第258話支部長の行動は、考え有っての事だったのですか?

「うー、どうする。3倍かぁ。本気できっつい」


事務所内で書類を作りながら唸る。これ多分誤魔化したらアマラナの野郎が乗り込んでくるのが見える。

くっそ、だれだよ、あの少年がお人好しだって言ったの。止める気配すらなかったじゃねえか。


「自業自得だよ。大体受付のねーさんも物凄い困ってたんだから」


組合で古株のババアが俺を咎める。わかってんよんなこと。


「いあや、だってよー。実際あの小娘が正規の手段で入手できるなんて思わねえよ。後で面倒が起こるぐらいなら、今面倒起こしておいた方が後々楽だろ」

「なら、それ位払うんだね。アマラナ坊やの話を信じなかったお前の自業自得だよ」

「くっそー、皆あいつに味方しやがって。大体アイツ若い頃くっそ外道だったのに!」

「それはアンタが坊やに事あるごとに突っかかってたからだろうに・・・」


そうだとしても、どうやったら今のあいつみたいに、人の為に生きる貴族が出来るんだ。昔のあいつ愚図は死ねって普通に言うような奴だったんだぞ。亜人のガキ世話してるとかも正直信じてなかったっつの。

大体アイツ、国の他の貴族を複数相手に大立ち回りもしてんのに、なんで処刑台に登ってねえんだよ、ほんと意味わかんねぇ。


「あいつとあいつの弟子の言葉なんて信用できるかっつの」

「じゃあ、どうすんだい。あの子の実力は本物だったんだろ?あの二人に異議申請されて、本部で言い訳するのかい?」

「・・・無理」


多分、あの二人が異議申請したら、申請は通る。そこにあの娘が実力を本部の職員に見せればそれ終わりだ。

俺が一人で、何を言い訳しようが、多分何も通らない。


「じゃあ、大人しく払うんだね」

「わあってんよ!」

「ま、あんたの考えも解らなくはないからね。金が入るまで、食事位は作ってやるよ」

「・・・助かる」


くっそ、またこのババアに借りが出来る。働けば働くほど苦労が出来るってどうなってんだよ畜生。

それもこれも全部アマラナの野郎が悪い。絶対あいつのせいだ。


「大体今回のは、もし正規手段じゃなかったら、受付のあいつだって何言われたか分かんねーてのに」


別に何問題がなければ、それで構わない。けど、もしあれが正規手段じゃなかった場合、組合にも責任は問われる。

勿論、あの娘に対応したあいつも多少は。それは避けたかった。

些末な物なら、そこまで問題はないが、あの獣はシャレにならん。あんな人に懐いてるエバス、有りえねえ。もし誰かが元々飼ってたなんて話になった場合、おそらく貴族か、それに関わりある金持ちだ。

一職員にそんな被害、食わせるわけにはいかねえ。


「それが分かってるから、あの子も一応従ったんじゃないか」

「そりゃそーだが・・・」

「問題が起こったとき、ケツを持つのは上の責任だ。嫌だったらとっとと辞めちまいな」

「辞められないの知ってるくせに・・・」


くそババアめ。俺がもしここ辞めたら、利用価値無しとアマラナの野郎は判断するに決まってる。そうなったらあいつが俺に何をするか、考えるだけで恐ろしい。


「別に坊やは何もしないと思うけどねぇ。大体あの子たちの情報くれたのも坊やじゃないか」

「あんたらはあいつに甘すぎんだよ!俺は初めて会った時に殺されかけてんだぞ!」

「それはアンタが坊やに喧嘩を吹っ掛けたからだろ?」

「・・・だからって、死なない程度に刺すとか、まともな思考回路じゃねえよアイツ」


思い出すだけで昔刺された所が痛む気がする。あ、泣きそう。


「金、貯めておくんだったなー。これ払ったら本気で首が回らねぇ」

「嫁さん出来なくてよかったねぇ。もしいたら、帰ったら修羅場だったね」

「ソウダネ」


ババアの嫌がらせをサラッと流して、書類作成を終える。

嫁さんは出来ないんじゃないやい。作らないだけだい。


「あ、そうだ」

「あん?どしたい」

「いや、まあ、この支払は自業自得かもしれんが、それでもこれだけ出すわけだし、少しこっちの言い分を聞いてもらおうと思ってな」


流石に、この額素直に出すんだ。ちった耳傾けてくれんだろ。


「5倍って言われないと良いねぇ」

「だ、大丈夫大丈夫。多分」


すっげー言いそうだけど。とりあえず言い出したらもう、即頭下げよう。これ以上は本気で出せん。

あー、やってらんねー。貴族の嬢ちゃんが居ねーならと思ったのに、とんだ癖もんじゃねーかあの嬢ちゃんも。


「少年の方は若干上手くいなせたと思ったのに」

「大体、アマラナ坊やに認められるお嬢ちゃんを、出し抜けると思うのが間違いじゃないかね。ただの小娘にあの階級を渡す男じゃないだろ」

「いやぁ、支部長職ついて長いし、耄碌したのかなって」

「あたしは何も聞かなかったからね。それ本人に言ったら昔の続きされかねないよ」

「怖い事言うなよ・・・」


今回の事件、全部終わってからここには報告が届いた。

正確には、事件当初から連絡は来ていたが、準備が整って応援を出す段になったときには、既に終わっていた。

だから、あいつの戦う姿は見ていないが、それでも前線に出て、亜竜を数体、単独で屠ったと報告を聞いた。

ダンの野郎も、今じゃただの宿屋の親父やってるくせに、戦場に出て同じような戦果と聞いた。


もうやだあいつら。人間じゃ無いって絶対。あいつら化けもんの一種だって。

大概年も取ってるくせに、なんで若い頃のままの強さなんだよ。何だよ、単独で複数の亜竜屠るとか。ありえねーよ。しかも二人で組んでさらに数体とか。

そいつがここに来て、俺に剣を向けるとか、やだ。怖い。想像したくもない。


「あんたは、坊やに反発したいのか、大人しく従うのか、分かんないねぇ」

「刺されない程度に嫌がらせをしつつ、表面上は問題ないようにして、あいつへの面倒事を増やしたい」

「そのうち本当にクビになるよ・・・」


まあ、多分、俺がここの職員ちゃんと守ってる間は大丈夫だろ。

仕事さえしてりゃ、組合の本部もなんもいってこねーし。


「ま、クビにはなるわけにはいかないので、書類持って行きますかね」


出来上がった書類を重い気持ちで持って、嬢ちゃんの所に行こうとする。


「ま、何しようとしてるのか、大体想像つくけど、何時までも若くないんだからね」

「へいへーい」


ババアはお見通しだねぇ。

アマラナとダンは間違いなく化け物だ。あの二人の強さは、良ーく知ってる。若い頃何度ものされてるしな。

けど、あの少年は、その化け物をして、化け物と言わせる存在。

俺がよく知る化け物が、自分はまだ人間の領域だったなどのたまう様な事になった化け物。


流石に信じられんよ。あの少年に、そんな力は見えん。

だから、少し、試させてもらおう。俺の大っ嫌いな化け物が認めた化け物を。

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