第268話虎をどうするか決めましょう!

「ただいまーっと」

「・・・ただいま」

『帰った!』

「おう、おかえり」


俺達が訓練を終えて宿に戻ると、既にイナイは帰っていた。

服装はまだそのままなので、多分そんなに前に帰ってきたわけでは無いのだろう。アクセの類は外してるけど。


「お姉ちゃん、ただいま。あのね、昨日の件なんだけど・・・・終わったんだね」

「おう」


シガルはイナイに昨日の件を言おうとして、イナイの姿を見て一瞬止まってから終わったと言う。

は、何その会話。シガルはイナイを見て何が分かったんだ。何が終わったの。


「シガル、そこのなに今の会話って顔してるやつに説明してやれ」

「あー、うん」


多分俺の事ですね、はい。

なんでそんな的確に当てるかな。いや、その通りなんだけどさ。


「えーとね、タロウさん。多分、お姉ちゃん領主様の所に行ってきたんだと思う」

「領主って、ここの領主?」

「おう。それ以外どこに行くんだよ」


えーと、昨日の件で領主様にって、昨日の件はあの虎の件で良いのかな。それともシガル達で何か話してたのかな。

まあ、おそらく虎の事だと思うんだけど。


「昨日の虎の件、領主に報告に行ったって事?」

「ああ、あたしも巻き込まれたって話も込みでな」

「なるほど、終わってるね」

「でしょ?」


シガルが終わったと言った意味が分かった。たぶんこれ、イナイは組合で何を言われるのか分かってたんだ。

流石だわイナイ先生。


「一応聞いとくが、組合で何言われた?」


イナイがそう聞いて来たので、組合での会話を説明する。

イナイはだいたい予想通りだったようで、やっぱりなと言った。


「あいつどうなるのかな」

「あいつ?」

「あの、エバス」

「まあ、普通に考えればこの一件が終われば処分だろうな。街中で暴れたんだしな」

「やっぱそうなるのか」


どういう形での処分になるんだろう。もしできるなら、毒殺とかは無しで、あいつに精一杯の抵抗はさせてやりたいんだけどな。

シガルに懐いていた姿を思い出すと、それも少し辛いけど。ちょっと可愛いと思ってしまったからな・・・。

それでも、人の世に害を与えた存在を処分する行為をおかしいとは思わない。それが当然だ。人が生きていく上で、手におえない生き物をそのまま生かして手元にってのは危険すぎる。


『あれ、いらないなら連れて帰っちゃダメなのか?』

「なんか、そんな気はしてたけど、ハク、あいつの事気に入ったの?」

『うん』

「向こうは怯えてるけど、解ってる?」

『うん』


解ってるのか。あれ解っててやってたのか。ハクさんS気質もってないかね?

とりあえず、ハクはあれを連れて帰りたいみたいだが、あの虎をつれて移動はなぁ・・・。


「・・・良いかもな」

「へ?」


俺があれを連れて歩くのはちょっと無理だろうと思っていると、イナイから予想外な答えが返ってきた。


「あれはシガルに懐いてるみたいだし、あれを従えてるって事は、シガルにとって目に見えて分かり易い実力の証明にもなる。馬鹿が近寄る事も減るだろ」

「そう、なの、かな。あたしは別に良いけど」

「でも、この組合の人達はそうでもなかったよ?」

「あれは、支部長がやらせたのと、あの婆さんが組合内に居たからだろ。でなきゃやんねーよ。それにそいつら自身も、本当にエバスなのか疑ってたのも有ったろうしな」


ああ、そうか、支部長がやらせてたんだっけ。それでも良い度胸してるよなあの人達も。

ここに来る前の俺なら、そんな怖い事出来ない。


「でも、あれ連れて歩くと、宿とか大変じゃない?」

「ちゃんと入れておく所が有る宿取ればいいだろ」


あ、それだけでいいんだ。ていうか、今の返事的に当たり前なのね。

いや、よく考えれば当然か。馬車とかで移動してる人、どうやって泊まるんだよって話よね。

いや、だとしても、大丈夫か?あいつ肉食獣で、かなり危ないやつじゃないの?


「とりあえず、下手に暴れねえように躾ける必要があるな」

『うん?暴れないように言い含めればいいなら、私がやるよ?』

「出来るのか?」

『うん。完全な意思疎通は出来ないけど、大体ならできるよ』

「そっか、じゃあ頼む」

『解った!』


なんか話が連れて行く方向で纏まりつつあるな。そういえばシガルの実力の証明っていてったけど、あれとよく似た大人しいのが居るんだし、勘違いされるんじゃないのかな。実際今、イナイが組合員も少し疑ってたって言ったし。

その事も聞くと、イナイはシンプルな答えをくれた。


「エバスは肉食。ダバスは草食。肉渡せば一発で分かる」


ああ、なるほど。そういう区別の付け方が有るのか。


「それにもしダバスだとしても、あの体格のを従えるってなると、なかなか難しいぜ。

懐きやすいっつっても、草食だからあんまこっちを積極的に攻撃してこないし、比較的懐きやすいってだけだ。あのでかさにじゃれつかれて平気な面出来る奴はすくねーし、家畜としても大人しく従えさせられる大きさじゃねーな」


組合の人達も言っていたけど、やっぱでかいのねアイツ。てことはすれ違いに見たのが普通の大きさだったのかな。

移動はどうするんだろう。あいつに何か引かせるのかな。それともジープの後部座席に座らせるんだろうか。一応サイズ的に無理な事は無いけど。


「じゃあ、明日組合にその話しに行く?」

「そうだな、その頃には、領主から組合にも話が行ってるだろ」


今回の件は、もう俺達の手を離れたって事で良いのかな。まあ、もうこれ以上出来る事、ないんだろうな。

この街の裁判的な物に関わる気は無いし。


「今回物凄い早い解決だったね」

「そうだね」


イナイに相談するまでもなく、既にイナイが動いていたので、俺達が何かする前に終わってしまった。

まあ、いいか、平和に終わるなら。多分領主さんは全く平和じゃなかったと思うけど。

何故か地方に来た大国の大貴族が、自分の領地の騒動に巻き込まれ、その事を話に来るとか血の気が引きそう。会った事のない領主様、ドンマイ。

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