第251話クロトの一人歩きですか?
「・・・どこに行こう」
特に行く当てはない。お母さんに言った通り散策しようかな。きょろきょろと周りを見回し、平凡な街並みを見て歩く。
平凡な街並み。本当に平凡なんだろうか。自分の記憶や意識はどこまで信用できるのか、自分でも分からない。
ただ、少なくとも、前の街よりは小さくて、木造の家が多いと思う。
「・・・考えても、仕方ないのかも」
最近、少しずつ、自我が強くなっていってる気がする。
それと同時に、自分の中の何かが薄まっていってるような気もする。それが何かはわかんないけど。
自分は何者なんだろう。この力もそうだけど、本当に何もわからない。
断片的に蘇る記憶は、浮かんでは消え、浮かんでは消え、本当に役に立たない。役に立たない記憶を探るより、今の自分をしっかり作っていく方が、楽しいかなと思い始めている。
「・・・多分、これはお父さんの思考」
自分でも、なぜそう思うのか解らない。けど、自分の思考回路の大半は、お父さんの考え方の影響が出ていると思う。
最近は、無意識にお母さんたちの行動を真似ている事が有るのも、やってから気が付いてる。もしかしたら自分は、周りの生き物の影響を受けやすいのかなと思ったけど、多分お父さんだけは違う気がする。
理由は解らない。ただそう思う。
「・・・お父さんを、お父さんだと思ったのも、そこが理由かな」
目が覚めた時、あの人を父だと思った。自分の親だと、思った。
少しずつ自我が強くなっている今なら、それに対する疑問が、少しだけだが有る。けど、それは当たり前だろうという気持ちが、心のどこかにあるのも確かだ。
「・・・でも、そこは、いっか」
お父さんは優しくて好きだ。強くてかっこいい。イナイお母さんも大好きだ。あったかくて心地いい。シガルお母さんも好きだ。お母さんって呼ぶと、少し反応が鈍いけど、僕の事をよく見てくれてる。
ハクは嫌いだけど、嫌いな理由もよく解らないし、最近は自制が前より効いてきた気がする。やっぱり嫌いだけど。
「・・・一緒にいるの、楽しい」
楽しいんだ。お父さんたちと一緒にいるのは楽しい。だから、それでいいや。
自分が何者かよりも、お父さんたちと一緒に居られる自分になろう。自分が危ない生き物だって思われてるのは、解ってる。
自分が、お父さんたちと違う生き物だって、ちゃんと、気が付いてる。
あの人達が好きだ。一緒に居たい。だからいつか、そんな事も忘れられるよう、いい子になろう。
「・・・多分、まだ、心配されてると思うけど」
それでも、内心心配でも、信用すると言って送り出してくれたお母さん。それを止めずに見送ったお父さん。
二人の信じてるって言葉を、裏切らないようにしたい。約束は、ちゃんと、守る。
そう思い、手を胸元でぐっと握る。
「・・・あ、またやってる」
これはシガルお母さんのよくやる動きだ。両手を胸元でぐっと握る。
やってから、あれっと思う。自分はこんな動作をする存在だったかと。けどすぐにその思考も霧散する。
だってそれは、僕の思考じゃないから。
「・・・僕は、僕だ。お前じゃない。お前なんかにならない」
お前?お前って誰だろう。今のは完全に無意識から言葉が出た。
言った意味も、理由も解らない。本当に、僕はこういう事が多すぎる。
「・・・考えても解らないし、いいや」
思考に没頭したところで、答えは出ない。最初の頃に、そこは諦めている。思い出そうとすると、何も思い出せない。
けど、ふと、何かが頭をよぎる。そして無意識に口にして、意味が解らない。なら考えても無駄だろうし、いいや。
「・・・ん?」
何かがこっちに飛んでくる。球だ。なにか球が飛んでくる。
受け止められるかな。黒を使えば簡単だけど、使わないって約束したし。あ、でもこれは身を守るって事になるのかな。
でもあれ、当たっても多分、重症になる事は無いと思うし、やっぱり黒は使わない方が。
「べふ」
どうしようか迷っていると、顔面に球が当たって、変な声が出る。ちょっと痛い。
球は跳ね返って、てんてんと転がっていく。
「だ、大丈夫!?ごめんね!?」
バタバタと、数人の子供達が、僕の方に駆けてくる。そのうち一番年が上だと思う女性が、心配する声と一緒に謝ってきた。
「・・・大丈夫。痛いけど、痛いだけ」
黒を使わないと痛い。けど痛いだけで、たいした事は無い。あれぐらい平気だ。
「そ、そう?思いっきり顔面で受けてた気がするけど」
「・・・平気」
「そ、そう。でもごめんね」
「・・・うん」
お父さんはちゃんと謝る人は許す。間違っても、間違いを謝れる人はちゃんと許す。だから僕もそうする。
「お前どんくせえなー」
「あれぐらい受け止めるかよけろよ」
「こら、そういう事言わない」
子供たちの内数人が、さっきの僕を笑う。あれぐらい避けろと。
でも確かにそうかもしれない。お父さん達なら特に問題なく避けるか受け止める。黒を使わないと、僕はどんくさいのかもしれない。
「お前見ない顔だよな。どっから来たんだ?」
この場合、どこからというのが合ってるんだろう。お父さんたちは『ウムル』って所から来てる。けど最近まではこの国の王都に居たし、元々僕自身がこの国いた。
「何首傾げてんだよ。まあいいや、お前暇なのか?」
「・・・暇は、暇」
特にやる事無く散策してから、暇なのは間違いない。
「じゃあ、一緒に遊ぼうぜ。動いてればあれぐらい避けれるようになるだろ」
にかっと笑いながら、僕を引っ張る男の子。
それを何故か嫌とは思わなくて、なすがままにされる。
「あ、もう、こら!ちゃんとぶつけた事謝りなさいよ!」
そんな様子を、さっきの女性は叱る。
「あー、はいはい、ごめんなさーい」
「もう、この子は!」
適当に返す男の子と、それに呆れたような言葉を発する女性。いつもの事なのかもしれない。
「あ、そうだ。聞いときたいんだけど、お前、男、だよな?」
「・・・うん」
「だよな、うん、そうだよな。うん、良かった」
「・・・?」
何が良かったのかは分からないけど、どこかほっとした声で男の子は言う。
その後は、そこに集まっていた子供たちに混ざり、色んな遊びを教えてもらった。
そこで、やはり僕は少しどんくさいという事に気が付いてしまった。黒が無いと、動きが鈍い。
勿論反射的に黒を使えば、その限りじゃない。どうしようなんて思考も無く、使う事が出来るけど、それをしないと約束してる以上、このままでやるしかない。
楽しかったけど、もうちょっとどうにかしたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます