第264話ガラバウの成長ですか?
「あれ、ガラバウ、今日は遅いのね」
仕事帰りらしいガラバウを見つけ、声をかける。ガラバウはあまり夜中まで仕事をする性質ではないので、珍しい。
大体早朝に動いて、夕方ごろには終わる事が殆どだ。ただ、支部長から直接仕事を指示された時は別だけど。
「レンか。お前の方こそ、こんなに早く帰ってくるの珍しいじゃねえか」
だが彼は、私こそ帰ってくるのが早いと、珍しそうな顔で言った。
まあ、確かにいつもはもっと帰ってくるのが遅い。そう言われても仕方ないか。
「偶にはね。流石に毎日毎日深夜だと体壊しちゃうからね」
「偶にはっつうか・・・普通は逆だと思うぞ」
「・・・そうね」
本来は確かに逆だね。うーん、最近支部長にも、もう少し休むように言われたりするし、ちょっと休んだ方が良いかなぁ。
仕事自体は楽しいんだけどな。いろんな人が見れるし、話が聞けるし。
「あれ、そういえばガラバウ、今日は組合に来てなかったよね」
「おう、支部長に直接呼ばれてたからな」
「ああ、そうなんだ。終わったの?」
「終わったつうか、これからつうか・・・」
ガラバウの返事は煮え切らない、なんだかもやっとする返事だった。
どういうことだろう。結果に満足いかなかったのかな。
「何か失敗でもしたの?」
「いや、今度遠出する予定になってな。その予定決めだったり、色々・・・。今日やる事は終わったけど、本仕事はこれからなんだよ」
「遠出?どこ行くの?」
「ああ、護衛の仕事頼まれて、国外に行くことになった」
「へえ、どこどこ?」
ガラバウがわざわざ支部長に直接依頼される護衛、という点に少し不安を覚えなくもないが、彼がいろんな世界を見るにはいい機会だと思う。
きっと、この国以外にもっと良い国が有る。いや、この国も支部長がいる分、まだマシな国だとは思う。
けど、きっと、ガラバウがいいと思える人達が居る国が、他にもある筈だ。
「ウムル。そのうちリガラットもいくかも」
「あ、なるほど」
国名で、誰の護衛依頼か分かってしまった。多分殿下の護衛だ。
おそらく、この国では1,2を争う強さであり、支部長の信頼するガラバウを護衛に、という事も有るが、「ガラバウ」という亜人を護衛にしているというポーズでもあるのだろう。
ガラバウはそこを承知で受けたのかな・・・。
私がちらっと心配そうな顔で見ると、彼は呆れたような顔をする。
「何心配してるか大体わかってっけど、俺はそこまで馬鹿じゃねーぞ」
「・・・それならいいけど」
どうやら納得の上でのようだ。人族の道具じゃねーぞとか怒らないんだ。
「でも、良かったね。シガルちゃんの国見に行けるね」
「はあ!?」
私がシガルちゃんの事を言うと、驚いた声を出す。気が付いて無いと思ったのだろうか。
おそらく本人も気が付いている筈だ。この子がシガルちゃんに好意を持っていたのは。
「まあ、振られちゃったのは残念だけど、きっともっといい子が居るから、頑張れ」
「な、なにわけの分かんねーことを物知り顔で言ってんだよ!そいうのじゃねえからな!」
「てれるな、てれるな、お姉ちゃんは察してるから」
「何にも察せてねえよ!」
むう、認めないなぁ。多分彼女の旦那さんの彼も気が付いてると思うんだけどなぁ。
いや、これはもしかして、ガラバウが自分の気持ちを自覚してなかったのかな。傍から見たらどう見てもシガルちゃんを好きなようにしか見えなかったのに。
「そうか、まあ、うん。頑張れお子様」
「いっつもそうやって姉面してっけど、そうたいして変わんねえだろうが!」
「変わらないからこそ、私の方がお姉ちゃんなんですよ」
「あー、もう。いいよもう。俺は帰るからな」
ガラバウは諦めたようにため息を吐き、宿に戻っていく。
「ごめんごめん」
クスクスと笑いながらガラバウをおいかけて、横を歩く。
良かった。最近のガラバウは、なんだか穏やかになっている。以前からあたしやお父さん達には、口で言うほど荒い感じじゃなかった。けど今は前と違って、いつでも外に警戒をしている感じが無い。
いい感じに肩の力が抜けている。勿論彼の事だから、最低限の警戒はしているんだろう。ただすべてを敵対視している雰囲気は無くなった。
彼らのおかげだろうな、きっと。有りがたいと思う反面、少し悔しいなと思う。身近にいた私では、この子の考えを変えることはできなかったから。
だからこそ、そのきっかけを作った子たちの国へ行くのは、良い事だと思う。
「楽しめると良いね」
「仕事だっつの」
「休憩時間ぐらいあるでしょ?」
「どうかな、わかんね」
「あるよ」
「かもな」
弟分が優しく成長しようとしているのを、温かい気持ちで見る。
良かった。今後はもう大怪我をするようなことも、あまりないと思うし。
「はぁー、あたしももう、あんまり見てなくても大丈夫かなぁ」
「あん?」
「こっちの話!」
ニッと笑って、発言を誤魔化す。ガラバウは何言ってんだこいつって顔してる。けどそれでいいや。
可愛い弟を気にしすぎるのも、もう止め時だね。
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