第275話作業効率です!
「あ、粉が舞って目が!目が痛い!痒い!」
「あんたは手伝うのか邪魔するのかどっちだい!」
「メリ婆、細かい作業とか向かないんだから大人しく座ってなよ・・・」
薬の材料を揃える段で、既に役に立たないメリエブさん。その粉別に大量に有るし、ちょっと吸ったぐらいなら問題ないから良いけど、この人に薬持たせたらダメだな。
組合では頼りになりそうなお婆さんって感じなのにな。
「メリエブさん、お願いしますんで、そこに座ってて下さい」
「あーい」
メリエブさんは渋々とお婆さんの横の椅子に座り、作業を眺める。
「別にアンタは帰ってもいいんだよ」
「一応結果を見届けとかないとね。頼んだ以上は、ね」
なるほど、メリエブさんは責任感でここに居る感じか。
組合では支部長さんと同じぐらいの扱いっぽいし、そういう所はシッカリしてるんだろう。
「ベレル君、そっち取ってもらえます?」
「え、これですか?」
「うん、それです」
手がふさがって動けないので、ベレル君に薬を取ってもらい、ちゃっちゃと手元の作業も終わらせる。
根本的にやる事は地味だ。すりつぶしたり、ふるいにかけたり、丸めたり、煮込んだり、それをこしたり。
お菓子作りに近い。分量をきっちり計って作るからね。
「手際はそこまで悪くないね。でも、まあ、普通だね。さっきの精霊石には驚かせられたけど、作業は至極普通」
まあ、そりゃそうでしょう。むしろ緊張感持ってやってるから、少しゆっくりなぐらいだ。
だって怖いもん。精霊石とかさ、他の道具とかさ、人体に影響のない物ならもっと気軽に作るけど、薬だもの。
人が使って、その人の体に影響が出るものを作るんだから、慎重にもなるよ。
「とはいえ、見えない部分は普通じゃないんだろうけどね」
「どういうことだい?」
「あんたさっき何見てたんだい・・・・」
お婆さんの言葉に、メリエブさんが首を傾げる。まあ、メリエブさんはそっち系の知識ないみたいだから、しょうがないと思う。
俺だって知らなかったら何してるのか・・・いや、何かしてるのは解るな。目で見えるから。
「さっきの精霊石みたいに、力を引き出しつつ、その力をそのまま素材に固着させてるんだよ」
「ああ、なるほど。力を取り出すんじゃなくて、力を増幅させてそのまま留めてるのかい」
「そういう事だよ。何処までやってるのかは知らないがね」
お婆さんの説明の通り、その薬の持つ力を、本来そのままで発揮できる性能以上を引き出すために、素材がダメにならないように力を引き出し、そのまま素材の中に安定して抑え込む。
全ての素材を同じように、処理をしつつ混ぜ合わせていく。
「でも手際は、ベレルと同じぐらいだね」
「まあ、錬金術の処理もしてるからってのも有るだろうがね」
そっか、ベレル君も普通に薬は作れるのか。てことは俺より単純な作業は彼の方が上手そうだなぁ。
彼には錬金術を教えないのだろうか。それとも教えてる途中なのかな?
