第270話クロトの友達だそうです!

翌日、纏めるというほどの荷物が無い荷物を纏め、出発の準備をし、街を出る。

という訳にもいかないようで、イナイ先生はちょっと領主様の所へ行きました。なんか、一応事件の始末の確認をしに行かないといけないみたいで、まだ出発はもう少し後になりそう。


そんな訳で何故か今日も組合に来て、端っこでお茶飲んでる。何となく来てぼんやりしてたらお婆さんが入れてくれた。

今日はクロトが隣で一緒に飲んでいる。シガルはハクと一緒に虎の装備を買いに行った。なんかあいつに合いそうな鞍とか、首輪とか、なんか色々見に行ったらしい。

俺もついて行こうとしたんだけどな・・・。何故か置いて行かれた。解せぬ。

俺は女性の買い物は平気なタイプな自信が有る。自分が男性の買い物の行動じゃないからか、買い物に行くと気が付いたら夕方になる事も有る。何も買ってなくてもそうなる。


「あんた、何かやらないのかい?」


俺の目の前でお茶を啜っているお婆さん、メリエブさんが聞いてきた。

お婆さんこそ、俺と一緒にのんびりお茶啜ってるけど、仕事はいいのだろうか。

まあ、誰も咎めない所を見ると、良いのかな。咎めないというか、気にしてないというか。


「イナイの用事がすぐ終わった場合、こっち終わってないと、またすれ違いというか、留まる事になりますから」

「そうかい、まあ、別に良いけど」


一応確認した限り、1日で出来そうなものも多数あるにはある。あるんだけどね。

なんていうか見てて気が付いたんだけど、いかついおっちゃんたちに混ざって、若い子もそこそこ多いんだよな。

んで、そういう子たちは大体簡単そうな、危険の少なそうな物をやっている。要は、西の方の国境の街で残っていたような依頼だ。

王都は人が多いからか、よっぽど報酬が少なくない限りそういった依頼は減っていっていた。それはきっと王都だし、人が多いからだと思ってたんだけど、ここでも普通に消化されるそうだ。

なんであの街では残りやすかったんだろ。


んでまあ、そういう依頼をやっちゃうと、その子たちの食い扶持が無くなる気がした。一応稼ぎは、今までの仕事でも十分食費やら雑貨を買うお金はある。

なので、とりあえず数日はノンビリで良いかなと思って、依頼は受けていない。


「・・・お婆さんのお茶おいしい」

「おう、そうかい、そうかい」


クロトが本当においしそうにお茶を啜り、お婆さんに笑顔を向ける。この子無表情な事が多いから、本当に気に入ったんだろうな。

クロトは表情の変化は分かり易いけど、基本の状態が静かで無表情だからこその分かり易さだよな。


「このお茶って、この辺で売ってる物なんですよね?」

「そうだよ。ここを出て左に行くと、すぐそこに売ってるよ。特に世話しなくても生えてくるような野草で作ってるから、安いし量も有る」

「あ、じゃあ後で買いに行こうかな」

「そんなに気に入ったのかい。じゃあ、ちょっと待ってな」


お婆さんは立ち上がり、組合の奥に行き、片手にデカい袋を抱えてすぐに戻ってきた。大人の上半身が隠れるぐらいの袋なんだけど、話の流れからいって、あれお茶かな。


「ほれ、やるよ。こんだけありゃ十分だろ?」

「有りがたいけど、良いんですか?」

「いいよいいよ。言ったろ、安物だって」


ふむ、野草で作ってるみたいだし、そういう物なのかな?

でも昔爺さんが作ってくれた野草茶は、結構大変そうだったけどな。あれも美味かった。

ま、単純に野草を集めるのが大変だったけど。


「あれ、クロト?」

「え、どこに、あ、ほんとだ、あいつだ」

「ほんとだ、おーい!クロトくーん!」


お婆さんにお礼を言っていると、クロトの名を呼ぶ声が聞こえた。声からして子供の声だ。

振り向くとやはり子供で、クロトより少し大きいぐらいの子から、俺より少しちいさぐらいの子供たちの集団が居た。

手には沢山の草が入った荷物を抱えている。

もしかして、あれってこれだろうか。なんてタイムリーな。いや、違うものかもしれんけど。


それにしても、彼らはクロトの事を知っているようだけど、どこで・・ってあれか。帰ってくるの遅かったのは、この子たちと遊んでたからかな。

クロトはちょっと嬉しそうな顔で、彼らの所へ歩いて行く。ああしてると、普通に子供だなぁ。いやまあ、俺も世間からすればまだまだガキなんだけどさ。

いや、年齢的にはそうでもないのか、この世界だと。割と若い頃から普通に仕事してる人多いし。


「クロト、なんで組合に?クロトも何かやるのか?」

「クロトには無理だろ―。どんくさいもん」

「あはは、でもあたし達と一緒に野草詰みなら出来ると思うよ」

「クロトは只の雑草も取りそう」


あははと笑いながらクロトをどんくさいと評する子供達。

え、なにそれ。どういう事。クロトがどんくさいって、意味が解らないんですが。その子竜も倒せるぐらい強いんですけど。

当のクロトは静かに笑いながらその言葉を聞いている。


「・・・皆は、お茶の材料の採取?」

「おう、しってんのか。何処にでも年中生えてっからって、足元見られてるけど、それでも少なくても金になるんだ」

「そういう事言っちゃだめだよー。わざわざ私達が出来ること残してくれてるんだから」

「でも、もうちょっとくれても良いって思う事有るだろ?」

「それは、まあ、ねえ」


どうやら、お茶の材料採取は、あの子たち、というか、子供たちの仕事になってるのかな?

おそらく報酬的にはお小遣い程度なんだろう。お茶自体も安いのが相まって、その辺はしょうがないのかもしれない。

聞く限り、材料は強い雑草と同じぐらい何処にでもあるようだし。


「あー、いや、そうじゃなくて、クロトは何でここに?」

「・・・僕は、お父さんと一緒について来ただけ」

「お前の親父さん、組合員だったのか」

「・・・うん。凄く強くて、かっこいい」

「へえ、誰だ?」

「・・・あそこにいる」


クロトが俺の方を向く前と、俺の方を向いた後の子供達の表情の差がすごい。

ワクワクした表情からの凄まじいがっかり感。いや、うん、凄く解るけど。クロトの言葉から俺を見たらがっかりするのは解るけどさぁ!


「くっくっく」


一連の流れを見ていたお婆さんは、壁の方を向いて口元を抑え、体を震わせながら笑う。

多分、俺自身もちょっと傷ついた顔をしていたのだろう。きっとそのせいだろう。つらい。


「クロト、お前、結構大変なんだな」

「クロト君、生活大丈夫?」

「次の野草詰み、クロトも一緒に来るか?」


なんて、クロト君は子供達に憐みの顔で慰め始められ、お婆さんはむせる程笑い始めました。畜生、なんだこれ。

なんで俺、直接言われてないのに精神ダメージを受けなければならんのだ。伸びなかった身長と、でかくならなかった肩幅が恨めしい。

俺ここに1年以上いたのになぁ!なんで身長伸びてねえのかなぁ!


