次元の裂け目に落ちた転移の先で

第257話シガルさんカッコいいです！

「とりあえず、そいつは引き取らせてもらうんだけど・・・いやホント意味が解らないね。何でそんなに大人しいの？」

受付に戻った支部長がシガルにすり寄る虎を見て、疑問を口にする。

「多分、守ってくれる人だと思ってるんだと」

「守る？」

「まあ、色々有って、ハクを怖がってて、それを・・・助けてあげた形になるのかなぁ」

「ほう」

シガルは自分でも若干何が正解なのか分からない感じで答え、支部長は興味深そうにハクを見る。

「そういえば、そちらのお嬢さんは内内でこそっとは話していたが、こちらとの会話には一度も応えていないな」

『・・・喋ると面倒そうだったからな』

ハクが支部長の言葉に応え、口を開く。すると周囲の者はざわめき、驚きの言葉を口々に発する。

なんか、この光景見慣れちゃったな。

ただ支部長だけは、全く驚いた様子はなく、ほうほうと言いながら聞いていた。

「なるほどなるほど、面白いねぇ」

支部長は、終始楽しそうだ。そして俺はそれに若干イラッと来ているのだが。

「ところで、今回の事は、貴方がやらせたという事で良いんですよね？」

「ふむ、そうだね」

「では、本来発生する筈の無かった業務を、支部長自ら発生させた上に、こちらへの報告は一切無し。何かしらの本来の業務外の報酬は有るんでしょうね？」

「あー、なるほどねぇ」

シガルは支部長に、今回の件での追加報酬を求める。支部長は、仕方ないかといった感じで応える。

「んじゃまあ、報酬に3割増しで俺の懐から出しましょう」

「3倍です」

「は？」

追加報酬に答えた支部長に、シガルがさらに上の額を言う。横からちょろっと書類を見たが、報酬額が元々高いなこれ。

これ一回成してしまえば、結構生活できるぞ。なんでこんなの残ってたんだ。

・・・あ、依頼内容に、なるべく傷つけず捕縛とか書いてる。無茶言うなー。まあ、シガルは何故か上手く行ってしまった訳だが。

「3倍の報酬を要求します」

「い、いやいや、エバスの捕縛は金持ってる道楽爺の依頼だから、報酬も元々高いし、3割増しでも結構な――」

「3倍の報酬を要求します。もし応じてもらえないならば、さらに額を上げて請求します。早いうちに応じた方が、貴方の為であると思いますよ？」

支部長の言い分など一切聞く気は無いと、強気でいくシガル。にっこり笑ってるけど、これ怒ってるな。

これの三倍かー。もしこれ応じたら、今までの仕事で稼いだ額、余裕で超える額だな。シガルも吹っかけるなぁ。

「い、いや、でもね」

「4倍」

なんとか交渉をしようとした支部長に、そんな言葉など興味がないと額を吊り上げる。

支部長はそんなシガルを見て、頬をひくひくさせた笑いになっている。

「け、けど、それに応じなかったら、君は依頼失敗になるよ？」

「その場合、本部に今回の事を異議申請させていただきます。あたしの本籍はウムルで、この国ではないので、やりようはありますよ」

「い、いや、支部長自ら依頼未達成の判断を下した書類が回れば、本部に申請ってのは、それは無理――」

そこで支部長は、はっとした顔になる。

「気が付かれましたか？」

「・・・あー、うん。参った。降参。支払う、支払うよ。けど3倍でお願い。4倍は流石に首が回らない。無い物は出せない」

何かを納得し、シガルの言い分に負けを認める支部長。だが流石に4倍はきついので許しを請う。

うん、だってこれ、4倍って、普通に1、２年生活できる額よね。大人しく暮らしてれば。

「本当ですか？」

「うん、払う。ちゃんと払うよ。何なら今から目の前で書類作るよ」

「いえ、そちらではなく、本当に4倍で払えないのですか、と」

「え」

シガルはにっこりとしながら支部長に問う。うん、これ、ものすげえ怒ってる。

どうすんだろ、この人。つうかシガル滅茶苦茶強気だな。シガルには何が見えてるんだ。

「どうなんですか？」

「いや、流石に、4倍は、ちょっと、ほんと、許して」

「・・・まあ、流石に額が額ですから、4倍は酷ですか。3倍で納得しましょう」

「た、助かるよ」

全然助かって無さそうな表情でシガルの言葉に応える支部長。

でもこれ、無茶な額いって、落とすタイプのパターンじゃないかね。まあいいけど。

「じゃ、じゃあ、そいつを入れる檻と、報酬の書類用意するからちょっと待っててね」

「ええ、解りました。ただし何か少しでも誤魔化して有れば、その時は」

「わかった。参った。大丈夫、ちゃんとやるよ」

シガルが念押しをすると、もう許してと言わんばかりに奥に行く支部長。

それと交代で歩いてくる、受付の女性。さっき目をそらした人だ。

「あ、あの、先ほどは、申し訳ありませんでした」

女性はシガルに頭を下げ、俺にも頭を下げる。

「いいですよ、多分そうしろって言われてたんでしょ？」

「その、はい」

「さっきのでその分は返したんで、いいですよ」

「本当にすみません。ありがとうございます」

受付の女性は気にしないでいいというシガルにもう一度頭を下げ、元の場所に戻っていった。

なるほどね、支部長が言い含めてたわけだ。

「しっかし、シガル強気だったね。何か手があったの？」

「うん。奥の手として、これも有ったし」

シガルはにっこり笑いながら、録音の技工具を見せる。

「最初の揉めてた時から、あの人の言い分まで全部録音済みでーす」

「・・・シガルさん、抜け目ないっすね」

『流石だな！』

やべえ、この子ほんと機転と応対力の高さが凄い。ハクはそんなシガルを誇らしげに胸を張る。

君今回、ほとんど喋ってないよね。

しかし、支部長が引いた理由は何だったんだろう。これの事は知らないだろうし、気が付いて無いだろう。

「しかし、なんであんなにあっさり認めたの？」

「あたしたちはこの国の国籍じゃないし、一所でずっと仕事してたわけでもないでしょ？」

「うん、そうだね」

「そして、あたし達の階級を上げる手続きは、二回ほど、他の支部長自らやってる。それも国の貴族も関わった上で」

「そう、だね」

あのでっかいゴリラの時と、亜竜の事件でそうなってるね。

「他国の支部長が、それも複数の支部長が実力を認め、階級を上げて、その上その地の貴族とも関わりが有り、何を成したのかの情報も残ってる。

特に片方に限って言えば、この国の中央の支部長であり、貴族でもある人。その人達がもし、私の言葉に応じて異議を唱えれば、あの人の支部長としての地位は危うくなる。

後はあたしが、そこで実力を示せば、それで解決、って感じかな。あたしがずっとここでやってたわけじゃないから出来る手だけど」

「・・シガル、本当に凄いね」

「えへへ」

あそこでそこまで考えてたのかこの子。俺は全く思いつかなかった・・・。

なんか、もう、俺ちょっと悲しくなってきた。

「た、タロウさんが、来てくれて嬉しかったよ」

「う、うん、ありがとう」

自分のダメさに落ち込んだ俺をフォローしてくれるシガル。この時点でダメすぎるだろ、俺。

ハクさんはなんかずっと虎をわしゃわしゃやってた。なに、気に入ったのそれ。でもめっちゃ怖がってるからやめてあげない？