第242話グッダグダです!
「・・・そうか、あの嬢ちゃん、亡くなったのか」
「うん・・・」
「それでお前は、それを知って、か」
「うん・・・」
「・・・ったく」
「・・・・・」
イナイは、全くお前はと言いつつ、優しい声で、優しい手つきで俺の頭を撫でる。
今俺はベッドに座っているイナイの足の間に顔をうずめ、腰に抱き着いている。
はっきりって、はたから見ると酷い絵面だ。イナイの容姿が容姿だから、余計に情けない絵面だ。いいじゃない、恋人なんだもの。
・・・とりあえず、そんなくだらないことを考えられる程度には回復してきたな。顔を上げ、とりあえず立ち上がる。
「大丈夫か?」
上目使いで、優しい顔と声で聞いてくるイナイ。本当にこの人は、甘えさせてくれるよな。普段は尻叩かれるけど。
「うん、大丈夫。ありがとう。シガルもありがと」
俺はイナイに礼を言って、ずっと俺の右手を握っていたシガルにも礼を言う。
うーん、落ち着くと気が付くけど、可愛い女の子の腰に抱き着いて、頭なでられて、他の可愛い子にも手を握ってもらってて・・・すごい状況だな。
さて、まあ、とりあえず復活。多分一人だったら、まだ暫く動けなかったな。ほんとに俺、メンタル面では二人に甘え切ってるよなぁ。
「タロウさん・・・」
シガルが何かを言いたそうにこちらを見る。多分、言いたい事は流石に分かる。
彼女の死は、俺のせいだと思わない方が良いと、そういう事だろう。
「解ってるよ、シガル。けど、それでも、理由の一端が自分にあるのは、まぎれもない事実なんだ。そこだけは、辛くても、認めておきたいんだ」
自分のせいで、自分の判断のせいで、自分が何か対処を出来たかもしれない事で、人が死んだ。
その事実は、あまりにもキツイ。受けとめる事は、きっと俺個人では出来なかっただろう。彼女たちが居たから、何とか踏ん張る事が出来た。
甘ったれだなぁ、ほんとに。
「・・・うん、タロウさんがそれで良いなら、解った」
シガルが俺の手をぎゅっと握りながら言う。今更だけど、俺より強いよなぁ、この子。
俺この子を守るつもりだったはずなんだけどな。いつの間にか完全に守られてるよな、俺。
「んん~」
うめき声を出しながら、背伸びをして、気持ちを平常心に戻す。
うん、もう、大丈夫。きっと、大丈夫。
「あ、そうだ、挨拶しに出たのに、結局普通に帰ってきた」
支部長さんとか、レンさんとか、ガラバウとかに離れる事伝えるつもりだったのに。
「・・・殿下とはどうなったんだ?」
イナイが、首を傾げながら聞いてくる。シガルも気になっていたようで、こっちを見ている。
「ちゃんと、伝えてきたよ。彼女には、全部、ちゃんと。だから、友人として、また再会を約束した、かな」
「そうか」
「そう、なんだ」
イナイは、目を瞑り、何でもないように答える。シガルがあからさまにほっとしているのは突っ込まない事にする。
外を見ると、もう日が暮れている。どんだけ俺は二人に甘えていたのかと。
「今日はもう、あいさつ回りは止めておくかな」
組合は多分誰かしらいそうだけど、孤児院は迷惑だろうし、明日にしよう。
「明日、孤児院に挨拶に行こうかな。んで、昼間すぎなら組合も人少なめだろうから、その時間帯に組合に」
「解った。院長には話ときたい事が有るし、ちょうどいい」
「あ、そうなの?」
イナイは何やら院長先生に話があった模様。以前何か二人で話してた事と関係ありそうだな。
あの時はあんまり傍に居なかったから、何話してたのかは知らない。
「子供達にもお別れしないとねー」
「ハクとシガルは特に懐かれてたから、泣く子とかいそう」
俺との別れをそこまで惜しむ子は間違いなく居ないと思うけど。
「荷物は、今回も特にこれと言って増えた物もねーし、すぐ出れるだろうから、いつ出るかだけは主人に伝えとくか」
「そだね、3日後、ぐらいでいいかな」
「ああ」
「前の時もそうだけど、離れる時、少し寂しいね」
俺の言葉にイナイが頷き、シガルは少し寂しげな顔を知る。
「もう少し、いる?」
「ううん、いいのいいの。いつかは離れるんだから。もともとその前提で来てるんだもん」
笑顔で俺の問いに答えるシガル。そこに無理につくろっている雰囲気はない。
「じゃあ、明日はそういう事で」
「おう」
「はーい」
イナイと、シガルが返事をしたところで、俺はクロトに目を向ける。
さっきからぽやっとした顔でこちらを見てはいるが、会話に入ってこないので、少し気になる。
「クロト。クロトはそれでいいかい?何か、やりたい事とかない?」