「・・・大変な事なんてないよ?」

「うん、うん、そうだな、お前は良い奴だ」

「クロト君、今度ご飯食べにくる?」

「クロト、これ、ちょっと分けてやろうか?」


クロトの発言に、良いんだ、言うな、解ってるてきな反応をする子供達。おばあさんはもはや笑い過ぎて、ヒーヒ―言ってる。

クロトは若干困惑顔だ。


しかし、そっか、ここに友達出来てたのか。クロトは俺と違って友達が当たり前に出来ているんだな。

いやまあ、俺は一時期人付き合いってなんだっけ状態だったのもあったのと、寄ってくるのが・・・・うん。

良し、この話おしまい。俺の話はおしまい。


クロトに友達が出来たなら、直ぐにここを離れるのは、クロトに悪いかな。あの子何も言わなかったけど、気を遣ってるのかもしれない。

もし、あの子がしばらくここに留まりたいなら、別にかまわない。もともと俺の我儘で旅をしているんだ。

クロトに気持ちを聞くために、それこそ、気を変に遣わせないためにも、あの子たちのいるこの場で聞いた方が良いだろう。


おそらくクロトが気を使った場合、あの子たちの援護射撃が入る筈だ。

寂しいとか、行くなとか、そういった類の事を言われて心が揺れるなら、きっとここに居たいという事だろう。

いつか離れる以上、長くなると逆に辛い可能性も有るけど、どっちが正解かは解らない。だから俺はクロトに決めさせる。本人が好きな方に、決めさせたい。

我儘だなぁ、俺。良くイナイもシガルもこんな俺を好きでいてくれるもんだな。

ちょっと自己嫌悪しつつ、クロトに近づく。


「クロト、友達かい?」

「・・・えっと、うん」


俺がクロトに友達かどうかを聞くと、戸惑い気味に肯定する。肯定していいのかどうか悩んだ、という感じだったな。


「君達、クロトと仲良くしてくれて、ありがとう」

「別に、礼を言われる事じゃねえよ」

「そうそう、ただ遊びに巻き込んだだけだし」

「そもそもこいつがクロトの顔に球ぶつけたのが悪いんだし」

「だ、だってこいつ避けられる距離なのにぼーっと見ててそのままぶつかったんだから、しょうがないだろ!」

「・・・うん、しょうがない」

「ほ、ほら!本人もこういってるだろ!」

「クロト君、いいんだよ、一発殴っても。こいつ直ぐ調子に乗るから」

「おい、何変な事教えてんだよ!」


ワイワイと騒ぐ子供達。しかし、この子たちかなり騒いでるのに、周りの大人は温かい目で見てるのな。

なんか、いいな。見た目は厳つい人多いけど。最初来たときには分からなかった温かさが有る。


「ねえ、クロト、仲良くなった子がいるなら、出発、少し遅らせようか?」

「・・・え?」


俺の言葉に、クロトは不思議そうに顔を向ける。あれ、別に抵抗なかったのかな。


「クロト君、どっか行くの?」

「お前、最近ここに来たって言ってなかったっけ?もうどっかいくのかよ」

「えー、新しい遊び相手できたと思ったのにー」


子供達は予想通りの反応をしてくれた。ドライな感じじゃなかったことに少しほっとする。


「・・・うん、皆とあえて、楽しかった。でも、僕はお父さんと行くから。ごめんね」


だけどクロトは、寂しそうな表情は見せず、むしろ楽しそうな顔で子供達に応える。


「・・・また、いつか会えたら、その時は、また遊ぼう」


クロトは少し首を傾げながら言う。それに男の子の一人が赤面しつつ狼狽える。あれ、もしかしてこの子達、クロトの性別勘違いしてる?


「今すぐ出てくってわけじゃ、無いんだろ?」

「・・・うん、まだ、少しいるよ」

「じゃあ、これから遊ぼう!今からこれ受付に持ってくから、終わったら遊ぼう!」

「・・・えっと」


クロトは俺の方を向く。多分許可を求めてるんだろう。


「別にいいよ。行っといで」

「・・・うん!」


満面の笑みで受付に行く子供たちについて行くクロト。ああやって笑ってると、女の子にしか見えないなー。

あの少年、大丈夫だろうか。ちょっと心配。


「はー、あー、面白かった」


お婆さんは笑い疲れた腹筋をさすりながら復活した模様。ちなみにお婆さんほどではないにしても、組合内でそこそこ笑い声が響いていたのは気にしない方向で行こう。泣けてくる。

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