第260話お婆さんとお茶をします!

「このお茶おいしいですね」

「ほんとだ、おいしい」

『なんか、苦い』


お婆さんに出されたお茶をすする俺達。俺とシガルは美味しかったが、ハクは口に合わなかったようだ。

苦いかな?そんなに苦くはないと思うんだけどな。ハクはくっそ苦い物も、もぐもぐ平気で食ってた事有った気がするんだが、なんか違うのかね。


「そりゃよかった。安物のお茶だがね。そちらのお嬢さんの口には合わなかったみたいだがね」


そう言いつつ、お婆さん自身もお茶を入れて自分で飲む。


「ううー、痛いー、くるしいー」


かすれたうめき声でしゃべる支部長の言葉をBGMに、和やかにお茶を飲む俺達。

出来る事なら、もっと違うBGMが欲しい。


「うー、いってえー」


俺達が座っているソファの後ろの横長の椅子に転がり、胸を押さえながらうめく支部長。

そして、その周りには支部長を心配する職員と組合員が、支部長に声をかけている。


「あはははは!ばっかで!年も考えずにやるからだよ!」

「ばーか、ばーか!偉そうに構えといてなんつーザマだよ!あはははは!」

「ぷくく、し、支部長、くく、大丈夫、くく、ですか?」

「支部長、とりあえず今は転がってて下さい。・・・・ぷくく」


なんて支部長想いの人達だろうか。この組合の支部長の人望が知れるようだ。


「くっそ、てめえら、あとでおぼえてろ・・・」

「あっはっは!そのざまで言っても迫力ねえっつの!」

「今のアンタなら簡単に倒せるなぁ!あはははは!」


かすれた声で心配する組員に応える支部長。そしてさらにそれに励みの言葉を紡ぐ組合員。

なんて心温まる組合だろうか。


「タロウさん、楽しそうだね」

「いや、うん、まあ、面白くて」


多分、この人達、仲いいんだろうな。馬鹿にした言葉では有る物の、どこか温かいものが入ってる声音だ。

多分、支部長の怪我がたいした事が無いからこその馬鹿笑いだろう。

基本的に、組合員の人達はゲラゲラ笑いながら支部長を馬鹿にしている。職員もどこか笑いをこらえられない。いや、うん、普通に笑ってるね。


「騒がしいね、まったく。ぼんくらをぼんくらと言うのがそんなに楽しいかね」


お婆さんはため息を付きながら言う。まあ、仲がいい人達のじゃれあいだろう。

きっと普段はもっと偉そうというか、自信満々な感じなんだろうな、あの人。


「ほれ、そろそろ馬鹿話は止めときなよ」


お婆さんが手を叩いて騒ぎを修めようとする。


「なんだ、婆さん。孫が苛められてるのがみてられなくな――」


止めに入って来たお婆さんの肩を叩き、にやにやしながら話しかけた男はお婆さんの裏拳を顔面に受け、その場で沈んだ。

あれ、このお婆さん、めっちゃ強い。今の裏拳、すげー早さだった。


「だれが孫かね!こんなぼんくらが孫なんて想像したくもない!ほれ、馬鹿言ってないであんたらはとっとと仕事に戻りな!」


怒り心頭と言わんばかりの声音で組合員と職員に言い放つと、これはまずいと、慌てて職員たちは受付の内側に戻っていく。


「あーあ、こいつも馬鹿だな。婆さんに舐めた口きくから」

「とりあえず端に寄せとけ」


お婆さんにのされた男はずるずると引きずられて組合の端っこに捨てられた。後頭部痛そう。

お婆さんの方が支部長より怖がられてるっぽいな、これ。

つーか、お婆さんが組合員のしたことに関しては、誰も何も咎めないのね。


「さて、すまないね、みっともない所を見せたね」

「あ、い、いえ」


先ほどの剣幕が頭に残っており、思わず声が上ずる。

お婆さんはそんな俺をきょとんとした目で見て、直ぐに笑顔に変わる。笑顔だとすっげー美人だわこのお婆さん。


「・・・くくっ、なんだいあんた、あんたの方がよっぽど強いだろうに。くっくっく」


どうやら怖がったのがツボにはまったらしく。笑いを堪えようとしているが、堪えられないようだ。

それならいっそ笑ってくれていいんですよ。


「あんた、不思議な子だねぇ」


笑いながら俺をそう評するお婆さん。だって怖かったっすよ、さっきの剣幕は。


「ま、とりあえずは、もう一度謝っとくかね。うちのぼんくらがすまなかったね」

「あ、いえ、もう気にしてないですよ」


お婆さんはもう一度俺達に頭を下げるが、もう気にしてはいない。

というか、なんとなく、あの人はあの人で考えがあったのだろうなとは思える。組合員や、職員の人達を見ていると、なんとなくそう思う。


「だれがぼんくらだババアー」

