第246話もうやる事は無いと思います!

「あ、レンさんだ」


宿に戻ると、レンさんが宿に入っていく所だった。まだ日も暮れてないのに帰ってくるのは珍しい。


「そういえば、レンさんには街を出る話してないや」

「え、あたし、したよ?」


組合に行った時挨拶を忘れていたことを思い出し、口にするが、シガルがすでにしたという。


「あ、そうなの?」

「うん、昨日の夜に」


どうやら偶々会った時にしていたようだ。なら、大丈夫かな。彼女、なんか俺には気を使ってる感じだし。


「じゃあ、あとはベドさん達くらいか。でもあそこ、くんなって言われてるしなぁ」

「気にすんな。組合に離れることを伝えてんだ、しばらくすりゃ情報が回る。用がありゃ、あっちからくる」


俺が来るなと言われた人たちへの挨拶を悩んでいると、イナイに気にするなと言われた。

まあ、来るなって言われたし、宿の食堂に来る事も有るらしいし、いっか。


「じゃあ、まあ、いっか」


あんまり親しいってわけでも、そこまで世話になったわけでもないしなぁ。

迷惑はかけちゃったけど。


「じゃあ、もう、この街であいさつ回りするところは特にないかなー」

「だな、街の規模がでけぇから、宿の近隣の人間との関係も薄いしな」

「やっぱり人が増えるとそう言うの希薄になるのかなぁ」

「まあ、ずっと住んでりゃ別だろ。旅行者に構ってくれるのは客商売だけって話だ」


それは確かにそうかも。人の多い街で、永住するわけでもない人間にそこまで構ってられないか。


「明日には、ここを出るかねー」

「あ、タロウさん、ちゃんと組合で支部長さんに会いに行かなきゃ」

「あ、そうだったそうだった」


紹介状の件をシガル達に伝えておいて良かった。普通に忘れる所だったよ。


「今から行ってきたらどうだ?別にあんなもん、そんなに時間かかんねえだろ。特に相手お前だし、もう作ってると思うぞ」

「そうなの?」

「だって、お前行動がいきなりすぎる時があるからな。伝えてた当日には作ってるだろ」

「そ、そう」


いきなりかなぁ。イナイもその辺はあんまり人の事言えないと思うんだけど。

まあ、じゃあ、後で行っとこう。


「次の国へ行って、しばらくした頃には、式の準備も終わってるだろうな」

「あ、そうだね」


以前貰ったリンさんとセルエスさんの結婚式の招待状。

その式まで、もう少し。王様と王女様の式だもんなぁ。なんかすごい事になりそう。

他の国の王侯貴族とかも来るらしいし、俺がそこに居ていいのかね。場違い感がすごいと思う。


「所でリンさんは、王妃様になっても騎士止めないんだよね?」

「みてえだな。まあ、あいつに何言っても無駄だろ」

「何か拘りが有るのかな」

「・・・有るんだろうな。一番近くで守れるんだから、もう関係ねえだろうに」

「へ?」

「なんでもね。気にすんな」


気にすんなって言われても、気になるよそれ。まあ、聞いても応えてくれそうにないと思うけど。

ブルベさんの傍でって事かなぁ。


「ドレス、もう作ったんだっけ」

「ん、あたし達のか?リン達のか?」

「イナイ達の」

「ああ、あたしらのはな。あ、そうだ、クロトの服用意しねーと」


式の話はクロトが来る前だったから、そういうの用意してないよね。

イナイはクロトをじっと見て、ボソッと呟く。


「ドレスでもいいか?」

「いや、お姉ちゃん、確かにクロト君なら似合うと思うけど・・・」


イナイの言葉に苦笑しながら言うシガル。でも、あれ、クロトって最初可愛い格好だったんだけどな。

あ、そうか、シガルは見てないんだった。


「まあ、何かしら用意はしとく」


イナイはそう言うと、思案するように空を仰ぐ。

俺はイナイの思考を邪魔しないように、イナイ以外に話しかける。


「クロトは着たい服とかある?」

「・・・なんでも、良い」


クロトは衣服に執着は無い模様。なら普通に子供用の礼服とかで良いんじゃないのかね。

多分可愛い格好したら、かなり似合うとは思うけど、クロトを女の子だと認識させそうだ。


「シガル達は、ドレスは試着したの?」

『したぞ!ひらひらキラキラだったぞ!』

「うん、綺麗だったね・・・」


シガルがきれいだと言いつつため息を付く。


「どしたのシガル」

「綺麗だったし、着心地良かった。うん、すごく良いものだった。けど値段が・・・」

「ああ・・・」


シガルは割といいとこのお嬢様ぐらいの子だが、イナイ達に比べるとまだ普通の方だ。

要は、ある程度の富裕層と、金が余ってるレベルの大金持ちぐらいの差があると思う。

なので、その差が辛い時が有るのだろう。


「あ、あれの料金はあたし持ちじゃないぞ。セル持ちだ」

「へ、そなの?」

「ちゃんと可愛い格好してきてね~。ってよ。わざわざ店指名してきたからな。店にも話が行ってる」

「ああ、なるほど」


樹海に居た時、髪型だけでも可愛くと、この髪型にさせてたっけ。

あの人可愛い物結構好きな気がするけど、どうなんだろ。そういえば自室に入れてもらった事無いし、趣味とかもあまり知らないや。

イナイやリンさんが大好きって事は知ってるけど。


「・・・あの赤いおばちゃんに会うの?」

「あー、クロトはリンさん苦手だっけ・・・」

「・・・怖い」

「リンさんは、怖くない・・・とは言わないけど、いい人だよ?」


怖いか怖くないかで言えば、怖い。いや、あの人自信は気のいいおねーさんで、楽しいんだけどね。


「・・・怖いけど、次は、頑張ってみる」


ふんすと握りこぶしを作って言う姿は、どこかシガルが気合を入れる時に似ている気がした。

ちょっと可愛くて、頭を撫でる。ただその手が少し震えているのは見なかったことにしよう。頑張れクロト。









「タロウさん、絶対忘れてると思うけど、ガラバウにはまだ言ってないからね」

「あ」


あいつの存在を素で忘れてた。

まあ出る前に軽く挨拶だけすればいいだろ。ガラバウだし。

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