「・・・うん、大丈夫」
コクンと頷き、いつも通りの表情を見せるクロト。この子緩ーい感じだけど、感情表現はストレートなところあるから、多分大丈夫、かな。
「ん、じゃあ、明日は一緒にいこう」
「・・・うん」
クロトの頭を撫でながら言うと、嬉しそうに応える。
「さて、あとはハクなんだけど、どうしよう」
寝ているハクに視線を向け、起こすべきかどうか悩む。
「起きた時で大丈夫だと思うよ。明日は朝から起きてると思うし」
シガルが言うなら、それで大丈夫かな。ハクの事は俺なんかより、よっぽど解ってる。
「なんか、この街は、濃い出来事が多かったなぁ」
呟きながらベッドに腰かけ、そのままバタンと後ろに倒れ、傍にいるイナイに転がったまま抱き付く。
イナイはそんな俺の頭をペンペンと叩いたあと、優しく頭を撫でる。
「あ、ずるいー」
シガルがそれを見て、俺に後ろから抱き付いてくる。背中が暖かい。
「ふふっ」
イナイはそんな俺達を見て、微笑みながら、俺達の頭を撫でる。
「ん?」
だがその手が、短く上げた声と共に止まったので、何が有ったのかとみると、クロトがイナイの袖を引いていた。
「どうした、クロト」
「・・・僕も」
おずおずと、イナイに言うクロト。
俺達がじゃれついてるのを見て、自分も混ざりたくなったけど、混ざっていいのかどうか解らず、でも混ざりたいと意思表示をして来た、って所かな。
「子供が変な遠慮すんなよ」
イナイはそう言って、クロトを抱えて横に座らせると、クロトを寝かせ、その頭を自分の足の上に置かせる。
頭を優しくなでながら微笑むイナイは、凄く絵になる。クロトは勿論嬉しそうにしている。
そんな感じで、夕食までじゃれつきながらまったり過ごした。
「そうか、離れんのか。まあお前ならどこ行っても大丈夫なんだろうが、元気でな」
食堂での食事ついでに、親父さんに街を離れる旨を伝えると、あっさりとした返事が帰ってきた。まあ、宿屋の親父さんだし、こういう事は日常茶飯事だろう。
「気を付けてな」
「又来る機会が有ったら、この宿と食堂に来てねー」
ボロッカロさんと、ベレドレラさんもあっさりしたものだった。ま、そりゃそうか。
そう思ってたら、注文してない料理がいくつか運ばれ、ボロッカロさんに聞くと、笑顔でサービスだと言われた。
ベレドレラさんも、頼んでない飲み物をどんと持ってきて、ひらひらと手を振って他のテーブルへ向かう。
なんて言うか、スマートにやってきてカッコいい大人だなぁ、二人とも。
俺達はそれを有りがたく頂き、相変わらずおいしい料理に満足して自室に戻る。
戻ってもまだハクは寝ていた。こいつは本気で寝だすと本当に起きないな。
「・・・なあ、タロウ、少し外に行かないか」
「ん、わかった。シガルもいく?」
「もう、タロウさんは・・私はいいよ、クロト君と留守番してるから」
イナイが散歩に誘って来たので、シガルも誘ったら、なぜか怒られた。何故だ。
「あ、そ、そう」
何故叱られたのか理由が解らないけど、とりあえずなんか不味ったらしい。
頭をポリポリとかきながら、イナイに視線を向ける。するとイナイはふっと笑いながら気が抜けたような表情をしていた。
「やっぱ、いいや。うん、いいや」
「お姉ちゃん・・・」
「わりい、シガル。でも、また今度な」
「んー、もう、二人とも全く」
イナイとシガルが偶にやる、俺にはさっぱり内容が理解できない会話をする。
イナイは、シガルに申し訳なさそうに言い、シガルは少し呆れた顔だ。
「あのー、俺が悪いのかな」
「悪い」
「くくっ、そうかもな」
「あ、はい」
何が悪かったのかは分からないけど、即答でシガルが答えたあたり、俺が悪いらしい。
イナイはどこか楽しそうに見える。シガルは怒っているというより、ちょっと脹れてるかんじだ。
「ま、シガルはシガルで気にしなくていいぞ。あたしに気を遣うな」
「むう、そこは気にするよぉ」
「わりぃ。でも、頼むよ。お願いだ」
「うーん・・・・・分かった」
シガルが不承不承といった感じで応えると、イナイはシガルの頭を優しく撫でる。
少し置いてけぼり感。なので俺はクロトを膝の上にのせてクロトを撫でる。
クロトは唐突な俺の行動に少し首を傾げたが、特に抵抗もせず、なすがままだ。
そんな感じで結構グダグダなまま本日は終了である。明日は少しバタバタしそうだなぁ。
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