第248話ちょっと用事を済ませてきます!

「見えてきたな」


イナイが前方に見える街らしきものを見て言う。

今回街と街の間の移動だったが、車で結構な速度だったので日暮れ前に着いたな。


「だねー。そんなに大きくなさそうな街だね。ていうかこっち方向は国境の街しかないのね」

「そうだな。あんまり大きくない国だからな。小さな村は幾つかあるが、街と言える程でかい所はすくねえよ。村方向は向かわなかったからな」

「あんまり村とかは回らなかったねぇ」

「ん、気になるなら行くか?別にかまわねえぞ?」


村かぁ。いやまあ、全く興味がない訳じゃないけど、そのうち他の国とかでも行けそうだし、この国では良いかな。


「いや、とりあえず最初の目的通りに行こう」

「あいよ。じゃあもう少し走ったら車を降りるぞー」


街の外壁が肉眼ではっきりと見える距離まで走ると、車を止め、腕輪に仕舞う。

いつもながら異様な光景だ。いやまあ、俺の腕輪にも明らかにサイズおかしい物入ってるけどさ。


「さて、いく・・・クロト、どうした?」

「え?」


イナイが何かクロトの様子に不信を覚えたらしく、クロトに尋ねる。

俺には普段通り、どこかをぽやっと見ているようにしか見えないんだけど。


「・・・気持ち悪い」

「もしかして酔ってたのか?何時からだ?」


もしかして気持ち悪いの我慢してたのか。この子の様子分かり難い。イナイよく気が付いたな。

ていうか、車に酔うのかクロト。あの飛行が平気なのに。


「・・・酔った?良く解らないけど、最初の方から、ずっと」

「あー、すまん、気が付かなかった。ちょっとそこで休もう、吐き気はどうだ?」

「・・・気持ち悪いけど、大丈夫だよ。行く」

「馬鹿、調子が悪いなら素直に甘えてろ。良いからちょっと休むぞ」


イナイはクロトを抱え、近くの木陰にゆっくりと降ろし、厚手の布を出して畳んで床に敷くと、クロトを再度抱え、そこに寝かせて頭を自分の膝に乗せる。

クロトはちょっと困った顔だが、嬉しそうでもある。そうか、この子調子悪いの我慢する子か。少し気を付けておこう。


「・・・ごめんなさい」

「ばーか。気にすんな」


謝るクロトの頭を軽くぺしっと叩くイナイ。イナイのこういう所いいよなぁ。

クロトは大人しくイナイの膝に落ち着くと、確かに呼吸がいつもと少し違う気がする。


『なんだ、貧弱だな、あの程度で』

「・・・煩い、お前が鈍いだけだ」

『はっ』


くたびれてるクロトに、ハクがこき下ろすような言葉を口にする。だが言い方自体は悪しざまというよりも、意外だという感じだ。

クロトも負けじと言い返すが、力がない。ハクはその言葉を鼻で笑う。


「もう、ハク。クロト君ばててるんだから、だめだよ」

『う、ご、ごめん』


シガルに叱られてしょぼんとするハク。ついさっきまで揺れていたしっぽがへなっと落ちる。

こういう時、ハクはシガルには弱いな。俺とイナイも似たような物か。いや、うん、よく考えたら俺シガルにも弱いわ。

あ、そだ、クロトに今後無理しないように言っておこう。


「クロト、今度からこういう時は言いなよ。無理しなくていいから」

「・・・うん」


クロトの頭を撫でながら言うと、クロトは素直に頷く。

別に無理することでもないからね。


「そうだ、今のうちにお前はソッホルトホーソに行ってこい。あたし達はクロトが回復次第向こうの街に行ってくるから」


・・・どこに行けって?なんか聞き覚えがあるような気がするけど。


「ああ、そうか、あの街の名前か!」

「お前な・・・」


あ、目がすごく痛い。凄い呆れられてるこれ。


「じゃ、じゃあぱっと行ってくる」

「おう」

「いってらっしゃーい」


シガルはどうやら残るようだ。ついて来ると言うかなと思ったんだけど。

とりあえず転移をして、街の傍まで行こうと試みる。最初あの街の事を上手く思い出せず、なかなかうまくいかなかったが、釣具屋の事を思い出したのを切っ掛けに、どうにか転移する。

どんだけ釣りがしたいんだ俺は。








「さって、組合ってどこだっけ」


街中に転移して、やばいと思い、一回外に転移してから街に中に入り直した。

いやー、転移したら釣具屋の前とか、あぶねーあぶねー。いやまあ、実際の所アウトなんだろうけど。


「えーっと、たしか、こっちが、そうだった、ような」


つたない記憶を頼りに歩き回る。これなら門の兵士さんにちゃんと聞いておくんだった。

因みに俺の事を覚えていたらしく、若干ビビっておりました。でも原因俺じゃないし。ビビらせたのイナイだし。


「あれ?」


ふと、ウムルの騎士さんを視界の端に捕らえた気がして、そちらに振り向く。あ、やっぱそうだ。あの甲冑はウムルの騎士さんだ。

結構若い人だな。騎士隊長さんもそうだけど、全体的にウムルの騎士って若い人多いな。

ちょうどいいや、訪ねに行こう。なんか、この国の兵士さんに尋ねるより、少し気楽だし。


「あのーすみません」

「あ、はい、どうされました?」


声をかけると、ウムルで声をかけた時と同じように、さわやかに応えてくれる。

実は向こうの王都でも、何度か迷子になってお世話になっている。数人の騎士さんとは顔見知りだぜ!

