第250話クロトの成長に目を見張ります!
「・・・おきて」
・・・なんか、体を揺さぶられながら、凄い気の抜ける声が聞こえる。言葉は起こしにかかってるっぽいのに、なんか眠い。
クロトが起こそうとしてるんだろうなぁ。
「・・・お父さん、起きて。お母さんが呼んでる」
あー、イナイに言われて起こしてるのか。あれ、イナイどこに行ったんだろ。
つーか、俺自分で起きないと、こうやって置いてかれる事多いな。まあ、急ぎの用事が何もないからだろうけど。
「・・・起きない」
ごめんクロト、頭は起きてるんだ。うん起きてるんだ。けど、こう、なんていうか半覚醒のまったりした気持ちよさに、一生懸命抗っているようないないような。
すみません、抗ってません。
「・・・困った」
クロトの本当に困った感じの声が聞こえる。流石にちょっと意地悪だな。起き上がれないわけじゃないし、起きよう。
そう思った瞬間、何かに持ち上げられたような気がした。
「ふあ!?」
驚いて声を上げ、目を開くと、黒に包まれ持ち上げられていた。
「・・・あ、起きた」
「ク、クロト、これどうするつもりだったの!?」
「・・・このままお母さんの所まで運ぼうと思った」
「そ、そう。起きたから降ろしてくれるかなー?」
「・・・ん」
クロトは素直に頷いて俺を下ろす。よかった。起こすためにそのまま叩きつけるという発想じゃない子で良かった。
とりあえずパッと着替えて、必要な物の確認をして、クロトにイナイの場所を訪ねる。
「クロト、イナイはどこに?」
「・・・お母さん、下にいるよ。ご飯食べてる」
「あれ、もしかして朝ご飯で起こされた感じ?」
「・・・お昼」
「・・・そっか」
どうやらお昼まで寝ていた模様。そりゃ、イナイさん起こして来いって言いますわ。ここ通過するだけの予定だったんだもの。
何昼まで寝てんだよ、って話ですわ。
とりあえずとっとと下に居りますかね。ここちゃんと見てなかったけど、食堂も有ったのね。
起き抜けで頭回ってなかったのと、驚きで使ってなかった探知魔術をいつものように発動させる。多分これでイナイは俺が起きたのに気が付くだろう。
「行こうか、クロト」
「・・・ん」
クロトの頭を撫でて、部屋を出る。クロトは嬉しそうに後ろからとてとてと付いて来る。
通常時のクロトは本当に普通の子供で、見てて和むな。
下に降りて、食堂らしき所に入り、イナイの傍まで歩いて行く。
「お、おはよう、イナイ」
「・・・おはよう。お早いお目覚めだな」
お茶らしきものを飲んでいるイナイに挨拶をし、イナイはそれを半眼で聞き、お茶を置くと、起きるのが遅いと言った。さーせん。
「ごめん、起こしてくれてよかったのに」
「別に怒ってねえよ。急ぎじゃないんだし、昼まで寝てたってかまやしねえよ」
「あれ、クロトはイナイに言われて起こしに来たって言ってたけど」
「ああ、別にいいって言ったんだがな・・・」
俺が疑問を口にすると、イナイは頬をかきながら言葉を濁す。
「・・・お母さん、最近お父さんと二人でのんびり出来てないなって言っ――」
「クロト、そういうのは言わなくていいから」
「・・・?」
クロトがなぜ起こしに来たのか理由を言うと、イナイが慌ててクロトの口を塞ぐ。
クロトは口を塞がれながら首を傾げている。
「・・・僕、ダメだった?」
「うんにゃ、大正解。よくやったクロト」
間違えたのかと少し困った顔をするクロトを全力で褒める。クロトはほっとした顔で「よかった」と呟いた。
確かにシガルと二人っきりとかは最近多かったけど、イナイと二人っきりは殆どなかった。
まったりしてる時も、皆でまったりしてる感じだったし。
「そういや、シガル達は?」
「・・・この街の組合覗いて来るってさ」
「そっかそっか」
少し拗ねたような感じで俺の疑問に答えるイナイ。多分照れてるんだろうな。
なんとなくだけど、クロトが聞いた呟きを、シガルも聞いたんじゃないかな。おそらくは、ついさっきまでいたんじゃないだろうか。
「・・・お父さん、僕もちょっと出かけてくる」
「え、クロト、一人で?」
「・・・うん」
「え、いや、それは・・・」
クロト一人でもし何かあったら大問題だ。クロトがじゃなくて、相手とイナイが。
クロトに勝てる奴なんて、正直イナイ達以外想像つかないし。
「クロト、どこか行きたいところがあるのか?」
俺が戸惑っていると、イナイがクロトの目線までしゃがんで問う。
「・・・うん。一人で、行きたい」
「そうか・・・んー・・・」
クロトが一人で行くという事に、天井を仰ぐような体勢で唸るイナイ。
「なあクロト、何がしたいのかは、教えてくれるか?」
「・・・散策」
「散策、なぁ・・・どうしても一人でか?」
「・・・うん」
「うーん」
散策か。街散策なら俺達と一緒でも良いだろうに。どうして一人で行きたいんだろう。
いやまあ、一人でぶらぶらしたい時も有るか。でもなぁ。
「じゃあ、クロト、約束してくれ。もし何かあっても、身を守る為以外に黒いのは使わないって」
「・・・うん、わかった。大丈夫だよ、お母さん。危ないのは、もう分かってる」
イナイの言葉に、自身の手を見ながら答えるクロト。イナイはその言葉に、少なからず驚きの顔を見せる。
「・・・そうか。ん、分かった。お前を信じるよ。気を付けて行って来いよ」
「・・・うん!」
イナイが微笑みながら信じるという言葉に、心底嬉しそうに頷くクロト。
「・・・じゃあ、いってくる」
「ん、あんまり遅くならないうちに帰ってくるか、シガル達見つけて合流しろよ」
「・・・うん、分かった」
クロトは小さく手を振って、外に出て行く。
「イナイ、大丈夫かな」
「・・・正直不安ではある。けど、あいつはちゃんと約束すると言ったし、今んとこ言ったことはちゃんと聞いてる『いい子』だ。少しはやりたい事、させてやりてえ」
クロトが見えなくなると、椅子に座り、少し不安そうな顔でイナイは答える。やっぱり、そうだよな。
クロトは確かにいい子だ。俺達の言う事をちゃんと聞くし、自分でどう振る舞えばいいのかも考えて動いている。
けど、どうしても、あの能力は、不安を覚えてしまう。クロトの記憶が曖昧なのも余計に。
「ふぅ。しっかし、ガキにまで気を使われるたぁな。経験がないと、こうも感情がうまく扱えねえもんだな。いらねえこと言った」
「へ?」
「・・・クロトが一人で散策したいなんて、いきなり言い出した理由だよ。気を使ってるのは分かるが、やらなくていいとは言えねえだろ」
「ああ、なるほど!」
あの子、そのために一人で行ったのか。クロト空気読み過ぎだろ。
つーか、それならシガル達と一緒に居ればよかったのに。あ、俺を起こしに来たのか。そうだな、イナイがその流れから俺起こしに来るとは思えないもんな。
「で、お前はどうすんだ」
こっちを見ずにイナイが問う。
そりゃあ、ここまでお膳立てされてれば、やる事は一つでしょ。
「じゃあ、二人っきりで散歩でも行こうか。それとも部屋がいい?」
「ばっ、こんな昼間から、お前」
「へ?」
「え、あ、違う、今のは違う、何でもない」
「え、いや、イナイ」
「外に先に行ってる・・・!」
イナイは席を立ち、外にそそくさと早歩きで出て行く。
顔真っ赤だったな、今。たぶんあれ、一瞬勘違いしたんだろうな。いや、まあ、部屋に二人っきりで、しないかと言われれば、する可能性は有ると思うけど、うん。
いや、うん、顔熱いな。とりあえず追いかけよ。今日は二人で居よう。少なくとも、日が暮れるまでは二人っきりで。
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