第254話俺達が一番最初に帰ってきたようです!

「なあ、クロト帰ってくんの、少し遅くねえか?」


日も暮れて、完全に夜になった時間帯に宿に帰ってきた俺達が、一番最初に帰ってきた様子なのを見て、イナイがクロトへの心配を口にする。

クロト探知きかないから、解らないんだよな。


「そうだね。シガルと合流したのかな」

「うーん・・・」

「探しに行く?」


何かあった可能性は無くはない。それを考えると、一応探しに行った方が良いのは確かだ。

けど、クロトを信じると言った以上、待ってあげるべきかなとも思ってしまう。


「とりあえず、シガルが帰ってくるまでは、待つか」


イナイは頭をかきながら結論付け、ベッドに座る。俺もその横に座ると、イナイは自然と俺に体を預ける。

俺もそれを当たり前に抱き留め、イナイの額にキスをする。


「なんか、まだ体がふわふわしてる気がする」


上気した顔でイナイは自分の状態を口にする。それは俺も似たような物だったりするけど。

どちらともなくお互いの唇を求め、抱きしめ合いながら、相手の存在を確かめるような、求めるようなキスをする。


「ふふ、いいな。憧れてたよ、こういうの」

「そうなの?」

「なんとなく、一生こういう気分にも、こういう事が出来る相手にも、会えないと思ってたからな」

「イナイは可愛いから、絶対イナイに惚れてるやついると思うよ?いても絶対譲らないけど」

「ふふ、なんだそれ。どうなんだろうな。あたしの見た目で、まともなやつが惚れるとは思えねえんだけどな」


イナイの見た目。単純に容姿だけを見るなら、俺より年下の美少女だ。完全に年上には見えん。

でも実際はそこそこの年いってるわけだし、それを知ってる人も少なからずいるはずだ。

その上イナイは、純粋に「いい女」だ。それを理解していれば、惚れる奴は絶対いてると思うけどな。


「ま、でも、競争相手居なくてよかったよ。いたらこうはなって無かっただろうし」

「あはは、そうかもな」


俺の言葉を受け、イナイは楽しそうにがしがしと頭を撫でる。なすがままにされながら、今のこの幸せな時間を噛みしめる。

本当に、居なくてよかったよ。この人が居なかったら、俺は、こんなに幸せな気持ちにはなれなかったかもしれない。

勿論、シガルだって、俺の支えになってくれてる。あの子の事も、大事だし、好きだ。

けど、この人が居たから、俺はあの時泣けたんだ。この人に、俺は、心の底から寄りかかれたんだ。


「好きだよ、イナイ」


顔を見つめながら伝える。純粋に、君が好きだと。心の底から、君の事が好きだと。君が居てくれて嬉しいという思いを込めて。


「・・・あたしもだ」


嬉しそうに、俺に応え、またキスをする。多分お互いにまだ、高ぶった心が全然収まって無い。だから二人っきりが続くとこうなるんだろうな。

この宿でこれ以上は、皆が帰ってきた時にまずいんだけど、俺、大丈夫かな。このままの雰囲気だと、抑える自信ないんだけど。

なんて思っていると、扉が少し開くのを感じた。イナイもそれに気が付き、俺からゆっくり離れ、扉をみる。


「・・・ただ・・いま」


クロトが少しおどおどしながら部屋に入って来た。その姿は黒い。だがその黒さはクロトの力ではなく、単純に黒く汚れている。


「お帰りクロト。どうしたんだ、その姿」


イナイがクロトを迎え、汚れた事情を聞く。別に咎めるふうでもなく、優しい声音だったはずだ。


「・・・ごめんなさい」


けど、クロトはそれに謝罪で返事をする。


「クロト、別に怒ってないし、叱ってないぞ。事情を聞いてるだけだ。帰ってくるのも少し遅かったし、何かあったのか?」


イナイは変わらず優しい声で問う。クロトは自分の袖を握りながら、少し泣きそうな顔でイナイを見上げる。


「・・・気が付いたら、暗くなってて、服も、凄く汚して、その」


ああ、そうか、あんまり遅くならないようにと約束した事を気にしていたんだ。服も気にしてるみたいだけど、子供があれぐらい汚すのは、別に気にする事は無いと思うけどな。

むしろハクとあれだけやり合って、あまり汚れてなかったことの方が驚いた。普通はボロボロになってもおかしくない。

怪我とかしてたり、服がびりびりだったりしたら、何かあったのかと思うけど。でもそのクロトがあの汚れだと考えると、何かあったのかなとも思えはする。

でもなあ、なんとなくだけど、クロトの様子からそれは無いんじゃないかなって思う。なんとなくだけど。


「ばーか」


イナイはこつんと、軽くクロトを叩く。クロトはそれを目をつぶって受ける。


「服なんて洗えばいいんだよ。帰ってくんのも遅くなったけど、少し遅くなっただけだ。ちゃんと帰ってきたろ」


そう言ってクロトの頭を撫でる。クロトはそれでもまだ、上目遣いで様子を窺っている。

イナイはそんなクロトを優しい目で見ている。


「タロウ、あたしはクロトを洗って来るよ。お前はシガル達を待っててくれ」

「ん、わかった」


クロトの事情はその道中で聞いてくるんだろう。多分だけど、あれ単に遊んでただけなんじゃないかな。

あの子はさっき、気が付いたら遅くなっていたといった。それは遅くなったことに気が付かないほど夢中になってたんじゃないかな。

まあ、その辺はあとできこっと。シガル達は何してるのかね。まだ街にもかえって来てないみたいなんだが。ハクが付いてるとはいえ、少し心配だな。

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