第269話結果報告です!

「・・・あのさぁ、確かに相談してとはいったけどさぁ」


支部長が頭を押さえつつ俺に言う。昨日帰ってから何かあったんだろうか。


「何が有ったら即日の昼に領主が兵ともなって組合に来て、あの爺の家に乗り込む話になるんだ・・・」

「あ、もう、昨日のうちに行ったんですね」

「頼んだけどさ。確かに頼んだけどさ。まずこっちに話来てから行くと思うじゃん?」

「いや、俺もそのつもりだったんですけど、既に彼女が先に動いてたので」


帰ったらもう既に話つけてたんですもん。俺のせいじゃないですよ。

当の本人のイナイさんはすまし顔でお茶をすすっている。ちなみに3杯目である。やっぱお婆さんのお茶おいしいよね。ハクは相変わらず渋い顔してるけど。


「まあ、手っ取り早く片付いたからよかったじゃないか。あの爺の慌てふためく面も拝めたし、あたしは満足だけどね」

「それ自体は全面的に同意するが、そのために割いていた人員やら、金やら、色々無駄になったのが悔しい。証拠とか証人とか、全部すっ飛ばして無視して爺に問い詰めに行くとか思わねーじゃん」

「くっ、人望の無さが出たのが一番笑えたねぇ。領主がすごい剣幕で問い詰めるから、家の者皆口が軽い軽い」

「くそー、俺の努力なんだったんだよー」


支部長は領主を動かすために、あの爺さんに罪を負わせるために、本当にいろいろやっていたんだろうな。

ただそこに、イナイ先生の影響力への理解が今一足りて無かったのと、行動の速さを理解してなかったので、支部長にとってだけ少し残念な結果になった。


「申し訳ありません。困らせるつもりは無かったのですが」

「あ、いやいや、貴女が悪いという訳では有りませんので。むしろ早期解決になって、助かったのは事実なんです。本当にありがとうございました」


イナイが支部長に謝罪すると、支部長は大慌てでそれを否定する。

実際、この件でイナイが居なかったらどうなってたんだろう。まあでも、この支部長結構仕事する人みたいだし、何とかなったのかも。

色々タイミングとか、なんか、残念なこと多いけど。


「あー、それで、あいつの処分だったっけ」


支部長はもう恨み言を言うのは止めて、本題に入る。

今日はあいつ。あの虎をもらい受ける事が出来ないかの相談をしに来た。


「あれ欲しいっていうなら、別に良いけど、大丈夫・・・か。心配する必要なかったな、そういや」


支部長はあっさりと虎の譲渡に許可をくれる。一応心配をしようとしたみたいだけど、連れてきたのが誰かを思い出し、不要な心配だったとため息を吐く。


「つーか、あれ連れてってどうすんの?」

「シガルの実力の指標にさせて頂こうかと」


支部長のもっともな問いに、イナイが応える。


「・・・お嬢ちゃんのですか?こういっては何ですが、うちの者はお嬢ちゃんの実力を知ったから、あれを捕まえてもおかしくはないと納得している。けど大半の者はあれをエバスとは思いませんよ?」

「ええ、存じています。ですがその方が普段は都合がいい。必要な時に、理解させる事が出来れば構いません。簡単な判別方法が有るのですから」

「・・・ああ、なるほど」


支部長はイナイの言葉に少し考えるそぶりを見せたが、すぐに納得した。理解力凄い。

俺がこの世界の常識に疎いから、単純に理解が及ばないだけなんだろうか。説明をされた上でも、なんでそうなんのかねーと思う時多々ある。


「それじゃあ、どうぞ連れてって下さい」

「御代は幾らになりますか?」

「ああ、要りませんよ。むしろ御代を出さないといけないのはこちらです。それをあの猛獣の譲渡で許して頂きたいなー、なんて」

「ふふ、では、そういう事で」

「ええ、そういう事で」


大人二人は何かを納得した感じで話を終わらせる。なんつーか、この支部長、初対面の印象は悪かったけど、付き合う時間が増えるにつれて印象変わるタイプだな。

無駄な所で損するタイプじゃなかろうか。仕事できるし、ちゃんと周りも見てるけど、なんかこう、残念な感じ。


「では、ハク、お願いできますか」

『解った!』


ハクがイナイに言葉に応え、檻まで行くと、キュルキュルと虎に向かって鳴きはじめる。声は聞こえてるけど翻訳が仕事しないのは、『言葉』ではないからなのかな。一応翻訳切ってないみたいなんだが。

虎は最初こそ怯えていたが、それを聞きながら首を傾げたり、上目遣いでハクの言葉をじっと聞いていたり、最終的に伏せの体勢になったりした。犬か。


『いいぞー。納得した』


あ、あの伏せたの納得したからなんだ。


「ありがとうございます、ハク」

「その特技ちょっと羨ましい」


どうやらハクは虎を納得させたみたいだ。シガルは動物と話でもしてみたいのかな。

まあでも、俺もちょっと、何話してたのか気になるけど。


「今のは一体何してたんだい?」


お婆さんがハクの行動が気になったらしく、聞いて来た。


『そうだな、今後暴れずシガルに大人しく従うか、従わずに食われるか、選べって、大体そんな感じに伝えた』

「そいつらと話せるのかい!?」

『話せる、というのは少し違う。意思をなんとなく伝えただけだ』

「へえぇ・・・面白いねぇ」


意思を伝えただけか。あれかな、翻訳魔術使って、制御が微妙でなんとなく言いたいニュアンスだけ伝わってるような状態かな。

・・・なんか、大事な事伝わって無さそうで怖い。


虎は檻から出され、ハクに大人しくついてくる。若干足が震えて尻尾が丸まっているが見ないふりをしておこう。

シガルに近づいた瞬間、シガルの顔に顔を擦りつけ、嬉しそうに纏わりつく。


「あれ、そういえばこいつが懐くのは別に良いの?」


ハクの反応が薄いのが気になって、ちょっと聞いてみた。シガルにべたべたしてるし、何か思う所無いのかな?


『うん?なんで?』

「あ、そう、いや、別に良いならん良んだ」

『?』


俺の質問に首を傾げるハク。クロトはダメだけど、こいつは良いのか。判断理由はどこなんだろう。

あーでも、子供たちがじゃれつくのは楽しそうに見てたし、あんな感じかな。


「しかし、すげえ光景だな。・・・なあ、嬢ちゃん、訓練所での一戦、本気じゃなかったろ」

「・・・ええ、まあ」


最近のシガルの動きは、さらに良くなってきている。亜竜の一件から、鋭さがさらに増している気がするんだよなぁ。

本当に、うかうかしていると追いつかれそうだ。いや、追い抜かれそうだよな・・・。


「やっぱ、そうか。とんでもねえな、ウムルってのは」

「はっはっは、あそこと戦争なんてことにならなくてよかったねぇ、本当に」

「全くだ」


シガルを基準にすると、とんでもない事になると思います。この年齢の子皆このレベルとか、怖い。

その後虎が野生じゃなく、人が従えてる虎だと分かるように、胴の両側にリュックがぶら下がるような感じの物を付けた。

なんか、ラクダみたいな扱いだな。鞍が無いけど。

あー、でも、馬も荷運びようだとこんな感じか。でも運ぶなら馬より牛の方が強いよな。


最後にクロトが。


「・・・よろしく」


と言って虎を撫でた時に、虎がすぐに伏せたのが気になったけど、なんか野生で感じたんだろう。ハクの事も怯えてたし。

クロト本人は首傾げてたけど。

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