発で薬がパーに成る物も有ったからね。

クロトが脱ぐのを眺めつつ、俺も服を脱ぐ。


「・・・お父さん、お湯頼まなかったけど、良いの?」

「いいのいいの」


頼まなくても作るからね。俺は魔術詠唱を始め、周囲の人間に悟られないように魔術の発現を隠匿しつつ、中空にお湯を作り上げる。

そのお湯を、シャワーのようにクロトに降らせる。上手く行けた行けた。こういう使い方初めてだけど、意外といけるな。

無理だった場合は大人しくお湯を頼みに行く予定でした。一応出来る自信あったからね?ほんとだよ?


「・・・気持ちいい」

「そっか、そっか」


俺は俺で自分の体を洗いつつ、魔術を維持する。そういえばイナイは何で毎回お湯を頼むんだろう。俺が出来ることをイナイが出来ないとは思えないんだけど。

まあ、何かしらの理由は有るんだろうな。


とりあえず全身洗い終わったら、クロトがまだ洗い終わってなかったので手伝った。

クロトは黒いのを出してないと、なんというか、行動が少しゆっくりだな。まあ、体型が子供だから、上手く動かないのかもしれない。


「よっし、じゃあながすよー」

「・・・ん」


洗い終わったらもう一回ざっと流して、体をふく。クロトの髪サラサラだなー。

そこそこ長いし、女の子にしか見えないよな、顔だけ見ると。あの男の子、大丈夫かなぁ。

クロトの髪を拭きながらそんな事を思っていると、シガルとイナイが返って来るのが分かった。


「お、帰ってきた」

「・・・お母さん達?」

「うん。さっと着替えて、戻ろうか」

「・・・うん」


とりあえず俺はパパッと着替えて、クロトの着替えを手伝う。黒を使わないで頑張ってる姿を見ると、思ったよりあの約束を重く考えてるのかもしれない。

ただちょっと気になった事が有る。クロトを誘った子達の言った事。


『クロトがどんくさい』


これに物凄く違和感を覚えている。この子はハクを倒すほどの子だ。なのに、あの子たちはクロトをどんくさいと言った。

何となくだけど、クロトは黒を使わないと、普通の子供並なんじゃないだろうか。今までそういう所をあまり見てなかったから気が付かなかったのかもしれない。


「ねえ、クロト」

「・・・なに、お父さん」

「前にした約束、覚えてる?」

「・・・うん、ちゃんと守ってるよ」


どうやらしっかりと守ってくれているようだ。なら、やっぱりそれが理由な気がする。

なら言っておかないと。もしそれで大怪我するのは、考えたくない。


「ねえ、クロト。約束を守ってくれるのは嬉しいんだ。けど、もう一つお願いしていいかな」


俺の言葉に首を傾げるクロト。

彼とはそこまで長くない期間、本当にまだ短い時間の付き合いだ。けど、それでも、この子は俺を慕ってくれて、皆に懐いてる。

だから、この子が無意味に傷つくところは見たくない。だから、これは、お願いだ。


「もし、クロトの身が危ないって思った時は、迷わず力を使って欲しい。もちろん、やりすぎないでほしいけど、でも、クロトが大怪我をしそうだと思った時は、ちゃんと使ってほしい」


クロトには無茶なお願いをしていると思う。力は使わないでくれ、でも使っても良いと言っている。

勿論、どちらもその条件は付いている。けど、それでもそれを両立させるのは、上手く釣り合わせるのは、いつでも上手くは行かないだろう。

その釣り合いを取りながら、約束を守ってくれと言っている。酷い話だな。


「・・・ん、わかった」


それでもクロトは頷いてくれる。どこまで理解してくれてるのかは分からない。けど、今のクロトはなんとなく、大丈夫な気がしたんだ。

だから、俺は信じたい。この言葉を、ちゃんと受け止めてくれていると。


「じゃ、いこっか」

「・・・うん」


クロトの手を引き、部屋に戻り、しばらく待つとシガル達が帰ってきた。虎は下にいるようだ。


「ただいまー、タロウさん」

『帰った!』

「お帰り、二人とも」


シガルはどこか疲れた感じで帰ってきた。ハクは逆に元気いっぱいだけど。

なんかやってきたんだろうか。


「タロウさん、なにこれ」


部屋のある大量の料理に気が付き、シガルが疑問を口にする。まあ、当然ですよね。


「いや、なんか、一人で待ってるの退屈で。作りすぎたんだ」

「ハクが居るから大丈夫だと思うけど、作りすぎだよ」

「はい、ごめんなさい」


シガルさんに普通に叱られました。ですよね。やっぱ作りすぎですよね。


「謝る事は無いけど・・・」

「一人はちょっと寂しくてさ。帰ってきたら止めるつもりだったんだけど」

「あー、それに関してはごめんなさい。ちょっとやりたい事が有ったんだ」

「やりたい事?」

「うん。内容は秘密だけどね」


秘密か。何だろう、何をしてたんだろうか。

でも面とむかって秘密という以上、きっとシガルは言ってくれないだろう。

まあいいさ。いつか教えてくれるんじゃないかね。あと秘密って言った時のにやってした顔が少し可愛い。


「帰ったぞー・・・なんだこの料理の量」


イナイさんも帰ってきたと同時に、料理に怪訝な顔をする。すみません。犯人は俺です。

そしてそれが顔に出てたんだろう。イナイはジト目で見た後、ため息を付いた。


「しょうがない、とりあえず腹は減ったし、食うか」

「そうだね、食べよう」

『食うぞ!』

「・・・たべる」


どうやら食べる気は満々な模様です。食器を用意して、皆に配膳して、自分も席に着く。

何時もの習慣どおり『いただきます』と口にして。






「お、美味いなこれ」

「うん、相変わらずタロウさん料理上手だよねぇ」

「・・・美味しい」

「そりゃよかった」


どうやら皆の口に合ったようだ。作りすぎてたので、美味しくなかったら悲惨だったよ。

ハクさんは一心不乱に食べておられます。


「イナイ、帰ってくるの遅かったけど、問題でもあったの?」

「いや、問題はない。ただ今後の為に、領主にウムルから来るであろう通達の内容や、身の振り方を色々と教えててな」

「ああ、なるほど。まあ、賄賂貰ってやってたような人みたいだし、大変そうだね」

「まあな。その辺きっちり脅しておいたから、大丈夫だとは思うが」


脅したのか。まあ、それ位じゃないとだめなのかもしれないな。

どうもこの国の貴族は、自分の利益だけを優先する傾向が有る。いやま、治める側の人間としては、それが普通なのかな。俺には分からん。


「シガルは、あいつに合う物見つかったかい?」

「うん、似合う物見つかったよ」


笑顔で答えるシガルに、満足いくものが見つかったらしい事に良かったと思う反面、やっぱついて行きたかったなーと寂しく思う。

何してきたんだろうな。秘密って言っていた以上、教えてくれないだろうし、聞くのも野暮だろう。

ちょっともやっとしながら、食事を進める。流石に明日は出発という事を決定して。


さて、次の国はどんな国かね。

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