第255話シガルを迎えに行きます!
「お、帰ってきた」
シガル達が少し心配になって、探知の範囲をじわじわ広げながら探していたら、街の中に戻ってくるのが分かった。
ただ、方向的にその後こちらに戻って来る感じでは無いな。もしかしたら組合で依頼を受けて、報告に行くのかな?
なんか、覚えのないのが二人の傍にいるけど、誰だろう。えらくシガルと近い気がするんだが。
しっかし、探知使ってるのを解らないように広げると疲れるな・・・。
いつもの範囲に戻そう。流石に街全部行けるほどの探知は神経使うわ。
「ふいー」
息を吐いて背伸びをし、一息つく。組合かぁ。俺もちょっと行って来ようかな。
どうせ報告したら帰ってくるんだろうし、迎えに行こう。
イナイへの書置きを置いて、外に出る。組合の方向は解らないけど、シガル達について行けばいいだろう。
とりあえずシガル達に合流すべく歩いて行くが、シガル達は途中で足を止めた。
てことは、そこが組合の場所かな?んじゃま、そこに向かいますか。
「ここかな?」
平屋で有るものの、横に広い家屋がデンと存在し、近くを厳つめの人たちが多く行きかっている。多分あそこだな。
とりあえず中に入ると、誰かが何か揉めていた。
「フザケンナ!どんな手を使えばお前らみたいなガキがそんな階級と仕事がもらえるっつうんだ!」
「あたしたちは実力で貰った階級と、そこから受けた仕事を達成しただけです」
叫び声のした方を見ると、いかつい男たちとシガルが睨みあっていた。
・・・あとなんか、シガルの傍にバカでかい虎が居る。虎っぽい何かだけど。なんかしっぽがすげえデカいし太いぞ。
あいつ4つ足全部滅茶苦茶デカいけど、同じぐらい尻尾が太い。
見た目的には最近車を引いていたのを見かけたのに似ている。ただめっちゃでかい。
「なめんなよ、お前らみたいな女子供にエバスが狩れるはずねえだろ!」
「狩ってないです。生け捕りです」
「尚の事、出来るわけねえだろ!どこで飼いならされたのを盗んだのか買ったのかしらねえが、少なくともまともに捕まえられる筈がねえ!」
「そんな面倒なことしないです」
「じゃあ、どうやったっていうんだよ!」
「見ての通り自分たちで捕らえました」
「野生のエバスがそんなに人間に懐く筈がねえだろ!」
叫ぶ男たちと、うんざりした感じのシガル。
ハクは会話に入る気なく、虎の顔をわしゃわしゃやってる。気のせいかな、虎の尻尾が丸まって腹守るようになって、若干及び腰になりながら震えてる気がする。
あれ、懐いてるっていうか、ハクを怖がってるんじゃないのかね。
「はぁ、いい加減にしてくれませんか?貴方達が納得しようがしまいが、あたしたちはどうでも良いんです。いい加減どいて下さい」
「いいや、どけねえな!そんないかさまで仕事されちゃ、俺達にとっても迷惑なんだよ!」
「別に今後ここで仕事をする気は無いです。今日限りですんで安心してください」
「回数は関係ねえんだよ!」
あれ単に、いちゃもんつけてるだけじゃないのか。つーか、どんな形であれ、仕事を成したのであればそれで問題ないだろ。
とりあえず騒ぎの中心に歩いて行く。
「とりあえず、落ち着いたらどうですか?」
中央に割って入って、シガルの壁になる。
「な、なんだてめえ!」
「タロウさん?なんでここに?」
男たちはいきなりの乱入者にも怒声を浴びせ、シガルは俺がここに居る事に驚く。
ちなみにハクは既に気が付いてた。虎をいじりながら、ちらっとこっち見てた。
「貴方方が何をどう不満を持っていようと、どんな形であろうと、仕事の達成は仕事の達成です。それに文句を言う権利が貴方方に有るんですか?」
「け、権利だと?」
「ええ、貴方方が組合の仕事の管理をしていて、シガル達の仕事の達成に問題ありというなら仕方ないでしょう。けど、貴方方はそう言った仕事に就かれているのですか?
