第243話孤児院にご挨拶に行きます!
「そうですか、次の土地へ・・・貴方にこう言うのは少し失礼かもしれませんが、それでも、お気をつけて」
「いえ、ありがとうございます」
朝から孤児院を訪ね、この土地を離れる挨拶に来た。
子供達にもその旨を今ハクとシガルが伝えている。あ、一人泣き出した。一人が泣き出すと、連鎖したように他の子も泣き始める。
「ハクさん達には懐いていた子が多かったですから。ご迷惑をおかけします」
「いえ、そんな。こちらこそ」
迷惑なんかじゃない。あれはハクがハクとして受け入れられているっていう光景だ。それをいいと思っても、悪いと思うわけが無い。
いかないで、いっちゃやだ、なんでいっちゃうの?そんな言葉が沢山飛び交う。
ハクは優しい顔で皆の頭を撫で、口を開く。
『大丈夫だ。お前たちが元気で生きていれば、二度と会えないわけじゃない』
そう言って、最初に泣き出した子を抱る。
『ほら、お前は前にここを守りたいと言っていたじゃないか、こんな事で泣いてどうするんだ』
そう言って真っすぐに顔を見て言うと、その子は泣きやみ、こくんと頷く。
『うん、いい子だ』
それを満足そうに見て、子供を下ろす。
「皆、元気でね」
シガルもハクと同じように、別れを惜しまれ、もみくちゃにされかかっている。
まあ、いやではないのは見てれば分かる。二人とも、嬉しそうだな。
「いい子たちですね」
「ありがとうございます」
イナイは院長に微笑みながら言う。院長も柔らかい笑みで応える。
「例の件、話が付きました。今年は少し厳しいかもしれませんが、来年からは」
「・・・本当に、何から何まで、ありがとうございます」
「いえ、子供は国の宝ですよ。それを見捨てず育てる場所を、ただ必要と判断しただけです」
「ふふ、それでも、ありがとうございます」
多分だけど、孤児院への補助的な物を、国がするように手配をしたんだろう。
イナイの事だから、おそらくこの孤児院以外の事も、色々話をしてるんだろうな。
「タロウさん」
ぽやっと子供たちを眺めていると、俺に声がかかった。そちらを向くと、ウネラが居た。
元気そうだ。あれから院長先生とちゃんと話は出来たんだろうか。
「ありがとぉ、ちゃんとお話しできたよー」
そう考えていたら、笑顔で言うウネラ。それに安堵を覚える。結構気になってたんだよな、どうなったのか。この院長先生なら、優しく受け止めてくれるとは思うものの、やっぱり、ね。
「そっか、良かった」
「うん、ありがとうねぇー」
ウネラは、そう言って俺にギュッと抱き付く。俺はいきなりの事で驚き、あわあわしてしまう。
なんだこの子すごい柔らかい。
「ウ、ウネラ!?」
声が裏返った。はずい。
「えへへー、お礼ぃー」
ニヤッとした顔で言うウネラ。お礼というだけあって、凄い抱き心地の良かった感触が体に残っている。
ああ、これはリピーター付きますわ。魔性ってこういうのを言うのかな・・。
なんて思っていると、イナイにじろっと見られている事に気が付く。
「あははー、怒られちゃう?」
「いや、うん、大丈夫」
どうやらウネラもその視線に気が付いたようだ。まあ、大丈夫。大丈夫じゃないけど、大丈夫。後で機嫌とっとこ。
「全く、何やってんのよ」
「えへへー」
サーラが呆れた声で、軽くウネラの頭をこつんと叩く。悪びれた様子はあまりなく笑うウネラ。それでもどこか憎めないのが彼女の良さなのだろう。
サーラも慣れたものなのか、すぐに視線をこちらに変える。
「色々ありがと、タロウさんも、ステルさんも。おかげで色々助かりました。・・・元気でね」
「うん、ありがと。サーラも元気でね」
何処か少し寂しそうに、別れの言葉を言う彼女。それは少しうれしい。だって俺、子供達には惜しまれないんだよ・・。
そう思っていると、一人の女の子に袖を引かれる。こちらに近づいているのは解っていたが、俺に用とは思ってなかった。
「どうしたの?」
「えっと、はい」
「ん?」
「よんでー」
そう言って渡されたのは、数枚の折られた紙だった。開くと中には、楽しかったと、遊んでくれてありがとうと、つたない文字で子供たちの言葉が溢れていた。
そこにはいくつも、タロウと、書かれていた。俺の名が、書かれていた。
国を、街を、皆を、先生を助けてくれて、救ってくれてありがとうと、書かれて、いた。
「これ・・・」
「いつかね、ちゃんと、おれい言わなきゃって、みんなで用意してたの。わたせてよかったぁー」
にっこりと笑いながら言う女の子。女の子が俺に紙を渡していることに気が付いた子たちが、ずるいとか、私が渡すはずだったのにとか、口々に叫ぶ。
「は、はは」
なんだよ、くそ、不意打ちすぎるだろ。こんなの、嬉しいに決まってるだろ。くそ、ああもう。
文字がちゃんと見えない。読みたいのに、字がにじむ。目が、熱い。
「タロウ、お前が救えなかった物を気に病んでる事は解ってる。けど、ちゃんと見ろ。お前が救った物を」
イナイがポンと、俺の背中を叩く。
元々は俺達も原因の筈だ。あの魔物の襲撃は、俺達も原因の筈だ。けど、それでも、俺達が戦った事が、この子たちを守る結果に繋がった。
守れたんだ。助けられたんだ。助けることが出来た物が有ったんだ。もちろん王都ではミルカさんが居たから無事に済んだというのが大きい。
けど、それでも、あの数の亜竜を押しとどめた意味が、有ったのだと。この子たちの笑顔が此処に在るのは、お前が戦った結果でもあるのだと。そう言ってもらえてる。
「う・・くぅ・・・」
きっと守れなかった物が有る。救えなかった物が有る。自分のせいで犠牲になった人たちがいる。
けど、それでも、こんな自分でも、守れた物が有った。それが目の前で認識できたことが、凄く、嬉しい。
「タロウ、どうした?」
「タロウ、どっかいたいの?」
「たろうー?」
「なんでないてるのー?」
「だ、大丈夫、大丈夫だから」
手で顔を隠して、大丈夫だと答える。鼻をすすって、声もうまく出てないけど、大丈夫だ。
辛い訳じゃない。だから大丈夫だ。
「皆、ありがとう」
涙声のまま、礼を言う。心からの礼を。本当に、嬉しい。ありがとう、気が付かせてくれて。
良かった。この子たちを守れたんだよな。きっともっと、守れたものが、有ったんだよな。
ありがとう。本当にありがとう。
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