第274話精霊石です!

世界には力が溢れている。

人間は言うに及ばず、全ての存在に力が内包されている。

世界と繋がる力を。


人間はそれを魔力と呼び、世界と繋がる業を魔術と呼んだ。

人は世界との繋がりを強化し、操作することで、様々な現象を生み出す。

ならば、他の生物、植物、物質に含まれる力は、操作できるのか?

答えは単純明快だ。繋がりが欠片でもある以上、出来る。


だがそこに含まれる力を、認識することが叶う人間は限られている。

大前提として、魔術が使えることは必須。当たり前だ、世界と繋がっている力を引き出すのだから。

そしてその力を、自身の力以外の流れを受け止め、操作し、纏め上げる柔軟さが要る。

どれだけ魔術に長けていても、どれだけ精密な魔力操作ができるとしても、それが自身以外の力にも有効かと言えば、それは違う。


人の身に宿らない力。人が自身の内に内包し、操作する力とはまた種類の違う力。

それを使う術を見出した者達は、その力を精霊の力と呼んだ。意志なき力の塊である精霊と。

彼らは、精霊を宿すその存在の力が強ければ強いほど、材料として優秀な事に気が付く。


いつしか彼らは、材料から、その力の結果を導く物を造りだし始めた。

飲めばたちまちに治る、奇跡の様な薬を。ひとたび火をつければ、豪炎すらも巻き起こせるような炭を。一度振れば、嵐を巻き起こす様な扇を。空に投げれば、いくつもの土塊として降り注ぐような土球を。何度飲めば無くなるのか解らない、水が延々あふれ出る水塊を。

人々は、その奇跡を、作り出した者以外も使えるその力を作り出す業を持つ者を、錬金術師と呼んだ。


だが、精霊の力と呼ばれたものを、その力そのものを取り出し、形にするものが現れた。

その業によって作られたものを『精霊石』と呼んだ。

あらゆるものに内包される、力だけが詰まった石。正確には石ではない。魔力を、精霊の力を、一点に集約し、世界に、人が理解できる形で顕現した物。

それが精霊石。





以上、精霊石を作ったしばらく後にアロネスさんに言われた言葉である。あの人、後から言うの止めてほしい。その時点でそれより作るのが難しい魔導結晶石も作ってたから笑えない。

精霊石を作る魔力操作は、セルエスさんも難しいと聞いた時、真っ青になった覚えが有る。一応、操作する技術が少し違うと聞いたが、俺が出来るのにセルエスさんが出来ないのは不思議だ。

いや、一応出来るには出来るけど、安定して出来ないそうだ。けど、人に魔術を理解させる魔術を使えるあの人が難しいというほどだろうか。


ぶっちゃけ、俺にとっては同じ事だ。見えている物を上手い事かみあわせて、混ぜ合わせてるだけだし。

アロネスさんは、そちらの技術は異常なほど長けていたらしく、幼少期にアッサリ精霊石を作ったそうだ。

それも誰に教えられたわけでもなく、自力で、との事だ。

俺は単純に、教えられた手順を、教えられたとおりにやったら出来ただけである。因みに最初に作った精霊石は凄い濁った色だった。なんか汚染されてそうな感じだったなぁ。全然力も籠ってなかったし、酷い物だった。


要は、どんな物にも魔力が宿ってて、その魔力を取り出して纏め上げればいいって話だ。

それもなるべく、世界の繋がりを維持しつつ、引き出せるだけ引き出して。だから突き詰めれば、魔力を少しでも内包していれば、何でもいい。

後はセルエスさん直伝の魔術の技術で、なるべく力を使わずに力を引き出して、その力をアロネスさんの教えに従い、落ち着いて纏まるまでこね合わせて、力の方向性を安定させて、圧縮させる。

以上、タロウ式精霊石の作り方でした。


因みに力を引き出した素材は、風化していく。完全に生命の全てを燃やし尽くして真っ白になったように。

と、言うわけで、出来上がったものがこの手元の物になります。

などと、なんとなく料理番組や通販番組を思い出しつつ、出来上がった精霊石を掌に載せ、お婆さんに見せる。


「出来ました。これで良いですか?」


だが、精霊石を見せたお婆さんは、返事をしてくれない。

あれ、これじゃダメだったのかな。結構頑張ってしっかり作ったんだけどな、これ。

作り方そのものは単純だけど、かなり神経使う物だから、これ以上の出来を希望されると、ちょっと無理かな。

お店に有った、たっかい材料使えば別だけど。それはちょっとなぁ。


「ふうん、精霊石て、案外簡単に作れるものなんだねぇ」


メリエブさんがそう呟いた瞬間、お婆さんがメリエブさんを睨む。


「馬鹿言いうんじゃないよ!こんな簡単に、こんな材料で出来てたまるものかい!」


いやあ、簡単ではないんですよ。一応これでも失敗したらやばいのは知ってるので、かなり集中して作ってるんですよ?

因みに俺は一個ずつしか無理だが、アロネスさんは俺と同じ純度なら2,30個ぐらい一気に作る。本気ならもっと多くも行けるそうだ。

俺そんなことしたら一瞬で周囲消し飛ばす自信あるわ。


「あ、あんた、いったい、何やったんだい。あの材料じゃ、あんな純度の精霊石、不可能だろ」

「え、いや、出来ますよ。あの通りすべてを引き出せば」


と言いつつ、実は引き出しきれてないのは内緒だ。気が付かれてないみたいだし、内緒内緒。

実際は少しロスってるからね。ロスってる上に一個ずつしか作れないからね!


「り、理論上は可能かもしれないけど・・・」


おばあさんも、錬金術の薬の依頼を受けるだけあって、さっき俺が何をしたのかは、今の発言で理解したようだ。

ぶっちゃけ、力を引き出すという一点で言えば、セルエスさんは一切ロスなく引き出せる。ただそれを形として安定させられないだけで。

そのまま使用は問題なくできるんだよなー、あの人。何故かものづくり方面になると、とたんに制御がおかしくなるらしい。なんか、苦手意識でもあるんじゃないかなと思うんだけどな。


「まあ、とりあえず、これで納得してくれましたか?」

「あ、ああ・・・」


俺の言葉に、若干上の空な感じで返事をするお婆さん。大丈夫かね?

ま、とりあえず認めてもらったし、次は薬を作りますかねー。

ぶっちゃけ、精霊石より、こっちの方が大変なんだけどね、個人的には。

単純に魔術が籠ってる物じゃなくて、本来起きうる性能の物に力を引き出して形にする訳なので、途中の製作は普通に薬作るのと変わらんのよね・・・。

一応ミルカさんの指示でやった、仙術で浄化する、地獄の毒薬特訓のせいで色々作れるようになってるんだよな・・・。人間何が役に立つか分からないね。



もう二度と延々毒薬飲み続けるとかしたくないけどな!

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