第278話ベレル君にプレゼントです!
「はい、確かに。では少々お待ちください」
受付のお姉さんが書類に何かを記入し、俺とお婆さんの組合証をもって奥に行く。
あの後薬を持って組合まで来た。流石にお婆さんを連れて来るのはきつそうなので、代理でベレル君が代わりに来ている。
「あの、タロウさん、本当にこれで良かったんですか?」
「へ、何が?」
ぽけっと待っていると、ベレル君が何かを聞いて来た。なんだろう、俺何か変な事したかな。
「いや、だって、あの薬って、作れる人自体少ないし、ばあちゃんが用意した薬が有ったからっていっても、実作業は殆どタロウさんがしたようなものだし。本当に報酬半分で良いのかなって」
「ああ」
なるほど。でもまあ、そうは言っても、材料集めるのだって、そこそこ面倒だ。それに作業も彼が手伝ってくれたから、一人でやるより楽だった。
なにより、あのお婆さんは怖かったけど、あの教えはいい勉強になった。ずっとあれはきついけど。
「いいんです。俺も勉強になったし」
ひーひー言いながらだったけど、学ぶことが多かったのを感謝しよう。それにちょっと楽しかったし。
「あ、そうだ、これあげる」
「え、こ、これって」
お店で作った精霊石を、彼にあげる。お店の材料で作っちゃったからね。
あー、そういえばそろそろ精霊石補充しとかないとなぁ。以前カグルエさんとやって以降、新しいの作ってないから、数が心もとない。
いざって時のお守りみたいなものだし、有って困る物では無いからなぁ。
「こ、こんなの貰えないですよ!」
「え、いや、貰ってくれると嬉しいんだけど。手伝ってくれたお礼で」
「いや、手伝ったって、そんな事でもらえる物じゃないですよこれ!」
「そうなの?」
別に作るの自体はそこまで難しいものという事もない。いや、難しい事は難しいけどさ。力を引き出して安定させてって集中力要るし。
でも、彼が言うほど、貴重な物でもない。実際アロネスさんは魔道結晶石はともかく、精霊石はパッパカ適当に使う。
一時、訓練で精霊石ポンポン投げられて逃げ回った事が有る。セルエスさんが居ないから代わりに相手してやるよと言われて、ついて行った結果がそれだ。
それに俺が作った物は、あの人の作る精霊石ほどではないので、余計にたいしたものではない。
「まあ、俺にはいつでも作れるものだから」
材料が有れば問題なく作れるからね。一応材料は集めてるし。依頼とか、狩りとかしながら。だから袋にまとめて腕輪に入ってるので、精霊石は何時でも作れる。
「タロウさんって、凄い人なんですね・・・」
ベレル君は俺の返事を聞いて、呆けた顔でそんな事を言う。
凄いかなぁ。もっとすごい人知ってるからなぁ。
「俺の師匠は、もっとすごい人なので、俺なんか大したことないですよ」
「タロウさんのお師匠ですか?」
「うん。悪乗りが好きな人で、時々困る人だけど、凄い人ですよ。俺はあの人の足元にも及びません」
「そ、そんなに凄い人なんですか。でも、タロウさん自身が言うんだから、きっと本当にすごい人なんでしょうね」
色々と困ったところはあるが、間違いなく凄い人だ。
貰った魔剣だって、あの人が作った物だし。一応俺も魔剣の作り方は教わって、一応作れる。
ただ、完全に一応作れるっていう出来だけど。上手く力が発現しない。一応するけど、思った通りの効果が出ない。なんてのばっかりだ。
「それに」
「それに?」
さっきまで完全に忘れてたけど、それ、お婆さんのお店の材料で作った物だ。流れでなんとなく所持していたので、あげるというよりも、返すの方が正解な気がする。
「それの材料は、お婆さんのお店の物だし」
「・・・それが未だに理解できないんですよね。あれからこれが出来たって言うのが不思議すぎる」
「そう?」
普通はそうなんだろうか?錬金術師はアロネスさんしか出会った事が無いので、平均レベルが解らない。
でもまあ、もしわからなかったとしても、だからどうという事もないし、気にしない。
「ま、あんまり気にせず貰って下さい」
「・・・はい、じゃあ、有りがたく」
俺の言葉に笑顔で応えて、精霊石を受け取るベレル君。
まあ、精霊石は危ない時に、単純に投げつけて使う事も出来る。彼自身を守る道具になるだろう。
お婆さんの代わりに色々必要だろうから、お守りで持っていてほしい。
「あ、そうだ、ちょっとそれ握ってて下さい」
「え、は、はい」
彼に精霊石を握らせて、その上から自分の手で彼の手を包む。
「はっ?」
彼は驚きの声を上げるが、俺はそのまま作業を続行。彼の体から自然に漏れる魔力を精霊石に馴染ませ、彼の魔力に反応するようにしていく。
精霊石はほんの少し光り、すぐに光を収めて安定した状態に戻る。それを確認してから手を離す。
よしよし、上手く行った。
「な、何したんですか?」
「ん、精霊石を、君だけが使えるようにしただけですよ。これでその石は、君以外にはただの綺麗な石ころです」
「・・・俺、だけが?」
「うん、なんだかんだ、力が籠った精霊石は下手に扱うと危ないからね。君はこれの事知ってるみたいだし、その辺は大丈夫でしょう?」
「ま、まあ、一応ですけど」
精霊石の危険性を知ってるなら、彼だけが使えるようにしておけば問題ないっしょ。
使うかどうかは彼次第。勝手な信用だけど、あのお婆さんのお孫さんの彼なら、問題ないと思う。
「なので、もう完全に君の物です」
「そっか・・・」
彼は精霊石を見つめ、少し頬を染めている気がした。
・・・え、なんで?
「ありがとうございます。俺、大事にします」
「え、うん」
けど、良い笑顔でお礼を言われ、その疑問はどこかに行った。喜んでもらえたならよかった。
その後は受付のお姉さんに呼ばれ、依頼完了の手続きをすべて終了して、彼に別れを告げ宿に足を向ける。
・・・しまった。そういえば精石ってどんなのか聞き忘れた。アロネスさんに教えてもらってないんだけど、名前を教えてもらってないだけかもしれない。いくつかあるんだよな、作り方だけ教えてもらってて、名前有るのかどうか聞いてない物。
これかなーってやつは一応有るんだけど。ま、いっか。そのうち機会が有ればアロネスさんに聞いておこう。
さって、宿に誰も戻ってきてないんだけど、どうしよっかね。夕暮れ時なんだが、誰も戻ってないとなると、探しに行こうかな。
・・・いや、戻るか。イナイは用事が用事だし、シガルは来ないでって言われたからなぁ。
二人が帰ってくるのを宿で待っておこう。偶には俺が待つ側になるのもいいじゃない。
あ、そうだ、ご飯作っておこう。よし、そうと決まったら食材買って帰るぞー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます