第238話そろそろ移動の相談です!
「タロウさん、どうしたのぼやっとして」
ぽけっと、宿の窓から外を眺めていると、シガルが横から顔を覗き込みながら聞いてくる。
窓枠に寄りかかって、若干かがんでいたため、顔がかなり近い。
「ん、んー、そろそろ別のとこ行こうかなーって」
若干慌てたのを隠しつつ応える。あ、なんかクスクス笑ってる。うん、バレてる。
まあ、ともかく、この土地ではあまりノンビリは出来ていない。いや、多少は出来てるけど、色々有りすぎて回り切れてない物も有る。
けど、なんだかんだ長くいたし、そろそろ次の場所に移動してみたいなと思い始めていた。
「そっか!次はどこに行くの?」
シガルは俺の言葉を当たり前に受け入れる。
「南の方かなぁーとは」
特に深い理由があるわけでは無い。いや、一応理由は有るけど、そこまで深い理由じゃない。
ただ、なんとなく、まだギーナさんの国に行くより、ウムルの傍の他の土地を歩いてみたいと思っただけだ。
「南か。国境を超える予定か?」
俺のぽやっとした発言にイナイが問う。国境かぁ。そうだなあ、次の国へ行くのもいいよなぁ。
「そうだねぇ、そろそろ別の所にも行ってみたいな」
「そうか。真南ならそうでもないが、南東に行くのであれば少し気を引き締めておいた方が良いぞ。あまり平和な国じゃない。まだ内戦の最中だった筈だ」
「内戦かぁ。それはちょっと勘弁だなぁ」
「南は小さい国だが、内情は安定している。資源が豊富でな。何より、他国に友好的な国だ。とはいえ隣での内戦が収まらないせいで、多少の危機感が有るけどな」
なんか、お隣なのに極端な感じだな。
「内戦してる国は、あんまり裕福じゃないって事?」
「いや、それよりも、圧政に対する反乱で内紛があちこちで起こって、そこからの大々的な内戦だな。現状国側が劣勢だ。何かとんでもない隠し玉でもない限り、このまま為政者が変わる流れだろうな」
「圧政からの反乱かぁ」
どこの世界でも、やはりそういうのは有る物なんだな。
というか、この世界の文化の具合を考えると、当たり前なのかもしれない。
ウムルが平和すぎるんだよ。
「平和が一番だけどなぁ・・・」
「そりゃそうだが、当たり前に生きていくことすら厳しいなら、人は戦う事も厭わないだろう」
「まあ・・・そうだね」
ただ死にゆくぐらいなら、その時間と、気力を使って戦う方が良い。
過去に後悔して死にゆくぐらいなら、辛い世界を子供たちに押し付ける羽目になるぐらいなら、今の自分が頑張るほうがいい。
なんて、そんな事を想う年でもないけど。でも、ただ諦めるのは嫌だな。
『で、どうするんだ?』
ハクがわくわくして聞いてくる。多分知らない土地に行くのが楽しみなんだろう。
「クロトはどっちがいい?」
なんとなくクロトに聞いてみる。
「・・・僕はどっちでも。お父さんたちが居ればそれでいい」
クロトはあんまりどこかに行きたいという意思はない様だ。とりあえず俺達についてくる感じか。
「あ、そういえばクロトの身分証必要なんじゃ」
「思いつくのがおせえよ。もう作ってるから大丈夫だ」
「あ、はい」
流石イナイ先生。もう既に作ってるらしい。
いつの間に作ったんだろうか。最近街を出る時は、身分証の提示を求められないので気が付かなかった。
「じゃあ、移動には問題なし、と」
「おう。で、どうする?」
そうだなぁ。やっぱり内戦の所に突っ込んでいく趣味は無いし。別に内戦してるなら収めに行ってやろうなんて良く解らない思考もないし。
無難に平和な方だよなぁ。
「無難に平和な方で」
「あいよ」
「ていうか、お隣だし、ウムルと国交有るよね、絶対」
「多少はあるぞ。けどうちは資源的な意味ではあまり関わりが無いな。ただ温泉がそこそこ多い土地で、それが目的で行くやつがいるかな」
「温泉!」
ほむほむ、温泉が有ると。それは興味深いです。
つーか、この世界って、一応お風呂的な概念は一般的だけど、温泉が有るとは思ってなかった。
いや、有ってもおかしくはないのか。ただ、だだっ広い大陸の内陸にポツンと温泉地があるのは少し不思議だけど。
いや、温泉が有るの自体は別に不思議じゃないか。何処でも可能性はあるし。
いかん、もう頭が温泉になっている。
「・・・温泉・・・?」
クロトが首を傾げている。温泉は知識に無いのか。
「まあ、天然の風呂みたいなもんだよ」
「・・・ふうん?」
俺が簡単に説明すると、クロトは首を傾げながら、良く解らなそうに返事をする。
「別に温泉自体はウムルにも有るんだが」
「あ、そなんだ」
「そりゃ、あんだけ土地広いんだぞ。そういうのに適した土地もあらあな」
そりゃそうか。あんだけだだっ広いんだ。不思議じゃないか。
それも東西よりも、南北に広いもんな、ウムルは。
「まあ、南に行くのは決定でいいとして・・・忘れてねえだろうな?」
「・・・うん」
イナイの言葉に、若干言葉に詰まりつつ頷く。イナイが言うのは、王女様の事だろう。
そうだよな、行く前にちゃんと話をつけに行かないとな。
「・・・お前がどういう結論を出そうと、あたしは構わねえぞ」
「・・・うん、そうだね。あたしも、いいよ」
イナイは俺の顔を見て言うが、それに同意したシガルは俯いている。
イナイの言葉に肯定しつつも、やっぱり嫌なんだろう。イナイはそんなシガルを見て頭を抱えてわしゃわしゃとなでまわす。
「わ、わわ、な、なになに!?」
「嫌なら嫌って素直にいっちまえよ。あたしに気を使う必要ねーよ」
「あ、あうう」
笑いながら頭をぐしゃぐしゃにするイナイに、狼狽えるシガル。
でも、言われたことを噛みしめて、想いを口に出す。
「・・・正直に言うと、あの人の事はやっぱり好きになれない。けど、それでも、タロウさんが受け入れるなら、いいよ。あの人の頑張りは・・・・・嫌だけど良く解るし」
シガルは王女様の事は、どうしても受け入れがたい様だ。
それでも、俺が彼女を好きだというなら、我慢すると。そう言っている。
「ありがとう、シガル。でも、心配する必要は無いよ」
シガルの頭を撫でながら、彼女への、王女様への感情を、口にする。
シガルが心配する必要は無い。ないんだ。
王女様には申し訳ないけど、どうしても彼女にそういうった感情は持てない。
彼女が俺の為に頑張ったのも、好意を全力で向けられているのも、流石に分かる。
けど、それでも、俺は彼女に惹かれない。それを、ちゃんと、彼女に伝えよう。
「近いうち、話に行ってくるよ」
その時は流石に一人で行こう。誰かを連れて行ってなんて、酷いと思うし。
泣かせることに、なるかな。
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