第261話イナイに顛末を説明しておきます!

「ふーん。なるほど」


晩御飯を食べながら、組合での出来事をイナイに報告すると、イナイはあまり興味無さそうに返事をする。


「まあ、その支部長も災難だったな。やり方としちゃ、そこまで間違ってないだけにな」

「あ、そうなの?」

「お前らの階級が、もし実力に見合わない物であったなら、な」

「どういう事?」


俺達の階級が見合ったものじゃないと、あれは間違ってない事になるというイナイ。

けど、どっちにしろ素直に実力見せれば、合って無ければそれなりの結果で終わってしまうだけの話じゃないだろうか。


「その階級が、組合員たちがいちゃもんつけてきた事と同じ理由で手に入れたものだったなら、受付では止められねえだろ。

あくまで同じ場で仕事をする組合員が、よそから来た組合員の実力に疑問を持ったから、そうせざるを得なかったという名目でもなけりゃな。ま、色々としがらみが有るんだよ。

お前らにも不満は有るだろうが、本来面と向かって、実力が信じられないからその実力を見せろとは、お前らの階級的に、職員がいえるこっちゃねえんだよ。その支部長は真実を伝えてきただけ、まだ良いやつだぜ?」

「ほむ」


なるほど、あの支部長、本来はその事実を伝える必要は無かったのに、わざわざ言って来たって事か。

・・・そう考えると、少し悪いことしたと思ってしまう。けど、もうちょっとちゃんと謝ってくれれば、最初あの時点で腹が立つことも無かったんだけどな。


「まあ、多少考えがあめえが、やったこと自体は真っ当だよ。事実として、あたしらは見ただけじゃその実力は信じられねえだろうしな」

「まあ、それは俺もそう思うんだけどね」

「あはは、そうだね。あたし達、ぱっと見じゃ子供の集団だもんね」


イナイが自分達の見た目の事を言い、俺達もそれに同意する。だって、ねえ。間違いなくそうだものね。

特にイナイは、どこかのお嬢さんかとは思っても、ウムルの大貴族様本人などとは思えないだろう。どう見てもただの美少女だからな。


『まだ子供だし、当たり前じゃないのか?』

「・・・あたしは人族の中では十分大人な年なんだよ。竜の年齢で測られても困る」

『そっか』


ハクさん100歳位だもんね。忘れそうになるけどさ。

ハクは、お婆さんのお茶を苦いって言った割に、やっぱくっそ苦い野菜も平気な顔で食ってる。つーか美味そうに食ってる。

あのお茶がなんか違うのかね。


「しかし、エバスの生け捕りか。後で騒ぎにならなけりゃいいが」

「どういう事?」

「単に管理問題の話だよ。野生のエバスを捕えて、それをちゃんと管理しきれんのかねって話だ」


管理か、なるほど。確かにあのごつい虎は、暴れたら大変そうだ。四つ足ぶっとかったし。

ここに来る道中で見た、車を引いていた虎とは段違いのサイズだったもんな。他の土地に行けばもっと違うのが車引いてるんだろうか。ちょっと見たいな。

でも、車引く虎いるんだし、どうにかなるもんじゃないのかな?


「来る途中に、車引いてる虎いたけど、ああいうの居るんだしどうにかなるんじゃないの?」

「見分けはつかないが、あれは多分ダバスだ。ダバスの性格は比較的温厚で、人に懐きやすい。何より主食は草木だ。肉食で狂暴なエバスとは違う」

「え、あれ、違う生き物なの?」

「見た目はそっくりだが、違う生き物だ。とはいえ今言ったように、あたしにゃ見て区別はつかねえがな」


そうか、あれ違う生き物だったのか。サイズはデカい物の、ガラとか全体のフォルムとか同じだから、同じ生き物だと思ってた。

しかし、この世界、肉食みたいな歯の草食動物多くね。馬も種類によってはそうだったし。


『私は解るぞ』

「そうなんだよね。でないと今回の依頼達成できない所だった・・・」

「へえ、ハクは見分け付くんだ」


どうやらハクはあの虎の違いが判る模様。ってか、依頼達成できない所だったのか。


「・・・僕も、解るよ」


ハクに対抗心を燃やす表情でこちらを見るクロト。思わず苦笑しながらクロトの頭を撫でる。

クロトはそれで満足そうだ。


「依頼の期限って、今日中だったの?」

「ううん、期限自体は無期限みたいなものだったんだけど、今日中に終わらせないと、移動できないでしょ?」

「ああ、なるほど。でもその場合は言ってくれれば手伝ったよ。別に急ぎじゃないんだし。ねえ、イナイ」

「そうだな。そういう時は言ってくれていいぞ、シガル」

「・・・うん、ありがとう」


俺とイナイの言葉を嬉しそうに聞くシガル。というか、シガルさん、年齢的にはもっと甘えていい年ごろだと思うのです。

ちょっとしっかりしすぎだと思うんだ。俺がしっかりしてないっていう事は否定できないけどね。


『ね、いった通りでしょ?』

「そうだね」


ハクとシガルがくすくすと笑いながら言い合う。多分シガルは、ハクに同じような事を言ってたのだろう。

そして多分、俺達ならこう答えると思うと、シガルに言ったのだろう。そしてまさしく同じ様に答えたと。


「んで、依頼は上手く行ったみたいだし、予定通り通過するか?それとも少し留まるか?」

「んー、そうだな」


この街に興味がないと言えばウソにはなるが、留まるとまた長期間留まりそうだし、他の国も見てみたい。

ずるずるといつまでもここに居るのも、どうかと思うし。出発しよう。


「明日は起きたら出発しよう」

「あいよ」

「はーい!」

『解った』

「・・・はーい」


皆賛成してくれたようなので、明日は起きたら出発だ。

あ、そうだ。


「起きなかったら叩き起こしてください」


寝坊常習犯は、お願いをしておくのである。


「そうだね、起きなかったら悪戯しよう」

「そうだな、何するか」

『お、なにやる?』

「・・・悪戯?」


・・・まって、シガルだけとか、イナイだけならともかく、この4人が悪戯って、何か悲惨な目に合いそうな予感しかしない。

ちゃ、ちゃんと起きよう。怖い。

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