だって、広いんだもん、あそこ。あとは騎士隊長さんや、ウッブルネさんと話をした時に何人か顔を合わせた位か。

なので、気のいい人が多いのを知っているだけに、こちらの兵士より話しかけやすい。この人は知らない人だけど。

まあ、当たり前だ。何人いると思ってんだって話です。


「ウムルの騎士さんですよね?」

「ええ、そうで・・あれ、タロウさん?」

「え?」


尋ねた騎士さんが俺の名前を言い、驚く。あれ、俺この人会った事有るのかな。まずい、覚えてないぞ。


「あの、すみません、お会いした事有りましたっけ」

「ああ、いえ。隊長とお話してるところを見かけた事と、聖騎士様とお話してるのを何度かお見掛けして、貴方の事を訪ねた事が有るんです。

いやあ、こちらの国に居られるのは知っていましたが、まさか顔を合わせるとは想像もしておりませんでした」


あっはっはと笑いながら言う騎士さん。良かった。俺が忘れてるわけじゃなかった。

街とか、物とかはともかく、人の事は忘れたくはない。ガラバウとバカ王子は別枠。


「王都に居ると聞いていたのですが、どうされたのですか?その・・・おひとりなのですか?」


周りを見回しながら聞く騎士さん。多分、イナイ達の事も聞いてるのかな。

そう言えば以前、ミルカさんが城中に俺とイナイを事を言いふらしまわったと聞いた。多分そのせいだろう。


「はい、ここに用事があるのは俺だけなので、一人です」

「そうなんですか」


ん、なんか今、少しほっとしたように見えたのは何でだろ。

あれかな、お偉いさんが居ると、緊張するとか、そっち系かな。


「それで、何か御用ですか?」

「ああ、えっと、その、組合に行きたいんですけど、ちょっと迷子に」

「ああ、なるほど、ご案内しますよ。どうせ自分も向かう予定ですから」


にっこりと笑いながら俺を組合に連れて行ってくれる騎士さん。男前だわぁ。

素直に感謝し、たわいもない世間話をしながらついて行く。

しばらく歩き、そうたいした距離でもなく、何の問題もなく組合に到着。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、自分も同じ所へ向かうついででしたから、お気になさらず」


礼を言うと、さわやかに返し、組合に入っていく騎士さん。

俺もついて行くと、組合の中は以前来た時と違い、なんだか和やかな気がした。

いや、まあ、以前来たときは状況が状況だったからな。

組合を見回すと、奥の従業員の人達のいる場所に、騎士さんが数名いるのが見えた。


「では、私はこれで」


そう言って、去っていく騎士さん。どうやらあの騎士さん達の方へ向かうようだ。

あれ、なんか俺を見てる。なんでだ。と、とりあえず受付に行こう。

受付に向かうと、以前ここに来た時、色々と説明をしてくれた人が座っていた。良かった。


「こんにちは」

「はい、今日はどう・・・」


声をかけて、それに応えてくれた彼女は、俺の顔を見てフリーズする。

が、直ぐに持ち直し、笑顔で応えてくれる。


「お久しぶりです。いつこちらに?」

「ついさっきです。といっても、様子を見に来ただけなので、すぐ発ちます」

「そう、ですか、それは残念です。あなたに礼を言いたいと思っている職員や、組合員も少なからずおりますので」


なるほど、彼女の反応を見る限り、悪いようにはならなかったようだ。


「いえ、それが聞けたなら十分です。良かった」

「・・・本当に、ありがとうございました」


お姉さんは頭を深々と下げる。


「い、いや、俺は何もできてませんから、気にしないで下さい」


思わず頭を上げさせようとする。俺は本当に何もしてない。

せいぜいイナイ達に相談しただけだ。俺自身の力は、殆どない。


「ふふ、そうですか。でもありがとうございます」


彼女は俺の言葉に顔を上げ、にっこりと笑い、もう一度礼を口にする。


「では、もう行きます」

「ほ、本当にすぐ発つんですね」


だってイナイを待たせてるからね。

戸惑う彼女に手を振って、組合を出て、街の外に出て、即イナイのいたところに転移する。


「うん、居ない」


まあ、予想してたけど、既にそこには誰もいなかった。

街に向かったんだろうな。俺もいこっと。

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