第271話トラブルみたいです!

クロトを見送り、一人になり、本格的にやる事が無くなったので、どうしたものかなとお茶を啜る。


「アンタ、若く見えるけど、案外年食ってんだね」

「え?」


確かに見た目よりは年上だと思う。多分童顔みたいだし、おそらく実年齢より2,3歳は下に見られている。

けど、こういう言われ方する程年取ってるとは思わないんだけどな。


「子供がいる年には全く見えないねぇ」


お茶を啜りつつ続けた言葉を聞いて、納得した。なるほど、クロトが俺をお父さんと呼んだのを聞いての言葉か。

確かにあの年齢の子供がいるとなると、もう少し年を取ってる事になるか。


「でもまあ、若い頃に仕込めば関係ないか。特にあんた男だしね」

「ぶふっ」


あぶねえ、お茶吹きかけた。驚くこと言うなこの人。いや、確かにその考えは有りえなくは無いんだろうけどさ。

精通さえしてれば可能性は普通に有るし。ただこのまま勘違いされるのは、なんか嫌なのでちゃんと言っておこう。


「いや、クロトは、まあ、養子みたいなものです」

「ふん?そうなのかい」


お婆さんはあんまり興味なさそうに応える。信じてくれてるよね?

いや、違う、お婆さんどこか別の方に意識が行ってる。気になってお婆さんが見ている方向を向いてみると、若い男の子がキョロキョロしていた。

やがてその子はこちらを向くと、走って来た。


「メリ婆、居てよかった」

「あん、どうしたい。あんたがここに来るなんて珍しいね」


少年はお婆さんの知り合いのようだ。呼び方からして親しそうな雰囲気がする。


「ばあちゃんが腰やっちゃってさ。薬作れなさそうなんだよ」

「あちゃあ。何やったんだい、あいつ」

「材料足りないからって森に一人で行って、ちょっと無理したみたい」

「馬鹿だねぇ、あたし呼ぶか、護衛依頼すりゃいいだろうに」

「そういう事する人だったら普段から心配しなくていいんだけどね。今回も帰って来てからでよかったよ」

「全くだね。森の中でやっちまってたらどうするつもりだったんだか」


どうやら少年のお婆さんが腰をやっちゃった模様。薬って事は街の薬師か何かなのかな。

しかし、お婆さん一人で外に行ってたのか。二人の言葉を聞く限り完全に非戦闘員の気配がするし、良い度胸してるなその人。


「そういう訳で、申し訳ないけど、今回の依頼は失敗で手続きしてくれない?」

「まあ、しょうがないけど・・・あんたは無理なのかい?」

「無理無理。今回の薬、普通の薬じゃないし。錬金術の類だよ。俺じゃ無理だって」

「うーん、あいつ以外こういう依頼受けれるやつ居ないから、困ったねぇ」


ほむ、錬金術の類って事は、即効性の薬とかかな。アロネスさんから教えてもらった物なら俺も作れるんだけど、どうだろ。


「じゃ、俺、ばあちゃんの面倒見に戻るから」

「あいよ、回復するまで無理すんなつっといておくれ」

「わかった、じゃあね」


少年は要件を告げ終わると、世間話はそこそこに去っていった。お婆さんが心配なんだろうな。

二人暮らしなのか、お祖母ちゃん子なのか。


「さて、どうしたもんかね」


お婆さんがよっこいせと、立ち上がり、受付まで歩いて行き、中の人達と何か言葉を交わすと、頭を押さえていた。

そのまま首を横に傾げつつ、こちらに歩いて来て、残りのお茶をずずっと啜る。


「悪いね、急ぎの用が出来たんで、この辺で失礼するよ」

「さっきのですか?」

「ああ、そうだね。この街で唯一錬金術の薬を頼める奴が倒れたみたいでね。この仕事、ちょーっと急ぎでね。遅らせるわけにいかないのさ。まだ期間に猶予が有るうちで良かったよ」


ため息を付きつつ去ろうとするお婆さん。ふむ、ならもしかしたら力になれるかな?


「あの、もしよければ、俺がやりましょうか?」

「あん?」

「錬金術の薬なら、俺もいくつか作れるので」

「・・・マジかい?」

「マジです」


驚きの表情で聞いてくるお婆さん。けどすぐに意識を切り替え、紙に何かを書いて、俺に渡す。


「これだけど、解るかい?」


渡されたメモを見て、全部知ってる名前だったことに安堵しつつ、頷く。これならいける。

ただ、使った場合体の負荷が大きそうな薬も有るのが気になった。魔術が使えない人というか、治癒魔術が使えない人が万が一として持ってるタイプの薬だ。

治るには治るが、激痛でその場から動けなくなったりするやつだ。まあ、痛いのと死ぬのとどっちがいいと聞かれたら、大半は痛い方が良いというだろう。

後は、魔力を回復させる薬ぐらいか、珍しいのは。でも俺これ嫌いだ。飲むと頭グワングワンしてくる。


「ただ、材料の調達の時間と、道具を借りられる場所が有ると良いんですけど」


材料はともかく、道具は無くても、やろうと思えば無理やり出来るけど。有るなら有る方が助かる。


「ああ、なら、さっきの坊やの家まで案内するよ。材料は多分揃ってんだろ。道具も有るだろうしね」

「じゃあ、お願いします」


材料を集める必要は無さそうで良かった。正直道具よりもそっちの方が問題だ。

久々に錬金術使うな。あ、そういえば精霊石と結晶石残り幾つだったかな。

まあ、結晶石はいいか。あっちはちょっと詰まってる力が強過ぎるし。


「あー、ただ、勝手な頼みなんだけどさ」


お婆さんは少し言いにくそうに俺に向いて口を開く。


「今回の仕事、一応共同って事にしてやってくれないかね?」


えっと、腰やったお婆さんと共同って事かな。まあ、いいかな。薬の材料も買取とかじゃなくて、普通にそのまま使わせてくれるなら。

ぶっちゃけ集めるの大変だし。一部の材料は別にない訳じゃ無いんだけど、探すのが面倒な物も有るし。


「ええ、材料と道具を提供して貰えるなら」

「そうかい、助かるよ」


俺の言葉にほっとした顔になるお婆さん。もしかしたら友達とかなのかもしれないな。

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