「お前だよ、ぼんくら」


支部長が異を唱えるが、お婆さんは一刀両断に切り捨てる。

この二人もなんか面白い関係だな。お婆さんの方が支部長っぽい。


「謝罪ついでに、もし聞いて良ければ、さっき何したのか教えてもらえるかい?少し興味が有ってね」


お茶をすすりながら、支部長との一戦のタネを聞いてくるお婆さん。その言葉に、組合員や職員も反応を見せる。


「あー、まあ、言ってしまえば単純ですよ?」

「そうなのかい?あたしには、何をしたのかサッパリだったんだが」


まあ、それはそうだろう。仙術は、魔術が使えれば感じる事は出来ても、仙術自体をちゃんと使えなければきちんとした認識は出来ない。

ガラバウが特殊なんだよ。あいつがおかしいんだよ。


「気功仙術って、ご存知ですか?」

「気功・・・もしかしてガウ・ヴァーフかい?」


あ、このお婆さん、元の名前の方を知ってるんだ。


「そうです、それです」

「・・・マジ、かい。あんたそれ、自分が何いってるかわかってんのかい?」

「え?」


お婆さんは驚いた顔で言うが、俺には何のこっちゃ。

何言ってるって言われても、事実だからなぁ。


「・・・あんたのそれ、ウムルの英雄って呼ばれてる嬢ちゃんが使ってる物と同じって事、だよ?」

「え、ええ、そうですけど」


何か言ったら不味かったのだろうか。お婆さんは俺の返事を聞くと、天を仰いでため息を付く。


「坊やもちゃんとそこまで連絡おくれよ・・・」


と呟くが、坊やって誰だろ。多分会話の流れ的に俺の事ではないだろう。


「仙術なら、誰もわかんないね。この組合の人間じゃ、感じ取れるやつもほぼいないんじゃないかね」


お婆さんは顔をこちらに向け直し、真剣な顔で言う。なんか、少し、目が鋭い。


「つまりは、仙術で胸を一撃。それで終わらせたって事だね?」

「ええ、そうです」

「はぁ、なるほどね。とりあえずあんたが並じゃないって事は、それで十分解ったよ。あんなもの習得なんて、普通出来やしないからね。あたしは2,3回死にかけて諦めたよ」


そこまで、仙術という言葉に聞きなれなかったのか、頭にはてなが浮かんでいた組合員たちは、お婆さんの言葉を聞いてざわつきだす。


「婆さんが無理だったって?」

「マジかよ、あの婆が無理なのかよ」

「そりゃつえーわ。婆さんよりつええって事だろ、あの坊主」

「あー、そりゃ支部長瞬殺だわ」


うん、いまなんか、暗にこのお婆さんの方が、支部長より強いって言ってない?

ま、まあそれは良いとして、ここでは仙術って知名度ないんだな。ミルカさんの名前もあまり知らないのだろうか


「ねえ、あんた、もしかして、ミルカ・グラネスと知り合いなのかい?」


知ってたわ。


「え、ええ、そうですけど。というか師匠です」

「・・・ああ、うん、わかった。なるほど、なんとなく見えてきたよ。なるほど、もしかするとあんたと知り合いだね」

「え、全員ですか?」

「ウムルの8人とだよ」


ウムルの8人、ていうと、やっぱりあの人達だよね。


「そう、ですね。それにシガルもウッブルネさんに鍛えられてます」

「・・・あの聖騎士にかい?」


俺の返事を聞いて、シガルを信じられない物を見る顔をしながら聞いてくる。

お婆さん色々知ってるんだなぁ。もしかしたら昔ウムルに行った事とか有るのかも。


「はい。おじ・・師匠からは短い間でしたけど、教えを請いました」

「・・・ははっ、こりゃあ、手におえんね。馬鹿やったねぇ、あんたも」


シガルの返事を聞き、笑いながら支部長に声をかけるお婆さん。


「絶対、あいつ、俺がこういう行動とるって解ってて、半端に情報よこしやがったな・・・」


まだ苦しそうにしながらしゃべる支部長だが、言ってることは俺には良く解らん。

まあ、察するに、王都の支部長さんから何かしら聞いてたけど、中途半端に聞かされてたって事かな?


「こりゃ、笑うしかないねぇ。坊やもそっちを教えといてくれりゃいいだろうに。まあ、言ってもしょうがないか」


お婆さんは楽しそうに笑いながら、俺達を見る。


「ありがとね、面白い話を聞けたよ。色々と合点がいったよ」

「そう、ですか。どういたしまして」


合点がいったとは、何の事かな。王都での事かな。ま、別に気にしなくてもいいか。

そのあとはしばらく他愛ない雑談をして、皆で宿に戻った。

しっかし、お婆さんの裏拳凄かったな・・・。

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