第253話イナイとも、しておかなければいけない話です!
「風が心地いいねぇ」
「そうだな」
街を少し散策し、その道中で見つけた、整備された緑多めの広場の角で、イナイに膝枕されて転がっている。
俺は凄く気分が良いし、心地いいけど、これだと普段と変わらないんだが。
「この状況、俺は気分いいけど、イナイは良いの?何かやりたい事無いの?」
「んー?やりたい事やってるぜ?」
俺の問いに、イナイは当たり前のように答える。
いいのかね。せっかく二人っきりなのに。いや、二人っきりだからこそ、こうやって二人でゆったりしてたいのかな。
イナイに頭や顔を撫でられながら、ぽやっと考えていると、イナイの顔が近くまで迫り、唇が重なる。
「ん・・・ふふ、したいことしてるだろ?」
唇を離し、若干顔を赤らめながら言うイナイ。不意打ちに俺も少し顔が熱い気がする。
確かに誰かが居たら、イナイはこういう行動はとらないな。
「そうだね」
俺は彼女の言葉に返事をしつつ、上体を起こして、彼女に応える。
「んむ・・ちゅ・・・ん」
「んん・・・ん・・はぁ・・・」
こちらの行為を素直に受け入れ、唇を離すと、赤い顔で嬉しそうに微笑む彼女がそこに有った。
「ふふ、なんか、凄い久しぶりな気分だな、こういうの」
「そうだね、最近バタバタしてたからね」
この国で起きた騒動で、俺達は色々と慌ただしかった。合流してまったりしてる時間は確かに有ったが、ハクやクロトの目も有ったし、こういう事はあんまりしてなかった。
まあ、今日は、イナイが珍しく可愛い不満を漏らしたのを知ってるし、クロトが居ても同じ事したと思うけど。
「ふふ」
イナイは楽し気に笑いながら俺の顔や首、胸元を撫でる。とても愛らしい笑顔で、どこか満足げに。
俺は彼女の手を心地よく思いながら受け入れる。彼女の手が、彼女が触れているという事そのものが、俺にとっては心地良い。
「なあ、タロウ」
「何?」
彼女は微笑みながら俺の名を呼ぶ。
「今でもあたしは、お前に惚れた事も、お前が応えてくれた事も、もしかして夢なんじゃないかって思う時があるよ。この関係が、本当に不思議な気分だ」
「夢じゃないさ。ちゃんとここに居るよ」
俺は転がったまま手を伸ばし、イナイの頬を撫でる。彼女はそれを嬉しそうに、自ら摺り寄せ、目を細める。
「ああ、解ってるさ。でも、自分がこんな気持ちを持つことになるとは、本当に思わなかった」
「持てて良かった?」
「当たり前だろ、ばーか。・・・好きだよ、タロウ」
「ありがと。俺も、君の事が好きだよ。それに尊敬してるし、感謝もしてる」
「ふふ、そっか」
そう言って、また唇を重ねる。クロトには申し訳ないけど、気を使ってくれたことに感謝だ。
俺はクロトの目は気にしない事を決められるけど、多分イナイはここまで積極的にはならなかっただろうし。
「なあ、タロウ、お前は子供欲しいか?」
「・・・イナイの子供?」
「そう、だな」
イナイは言葉に少し詰まりながら、俺に言う。顔は真っ赤だ。多分それに至る過程も考えての事だろう。
こういう所本当に可愛いなこの人。
「イナイの子供ならかわいい子が生まれるだろうねぇ」
「・・・質問をはぐらかすなよ」
俺の言葉が少し不満だったようで、彼女はちょっと口を尖らせながら、不満そうに言う。
「ごめん、はぐらかしたつもりじゃなかった。君との子供なら、欲しいな」
「あ、ああ、そう、か、その、すまん」
「んーん、分かり難い返事でごめん」
「いや、うん、その、な」
イナイは顔を赤くしながら、真剣な目で俺を見ている。
「シガルと、その話をした事は聞いてたけど、あたしとはしてなかっただろ。だから、そのさ」
ああ、そうだ。この国で、シガルとその話はした。もしかしたら俺とでは子供が出来ないかもしれないと。
イナイとは確かにしそびれていた。そして、あの事実を言う事も。俺は、もしかしたら、この世界の人間とは見た目が似てるだけの別の生き物かも知れないという事を。
「あのさ、イナイ、俺、もしかしたら」
「聞いてるよ、シガルから。大丈夫だよ。きっと大丈夫だ」
俺の不安に、優しく応えるイナイ。大丈夫。彼女が言うと、本当に全部、何も問題なんてない気がしてくる。
「なあ、タロウ。もし子供が出来なくてもさ、それでもあたしは構わないよ。お前が傍にいてくれるなら」
彼女は俺が居ればいいと。俺が傍に居ればそれでいいと言う。俺が彼女を愛しているなら、それでいいと。
「本音は?」
「・・・そりゃ、本音を言えば、欲しいよ。お前との子供ならな。でも、出来ないときは仕方ねえだろ。こればっかりはな」
イナイもシガルと同じ答えだった。出来るなら欲しい。けどできなかったからと、それで俺との関係を考え直す様な事は無い。
「それに、クロトもいるしな。あの子を育てるのも、悪くないだろ」
「なんか、ほっといても勝手に育ちそうな子だけどね」
「ふふ、確かにな。思っていたよりもずっと手がかからない。あの子はいい子だ」
「そうだね」
いい子なのは間違いない。もちろんハクとの一件が有る事も忘れちゃいけないが、あの子自身の言動行動を思い出すと、普段のあの子はいい子だ。
「でも」
俺は起き上がって、イナイの前に向き直る。
「俺は出来れば君達の望みは叶えたいな」
「・・・うん、ありがとう」
俺の胸に頭を預けて、照れくさそうに彼女は答える。
正直な所、真実は解らない。普通に出来るかもしれない。
俺はイナイを胸に抱えたまま立ち上がる。
「タロウ?」
俺の行動を、不思議そうに首を傾げながら見るイナイ。
今度こそ、俺から行かないと、な。
「イナイ、行こう、か」
「うん?行こうって、どこ・・あ、いや、うん」
やっぱりまだ慣れなくて、言葉に詰まりながら、イナイを誘う。
イナイは最初疑問が顔に出ていたが、俺の様子で意味を理解する。顔は多分、お互いに真っ赤な気がする。
「その、この前は、結局お前、気を使ってたし、その、あんまり、気にしなくて、いいからな?」
顔を真っ赤にしながら、上目づかいでそんな事を伝えてくる彼女が、あまりに愛おしい。
そのまま強く抱きしめる。イナイはそれに当たり前に応え、腕を後ろにまわしてくる。
「俺は、一緒にが、いいんだ。自分一人の独りよがりは、嫌なんだ」
俺は俺で、言葉に詰まりながら俺の考えを伝える。すると彼女はくすくすと笑いだす。
「そうか、ありがとう。うん、そうだな。それだから、好きになったんだろうな。本当にお前は、いつもお前のままだな」
俺の頬に手を添えながら、嬉しそうな顔で言う彼女の言葉に、少し首を傾げる。
でもまあ、自分を好いてくれるという言葉なら、その真意は解らずともそれでいいかと納得する。
「じゃ、じゃあいこうか」
「えっと、うん」
まるで初めてのデートで手を繋ぐかのような雰囲気で、照れくさげに手を繋ぎ、俺達は歩き出す。
これからの事を考え、お互い何処か、挙動不審になりながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます