第249話イナイを探します!
てくてくと街の方まで一人寂しく歩く。いやまあ、たいした距離じゃないけどさ。
そういえばこっち来る途中何回か馬車とすれ違ったけど、引いてるのが馬じゃなくて、犬っぽいのとか、トラっぽいのとかいたなぁ。
ちょっと驚いたんだよな。特にトラみたいなやつ。見た目厳つかったけど、大人しいのかね。ネコ科類は、あんまりいう事聞かなそうなイメージが有るんだけど、どうなんだろ。
いつも通りぼやっと色々考えながら歩いていると、直ぐに門まで着く。門には兵士が数人。大きな門と小さな門二つか。
多少人が並んでいたが、そんなに大人数が並んでいる様子は無い。もう日も暮れるし、来る人は少ないのかもしれない。
のんびり並んで待つこと十数分、自分の番が来た。
「次、身分証を出せ」
「はい、どうぞ」
やっぱりここも、なんというか、威圧的だなぁ。
この国はどうにも兵士や貴族が威圧的で、そのへんが肌に合わない。いやまあ、これから変わっていくのは解ってるけど。
身分証を見せながらそう思っていると、兵士が慌てだす。
「そ、その、申し訳ありません。あ、貴方が、タロウ様でありましたか」
「ふえ?」
兵士達に緊張が走り、自分に応対していた兵士は心なし声が震えている。
「ど、どうか、ご、ご無礼をお許しください」
「はあ」
膝をつかれながら差し出された身分証を受け取り、良く解らない状況に声を漏らす。
それだけで、目の前の兵士さんはびくつき、周りにいる人たちも若干反応を見せる。
んー、もしかして、俺の事、話だけはこの街まで行ってるって事なのかな。
「えーと、とりあえず通っていい感じですか?」
「は、はい、どうぞ!」
ほっとした様子で俺を通す兵士。まあ別にあれぐらいでどうこうする気もないし、あんまりビビらないでほしい。
というか、ビビるなら最初からやらなきゃいいのに。
あ、そだ。イナイがどこに行ったか知らないか聞いてみよう。門の出口近い所の兵士に尋ねる。
「あの、ちょっといいですか?」
「は、はい!なんでしょうか!?」
話しかけられると思ってなかったらしく、声が裏返りながら返事をする兵士。ちょっと申し訳なかったかも。
「イナイ達がどこへ行ったか、ご存知ですか?」
「い、いえ、申し訳ありません!ステル様ご一行がどこに行かれたのか、把握しておりません!」
「そうですか。すみません、ありがとうございます」
「い、いえ、お役に立てず申し訳ありませんでした!」
こちらがぺこりと頭を下げると、慌てて謝る兵士。なんかループしそうな予感がしたので、それを否定するのはやめておいた。
とりあえずイナイ達がどこに行ったか解らない。探知を使うか、腕輪使うか、どっちかだな。
よし、腕輪使おう。腕輪の通信機能を使って、イナイに連絡を取ってみる。
「えーと、イナイ―、聞こえる―?」
『ん、タロウか、どうした?』
「街に入ったんだけど、今どこ?」
『もう戻ってきたのか。もう日が暮れるし、向こうで一泊すると思ってたぞ』
「イナイ達が居たならそれでもいいけど、一人で寂しいし」
『そうか』
向こうで、ふっと笑うのが聞こえた気がする。いやだって、ちょっと寂しいじゃない。
イナイに聞くと、既にみんな宿でノンビリしているようだ。大体の場所を聞いて、俺もそこに向かう。
距離はあまり離れておらず、すぐに着いた。中に入ると若い男性が対応してくれて、イナイ達の事を告げると、かなり緊張した様子で案内された。
俺、別に貴族じゃないんだけどなぁ。
西の国境の街ではあんまりこういう感じなかったのに、なんでだろ。
まあ、あそこの領主様、なんか面白かったし、他の貴族達とは、街の人の認識が違うのかもしれない。
とりあえず案内を受けて、部屋に通る。
「おう、おかえり」
「おかえりタロウさん」
「・・・おかえり、お父さん」
「ただいま」
イナイ達が出迎えてくれる。それだけで、少し暖かいものが有るなと、毎回自身に確認してしまう。
ちなみにハクは丸まって寝てる。最近は寝てるところの方がよく見かけてるな。
「どうだった?」
「問題なし。いい感じだった」
「そうか」
イナイは当然といった顔で俺の答を聞く。
「それにしても、タロウさんの転移も凄いよね。あんな長距離転移して、当たり前に帰ってくるんだから」
「へ、そうなの?」
転移って、そんなに魔力使わないんだけどな。ただ飛ぶときに、目視か、強いイメージが無いと飛べないけど。
「シガルは出来そうな気がするけどな」
「うーん、あたし最近使って失敗したからなぁ」
「ああ、そういえばそうだっけ」
「うん、ちょっと、苦手意識が付いちゃってるかも」
シガルの転移失敗の話は聞いている。その後戦闘は出来ない状態にまで弱体化してしまったのを考えれば、苦手意識も仕方ないだろう。
「でも、大丈夫。タロウさんのを何回も見てるし、お姉ちゃんにも見せてもらってるし。ちゃんと使えるようにするよ!」
ぐっと、胸元で拳を作り、力強く言うシガル。可愛くて頭を撫でる。この子は本当に努力家だねぇ。
でもまあ、転移は使えて損はない。単純に移動以外の使い道も有る。あれは使えるようになって思ったが、緊急離脱にはかなり優秀だ。
勿論この間みたいに潰されたらどうしようも無いけどね・・・。
「あ、そだ、クロト大丈夫?」
「・・・うん。ごめんなさい、心配かけて」
「あー、謝らなくていいよ。別にクロトが悪い訳じゃないんだから」
クロトの回復加減が気になっただけだったんだが、謝られてしまった。
得手不得手が有るのは普通だし、車酔いとかしょうがないじゃないか。むしろクロトには申し訳ないが、弱点があって少しほっとしている。
「さて、タロウも帰ってきたし、あたしゃ寝るぞ」
そう言って、眠そうに欠伸をするイナイ。
「運転疲れた?」
「ちょっとな。悪いけどあたしは先に寝させてもらうぞ」
「お休み。寝入るまで頭なでてあげようか?」
「うるせえ」
顔を少し赤くしながら枕を投げつけられてしまった。自分はやるのに、自分がやられるのは恥ずかしがるんだよな、未だに。
こういう所可愛いと思います。でも実際やると割と気持ちよさそうにしてるから、尚の事可愛いと思います。
「うーん、あたしは少し体動かしてから寝ようかな。タロウさんは?」
「あ、俺も付き合う。クロトはどうする?」
「・・・お母さんの傍にいる」
「ん、わかった」
クロトは順調にイナイに懐いているな。
「ふあ~~、いってら。おやすみ」
既にねる体勢で手をひらひらして俺達を見送るイナイ。その横にもぞもぞと入っていくクロト。
「・・・なんか俺もあそこに混ざりたくなってきた」
「・・・混ざる?」
ちょっと拗ねた顔でシガルが聞く。
「あはは」
ちょっと可愛くて思わず笑いながら頭を撫でる。
「え、な、なんで?」
何故なでられたのかも、何故笑われているのかも解らないと狼狽えるシガル。
まあ、俺が可愛いと思ったからです。
「さって、行こうか」
「う、うん?」
俺が出ることを言うと、シガルがなんか納得いかないという感じで返事をする。
さて、ひと汗流したら、体拭いて寝ますかね。
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