彼が後継者になれば、お婆さんも安心だろうな。
多分作る予定の準備はしていたらしく、下処理がある程度されていた物が多いので、作業は夕方までには終わりそうだ。
作ってるのは薬だから、怖いけど楽しい。やっぱ、こうやって何か作ったりしてるの楽しいな。
そのうち何か作ろうかな。錬金術でも、技工でもいいけど、何か面白い物作りたい。
「遅い!そんなちんたらやってたら日が暮れるよ!効率を考えな効率を!」
「は、はい!」
「ベレル!予備の道具取ってきな!単純作業はアンタがやりな!」
「わ、わかった、取ってくる」
「あんたはその作業の前にこっち先にやりな!」
「はい!!」
暫く俺の作業を眺めていたお婆さんだったが、途中から手際の遅さに業を煮やしたのか、指示が飛んでくるようになった。
そしてその指示を当たり前にやれたのがいけなかった。
「出来るんなら最初からやりな!」
と、怒られ、その後はどんどん作業効率を求めた指示がバンバン跳んで来た。流石に途中からひーひー言いながらやってる。
このお婆さん、錬金術師としてはそこまででは無いけど、薬師としてはベテランみたいだし、黙ってられなくなったんだろう。
「こ、これで良いですか?」
「確認しなくても解ってんだろう!次行きな次!」
「はいぃ!」
怖いよう。この人もメリエブさん並みに迫力あるよう。
「タロウさん、どれやればいい!?」
「見たらわかるだろう!あんた何年あたしの作業見てたんだい!」
「う、は、はい」
道具を持ってきたベレル君が俺に指示を仰ぐ。が、俺が指示を出すより先にお婆さんの怒号が飛ぶ。
怖いよう、このお婆さん本当に怖いよう。
とりあえず怒られないようにすべく、作業を早めていく。一応分量精密に図らないとまずい物は既に分けてあるので、あとは混ぜるか、加工処理するだけだ。
「ほれほれ、とっととやりな!いつでもどんな時でも時間があるとは限らないんだよ!」
「あっはっは、頑張れ若者たち」
跳び続けるお婆さんの指示と、それを楽しそうに見るメリエブさんの笑い声が工房に響きながら作業は進む。
ただ、お婆さんの指示に従い行動をすると、本当に効率よく作業が進む。これはこれで勉強になるな。
「お、終わりました・・・」
「つ、疲れた・・・」
全ての作業が終わり、へたり込む俺とベレル君。ベレル君、君はよくやった。ていうか毎回この教えについて行ってる君を尊敬する。
俺は途中何回か泣きそうだった。
「ふむ」
お婆さんは出来た薬をまじまじと眺めている。お婆さんも見て分かる人なのかな?
「あの速度でやってりゃ、何か一つは失敗するかと思ったんだが、最後までやり切ったね」
そう言って、手に持っていた薬を置く。
え、もしかしてあの速度、失敗前提ですか?
止めて下さい、死んでしまいます。いやもう、ほんと止めて、心臓に悪い。
爆発したり、周囲に被害撒き散らすような薬じゃ無いから良いけど、失敗したら材料費だけでも目も当てられない。
高いんだよ本当。
「あんたの師は、よっぽど優秀なんだろうね」
優しい笑顔で言うお婆さん。あ、なんかすごく嬉しい。そうだよな、俺がここで失敗したら、師匠のアロネスさんも下げることになったんだよな。
良かった。本当に失敗しなくてよかった。もし失敗したの知られたら何されたか分からないという意味も含めて良かった。
「アタシは薬師としてはそこそこ優秀なつもりだけど、錬金術師としては下の下だ。だから、あんたの手際を見て、そこで信用しておく。これらはちゃんと全部問題ないってね」
おばあさんは薬に目を向け、評価を口にする。そうか、本業じゃないし、そっち方面での見極める力がないから、自分の得意分野で見極めようとしたのか。
尻叩かれる感じで怒鳴られながらだったけど、認められたみたいだ。
「ただ、最後の方の速さとまではいわなくとも、最初に言った時の事が出来るなら、もう少し早くやりな」
「あ、はい」
でも最後に結局駄目だしされました。まあ、それはしょうがないか。
「これで一件落着だね。いやー、国からの依頼がどうにもならなくなるかと、冷や汗かいたよ」
メリエブさんがあっはっはと笑いながら言う。あ、これ国からの依頼だったんだ。
「悪かったね。迷惑をかけたよ」
「本当だよ。お互い年なんだから、無理は禁物だよ」
「数日前に大暴れした女の言う言葉とは思えないね」
お婆さんが素直に謝ると、メリエブさんは心配してるのか揶揄っているのか微妙な言葉を口にする。
お婆さんも負けずに言い返すが、堪える様子はない。
「あたしとあんたじゃ元々鍛え方が違うよ。それにいざって時に剣を握れなくなったら、あたしはもう引退だよ」
「そうだね。剣を握れないアンタは想像つかないね」
生涯現役のタイプだよな、この人。
お婆さんも薬師としては、そのタイプだと思うけど。ベレル君にはぜひ頑張って頂きたい。
俺はもう勘弁して頂きたい。めっちゃ怖いし。
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