違うなら、今やっていることは只の仕事の妨害ですし、ここの支部長さんにあなた方の行為について抗議するだけですけど」
「て、てめえ、生意気な・・・!」
単純に文句の言い合いなら、状況と持ってる物で勝負するだけなら俺でも出来んだい!
腹の探り合いはやっぱりできねーけどな!
「反論が無いようでしたら、通して頂きます」
「・・・」
俺の言葉に睨み返すだけで、男は動こうとしない。いや、どけよ。
「いくら何でも見苦しくないですか?」
「うるせえ!こっちゃ体張って生きて来てんだぞ!ガキの道楽で同じ階級持たれて頭に来てんだよ!」
「別にそれはそちらが頑張ればいいだけでしょう。こちらの事は関係ありません」
「るせえ!どうせ金で階級買ったんだろうが!」
うーん、これはらちがあかんな。俺は受付の方を見る。
すると受付の女性は俺からそっと目をそらす。なるほど、それがここの職員の答えか。
「ふん、向こうに助けを求めても無駄なんだよ。誰も納得してねえんだからな!」
「なるほど」
てことは、納得させりゃいいのか。つーか、それなら話はやくね?
「じゃあ、納得させましょうか」
「ああ!?」
「簡単な話です。ここも組合ですし、訓練場ぐらいあるんでしょう?そこで手を合わせましょう」
「はっ、ガキ殴り倒せってか!?」
俺は男の答えを無視してシガルの方を向く。
「シガルもそれでいいかな」
「えっと、いいの?目立っちゃうよ?」
ああ、なるほど、それを考えて実力行使に出なかったのか。どうりでまどろっこしい問答してると思った。
とはいえ。
「そんなの捕まえる仕事してる時点で、もう考えるの無駄だと思うよ」
「あ、あはは」
俺の指摘に、シガルは少しばつが悪そうに笑う。
『私がやろうって言ったんだ。シガルは悪くない』
「あ、そうなの。そっか、ごめん」
「ううん!いいのいいの。あたしもそれでいいって言ったんだし」
ハクに付き合ったのか、悪い事言ったな。
とまれ、こっちの話はまとまった。シガルは元々実力行使も考えてはいたのなら、実行するだけだ。
「組合所でシガル達の実力を示します。納得いった場合、貴方方の妨害行為も咎めさせてもらいますよ」
「何勝手に話を進めてやがる!」
「貴方方が納得できるはずのやり方でしょう。要は実力を信じていないんですから。それにすら応じないなら、何の為にここに立ってるんですか?それとも子供に負けるのが怖いんですか?」
「んだと、てめえ!」
わーい、こういう人達は煽り耐性低いな。まあ、楽で助かる。
「職員の人も誰か来てください。この人たちが見苦しい言い訳しないように」
俺はそう言って、受付の方を睨む。ぶっちゃけ、俺はこの男どもより、職員に腹を立てている。
男どもの気持ちは、やりすぎだとは言え、分からなくもない。
けど、職員はこういう時に割って入って、問題を起こさないようにするもんじゃないのか。
「なら、俺が行こう」
奥の方に居る職員たちの中から、目つきの鋭い男が出てきた。
歩き方から察するに、こいつも何かしら腕の覚えがありそうだ。
「これにまで出て来なかったら、どうしようかと思いましたよ」
「少々事情が有ってね」
俺の言葉に、肩をすくめながら言う男。事情ねぇ。もしかしてここもなんかしら問題抱えてるのか?
「じゃあ、まあ、いこうか」
職員の男は、怒鳴っていた男たちの一人の背中をポンと叩き、訓練場に行く。
男は一瞬何か戸惑うような雰囲気を見せたが、大人しく訓練場に向かう。
「んー?」
シガルがその様子を見て、少し首を傾げた。
「シガル、どうしたの?」
「んー、ううん、とりあえずあたし達も行こう。ハク、行くよー」
『分かった』
俺の問いにシガルは応えず、ハクを呼び、奥に歩いて行く。もちろん傍らに虎が居る。シガルの顔を見つつ、ちらちらとハクの顔を見ている。
歩く場所はシガルの隣だ。対角線上にハクが居る。これ、ハクから守ってくれる人って認識してないかな。
「タロウさ―ん?」
俺が止まって考えていると、シガルに呼ばれる。
なんとなく俺も疑問は有るけど、行きますかね。
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