第265話早朝からイナイさんは用事のようです。

「タロウ、起きろ」

「んう?」


イナイに揺り起こされて、のっそりと起き上がる。寝ぼけた眼で外を見ると、まだ日は登っていない。

若干光を感じるが、少なくともまだ日が見える前の明かりだ。


「んー、おはよう・・・早くない?」

「あたしは用が有って先に出るからな。起こしとかねーと、夜中に動いてたから、また昼まで寝かねねーだろ、お前」

「あい・・」


まだちょっと眠い頭で返事をする。少しずつ覚醒していく頭でイナイを見ると、イナイの格好が豪奢な感じになってることに気が付いた。

普段はつけないような高そうな髪飾りや首飾り、指輪やブローチなど、装飾品の類をがっつり身に着けている。

普段はつけてても髪飾りぐらいなので、凄く珍しい。服装も普段通りの可愛らしいドレスというより、いまからダンスでの踊りに行くのかと思う様な、高価そうなドレスと、その上にコートを着ている。


「イナイ、どしたの?」


イナイの姿を認識すると、目が覚めた。いったいそんな恰好をして、どこに行くのだろう


「ちょっと野暮用だ。シガル達にも悪いけど今日は付き合えねえって言っといてくれ」

「んー、そっか、わかった」


イナイの言葉に素直に頷くと、イナイは少し嬉しそうに笑い、俺の額にキスをする。


「無意識なんだろうけど、お前は本当に」


少しため息ついて俺にそんな事を言う。何のことかさっぱりなのだが、イナイの表情を見る限り、別に悪い事を言った感じではないからいっか。


「んじゃ、ちっと行って来る」

「うん、気を付けてね」


俺はイナイを抱きしめて、イナイの頬にキスをする。寝ぼけてるせいも有るのか、自身に照れが全くない。

多分まだ、頭起きてないな、これ。

イナイは少し照れながら、俺から離れる。この人はいまだに可愛いよなぁ、こういう所。


イナイを見送り、背伸びをする。二度寝するわけにはいかないだろうし、早めに組合に行こうかな。

そう思って着替えていると、シガルが目を覚ます。


「んうー・・・あれー・・・おはよう・・・・」


寝ぼけた目を擦りながら、シガルが起き上がる。起きてるのかな、あれ。シガルも俺も、起きてるようで寝てる時あるからな。


「あれー・・・お姉ちゃんは?」

「イナイはなんか用事だって」

「そっかぁ・・・」


シガルはさっきの俺と同じ状態で、ぼーっとしている。あの状態気持ちいいんだよな。寝ているような起きているような。

そしてそこからの二度寝も気持ちいいです。


「ちょっと早いけど、組合に行こうと思ってたんだけど、シガルはどうする?」

「いく・・・」

「ん、じゃあ、待ってるよ」


シガルはもそもそと立ち上がり、まだ寝ぼけなら服を着替える。


「あ、そうだ・・」


シガルはとてとてという表現が似合う感じで、ハクに近寄る。寝ぼけてるとシガルは動きが子供らしくて可愛い。

いつもはきびきび動くからな、この子。


「ハク、ハク、ちょっと外出て来るけど、どうする?」

『・・・キュルー・・・んー?・・・いくー・・』


シガルが声をかけると、若干寝ぼけているものの、すぐに起きる。俺だと全然起きないのに、あいつ。


「あ、そうだ、クロトはどうしようかな」

「・・・ついて行くよ?」

「え、うわぁ!?」


クロトを起こそうかどうしようか考えていると、背後からクロトの声がして、振り向くとすでに着替えたクロトが居た。


「い、いつのまに」

「・・・ついさっき」

「そ、そう、じゃあクロトも一緒に行こうか」


クロトは頷くと、置いてかれまいとするわんこのように扉の前に陣取る。

いや、早く行こうと扉の前をうろうろするわんこかな?ここが開くといけるんだよ!っていう感じ。可愛い。


シガルとハクの準備を待ち、外に出て組合に向かう。早朝だが、既にこの時間に働いてる人達もそこそこ見かける。

多分農家の人達とか、パン屋さん的な所とかだろうな。まあ、ちらほらいかつい人も居るけど。


「それにしても、あの虎、どうするんだろ」


あの虎は、死者を出してないとはいえ、街中で暴れて怪我人を出した。

あの虎的には手加減をしてたかもしれないが、あいつの破壊後を見る限り、死者が出ててもおかしくない。


「普通なら、処分、されちゃうかな」

「やっぱり、そっか」


そういう所はどの世界でも変わらないのか。人に仇名した生き物全てを殺せなんて思わないが、自分達の身が、街の人達の安全が優先と考えるなら、そうなるのは当然だ。

あいつは人間の欲で勝手に生け捕りにされて、勝手に飼われて、暴れたら処分だから、あいつにとってはいい迷惑だろうな。


ただ、もし、処分という話なら、最後にせめて、あいつに抵抗させてやりたい。

もしそういう話になったら、その時は、戦わせてやろう。


「ただ今回の場合、なんだか確執がありそうだから、ちょっとわからないかなぁ」

「ああ、あの二人仲悪そうだったもんね」

「そうそう、どっちもこのまま終わらせるつもりは無いんじゃないかな。支部長さんも何かやるつもりだったみたいだし」


確かに最後の会話を聞く限り、まだ何かしらやる気だったように感じた。


「まあ、もしかしたらあの虎持って行ってって言われるかも」

「あの子連れてくのは、ちょっと大変そうだなぁ・・・」

『お、あいつ連れて行くのか?』


俺の言葉にシガルが難色を示し、ハクは真逆にちょっと楽しそうだ。

なんかよくわしゃわしゃやってたし、気に入ったのかな?向こうは怖がってたけど。


「そいや、この時間でも、支部長いるのかね?」

「昨日の今日だし、居るんじゃないかな?仮眠してるかもしれないけど」


ああ、そっか、色々後始末もしてたっぽいから、寝てないかもしれない。

うーん、出直すか?

・・・いや、とりあえず行って、受付の人に聞いて、寝てたら一旦出直そう。

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