第244話組合にもちゃんと行きます!

「そんなわけで、しばらくの間お世話になりました。そして、ご迷惑をおかけしました」


街を離れることを伝え、ぺこりと頭を下げる。


「はぁ、まあ、それは良いんですけど、なんでそんなに目が赤いんですか?なんか腫れてませんか?」


俺に頭を下げられた支部長さんは、街を離れる事実よりも俺の目が赤い事の方が気になったらしい。


「ちょっと子供たちに泣かされまして」

「・・・・はぁ、もういいです」


俺が真実を伝えると、適当な事を言ってると判断したらしく、もうしゃべるなという感じで応えられた。酷い。

いや、俺の言い方も悪いと思うけど。なんかこっぱずかしーじゃん、そのまま言うの。

不意打ちで子供たちに構ってもらったら思わず泣いちゃったとか。嬉しかったけど、ちょっと恥ずかしい。


「では、まあ、別の地での組合で面倒が無いように、紹介状用意しておきますので、出る日の朝にでも取りに来てください」

「あ、はい、ありがとうございます」


紹介状か。こういうのってその土地を離れる際は必ず貰うのかな。ま、面倒は無い方が良いし、有りがたくもらおう。

そういえば前回は領主様からも貰ったんだよなぁ。今回はそっち系は無さそうだ。


「しかし、そうですか、やっとこの地を離れますか。いやー、面倒事が一つ、いや二つ、いやもっと減りますねぇ」


相変わらずの胡散臭い笑みで、そんな事を言い出す支部長さん。


「そ、そんな風に思ってたんですか」


ちょっとショック。いや、自覚は有るけど。


「いやー、だってよく考えて下さいよ。国の中に危険物が有るような物ですよ、あなたの存在は。

あなた自身もさることながら、貴方の交友関係は一般人のそれじゃないですよ。ホントにもう面倒くさい」


あははと笑いながら言う支部長さん。言葉そのものは本心かもしれない。でも、それを直接俺に言うあたり、そこまで完全に面倒な人物とは思われてないと思いたい。


「あ、そうそう、あなたにもう一つお礼をちゃんと言っておきたかったんですよね」

「もう一つ?」


なんだろう、何か礼をされる事なんてやったっけ?この人関連では怒られることは有っても、礼を言われることは覚えがない。


「ガラバウの事、ありがとうございます。貴方と関わるようになって、あいつは変わりました。視界が広くなった、とでも言えばいいですかね。あいつの生き方を変えることは、私には出来なかったでしょうから」


いつもの胡散臭い笑みが少しなりを潜め、優しい顔つきで告げる。彼にとってガラバウとはどういう者なんだろう。

ただ単に、指示の通しやすい相手以上の何かがあったのかもしれないな。その辺突っ込んで聞いてないから詳しく知らないんだよな。


「いえ、まあ、あいつの思考を変えさせてやろうと思ってた事実は有りますけど、それは俺の我儘ですし、お礼を言われるような事じゃないですよ」


そうだ。あいつの思考に腹を立て、あいつの生き方に腹を立て、あいつに喧嘩売ったようなものだ。

それに、おそらく一番のきっかけは俺じゃない。ギーナさんの言葉があいつを変えるきっかけになった。戦う事への意味を再度自分に問う事になった。


「ま、貴方はそう言うんでしょうね」


片眉を上げ、また胡散臭い笑みに戻る支部長さん。この人もなんて言うか、微妙につかみどころのない感じだったなぁ。

真剣な時はともかく、普段はこう、思考を探られているというか、行動を先回りされそうな気配が有るというか。

まあ、俺が知らない所で面倒を持ってきて、そういう場合じゃないって事も少なくなかったみたいだけど。


「ま、貴方の存在は良くも悪くも、色々と環境を変えてくれたので、面白かったのは面白かったですよ」

「は、はぁ」


良くも悪くも、か。なんていうか支部長さん、思いっきりストレートに言うよな。この人も俺への対応、結構変わった気がする。

ま、あれだけ迷惑かければ当然か。


「では、仕事が有りますので、また後日。あ、一応あなた方全員連名での紹介状書くので、その事をお連れさん達に伝えておいてください」

「あ、はい」


伝えることを伝えると、手をひらひらさせながら、奥の部屋に戻る支部長さん。

全員連名か。まあ俺達一緒に行動してるから、それでいいか。

支部長さんと別れ、端で待っているイナイ達の所まで行く。


「おまたせ。なんで一緒に来なかったの?」


支部長さんと挨拶をする事を伝えると、イナイはここで待っていると言い、シガルは、じゃあお姉ちゃんに付き合うと言って一緒に残った。

自動的にハクは一緒に残るし、クロトもなんかこういう時、イナイの傍にいる。

そういえば孤児院の時、クロトがえらく静かだったな。いや、クロトは普段から話しかけないとあんまりしゃべらないけど。


「ここの支部長は、支部長以外の肩書も有るからな。あたしと会うと、無駄に気を遣わせる」

「ああ、そうなんだ」


その辺は良く知らないので、分かんない。まあ、あの人がただ者では無いってのだけは、流石に分かるけど。


「後はどこか挨拶行く所有ったかな」


そんなにがっつり関わりを持った所は、他にはもう無かったと思うけど。


『少し、一人で行って来ていい?』


ハクが珍しく、単独行動を告げる。珍しいな、一人で行動したい時は、サラッとどっか行くのに。

いや、たぶん俺に聞いてないだけで、シガルに聞いてるのかもしれない。


「どこいくの?」

『馬に会ってくる』

「馬?ああ、あの子かぁ」


シガルがハクに問うと、ハクはシンプルに応える。多分、ハクを怖がらないあの馬だろう。


「わかった、いってらっしゃい」

『うん!』


ハクは元気よく返事して、組合を出て行く。馬がどこにいるのかは知ってるんだろうか。

まあ、お城にいけば案内してもらえるだろ。ちょくちょく会ってたとも聞くし、あんがい馬房の場所も知ってるのかもしれない。


「馬を気に入る竜か。そう考えると、なんかちょっと面白い」


こう、ウサギを気に入るライオンとか、ネズミを気に入る猫的なものを感じる。


「でもまあ、ハクの場合、竜とか、そういう話でもない気もするけど」

「あはは、そうだね」


俺の言葉に同意して笑うシガル。


「・・・あれは、もう、竜じゃない」

「へ?」


クロトが不思議な事を言い出す。竜じゃない?


「どういう意味、クロト」

「・・・どういう意味だろう」

「あ、そ、そう」


いつものやつだった。本当に無意識に言ってるんだろうな、ああいう言葉は。自分の中のどこかにある記憶からの無意識の言葉。

ただ、この子の場合、記憶が戻ったほうが良いのか、戻らない方が良いのか、少し心配ではある。

もし記憶を取り戻しても、このまま、ぽやっとした子であってほしいと願ってしまう。ハクとの言い合いを思い出すと、本当に、少しだけ、心配なんだよな。


「さて、では向かう所が無いなら、あたしも少し行く所があるが、いいか?」

「え、うん、いいけど、一人で?」

「ああ、わりいな」

「いや、いいけど。遅くなりそうな感じ?」


もし遅くなるなら、晩御飯どうしようかな。


「いや、たいして時間はかかんねぇ」

「そっか、分かった」

「クロトは任せるぞ?」

「ん」


イナイはクロトの背を軽く押して、俺にその体を預ける。俺はそれを抱き留め応える。


「いい子にしてるんだぞ、クロト」

「・・・うん、お母さん」


頭を撫でるイナイに、笑顔で答えるクロト。ハクの時もそうだけどさ。最初は俺に付いて来てるっぽいんだけど、段々別の人になついてる気がする。

いやまあ、別にいいんだけどさ。


「ん、じゃな」


イナイはそう言って歩いて行く。方向が城の方だから、俺達が関わるには面倒な話をしに行くんだろう。

イナイを見送ると、俺とシガルとクロトの、最近では珍しい組み合わせが残った。


「シガルは、何かしたいことは有る?」

「うーん、ガラバウに挨拶ぐらいかなぁ」

「・・・・えー・・」

「もう、タロウさんたら」


ガラバウに挨拶に行きたいという言葉に、分かり易く嫌な顔をすると、困った顔で叱られる。

いや、俺が行くのはいいのよ。なんかシガルをガラバウの前に立たせるのが嫌なだけで。なんかあいつとシガルが近づくのは、なんか、ほんとなんか嫌な感じがする。

なんでだろうね。独占欲なのかね。


「じゃあ、とりあえず宿に帰る?そのうち帰ってくるだろうし」

「タロウさんはしたい事無いの?」


したい事、かぁ・・・。

あ、そうだ。


「あるある」

「何?」


首を傾げながら聞くシガルに、最近やって無くて、機会が有ればしたかったことを伝える。


「釣りがしたい」

「釣りかぁ、そういえば好きだって言ってたね」

「旅に出てから出来てないし、やりに行きたい」

「川はちょっと離れたところにあったと思うけど、今から行くの?帰り真夜中になっちゃうよ?」

「行く」


歩けば遅くなるけど、転移使えばすぐだし。


「クロト君いるよ?」

「あ」


俺の思考を完全に読んだ突っ込みがシガルから入る。そうだ、クロトには魔術が通用しないんだった。


「・・・諦めます」

「うん、ごめんね?」


申し訳なさ半分、ちょっと笑ってる感半分な感じで言うシガル。


「いや、いい、クロトの性質を忘れてた自分が悪い」

「・・・ごめんね?」

「いや、クロトは悪くない。気にしなくていいよ」


クロトは悪くないもんね。これで謝らせるのは、間違ってる。


「・・・とりあえず、なんか、ちょっと寄り道して帰ろう」

「クスクス、そうだね」

「・・・お肉」


俺の言葉をくすくすと笑うシガルと、どうやら肉が食べたいらしいクロトをつれて、出店が有りそうな方向へ向かう。

釣り、したかったなぁ。

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