第277話ウムルの重鎮の相談ですか?

「おーい、ヘルゾさん、いるかいー?」

「キャラグラ殿か、どうした?」

「いや、ちょっと、陛下に話持って行くかどうするか悩む事が有ってさ」

「ふむ」


実務を終え、少し休憩をしていると、キャラグラ殿がやってきた。彼は時々、陛下に何かを持って行く前に私の所に相談に来る。

おそらく私の経歴から、王に持って行くべきかどうかを相談しているのだろうが、彼自身昔は自国で同じような事をやっていた筈だろうに。


「これなんだけど」

「どれ」


渡された書類を読んで、納得する。ああ、確かにこれは困るな、あの人は。


「私なら、彼に関しては元々関わりが有るし、手放したいとは思えない。こちらとの関係を国に伝えるが・・・まあ、陛下はやらんだろうね」

「でしょう」

「・・・それとなくステル様に報告しておくと良いだろう」

「構いませんかね?」


どうやら彼も私と同じ判断を考えていたようだ。ただ、陛下に伝えずにやるのを悩んでいたのだろう。

彼の気持ちも分かるが、これを陛下にそのまま伝えれば、陛下はどう判断するかはあの少年の自由だと言うだろう。


「第二王子はあの国では比較的まともな人物とはいえ、そのままには出来ないかと」

「ですよね」


表面上は、我が国に敵対していないとはいえ、あの国の歴史は蹂躙の歴史だ。周囲の国を滅ぼして飲み込んで強大になった国だ。

そんな国が、ウムルを意識していない筈がない。いや、むしろ王はともかく、王子たちは皆ウムルを疎ましく思っている筈だ。

ウムル王国が有る事で、こちら側の国に攻め込む事が出来ないと。自分達が手に入れられる土地がないと。攻め込み、国に貢献出来ねば自分たちが王に成れぬと。


「あの少年一人で、街一つぐらいは落とせる。それに対応できる人材が居なければな」

「ステル様の剣もあるし、ウムルでも稀有な人材ですよね。どれだけの物かは把握し切れてませんが」

「そうか、君は彼の実力を見てないんだったな」

「まあ、だとしても、少年が勧誘受けるのが困るのは、確かでしょう」


それは間違いない。彼が他国に属するのは困る。元々最初から彼が他国に行くのは困ると思っていた。

だが飛行具での一件を見て、私は彼を絶対に手放してはいけないと思った。彼はウムルに居なくてはならない人材だ。

彼の実力もさることながら、彼の回りに居る者達も普通ではない。ステル様は彼が行きたいと言えば、どこにでもついて行くだろう。

もう一人の婚約者である、シガルという少女も、竜に認められたと聞く。その実力を見てはいないが、それでもその事実だけで、あの少女が並ではないことが分かる。


そしてその竜。真竜である、ハク殿。そしてそれを打倒する力を持つ、クロト殿。

あの二人の戦いは陛下達に迫る物が有った。あれはもはや、何万の凡兵が居ようと、何の意味もなさない強さだ。

彼ら一人一人、明らかに常識を逸脱している存在だ。その存在が、皆彼の傍にいる。タロウ殿の傍に。


あの少年が向かう先に、他の者達も向かう。ならば、彼が付くという事は、他の者達も付くという事だ。

それはまずい。あの力を手に入れた国が、何を思うか。たとえ少年の力を行使せずとも、彼らの知らぬところで彼らが利用される可能性は高い。

もしそれが戦争の火種になれば・・・。


「私は、彼の存在は危険だと思っている」

「ま、ですよね。下手な国より危険物だ」

「キャラグラ殿、頼む」

「はいはい。ではこのまま情報部に戻ります」


彼はそう言って、すぐに部屋を出て行った。

・・・素朴な疑問だが、彼はいつ休んで、何時寝ているのだろう。いつみても働いているように見えるんだが。

彼に倒れられると困るので、ちゃんと休んでくれてると良いんだが。


しかし帝国に目を付けられる、か。少年も大変だな。あの国は面倒だぞ。

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