第237話王女様の采配です!

二人が話してるのを見ていて気がついたことがある。

王女様、臣下に助けてもらってと言っていたが、本人も相当できるっぽい。

イナイの発言に一切淀むことなく即答えてるし、イナイがステル様モードのままではあるものの、作り笑いじゃない笑顔を見せている。


凄いなと思ったのは、やはり王女様なんだなと思う視界の広さだろうか。

貴族位をただ取り上げるだけでは、土地を変えて暴徒になる可能性とかも考えて、ただそのまま放逐する気じゃないとか。

領土の配分の見直しも、力量に見合った配分にする必要性と、管理する人間を監視する人間の配置とか。

なんていうかこう、俺は指摘されないと思いつかないことを、イナイに聞かれても、即座に案を答えていく。

元々考えてたんだろうなっていうのが、良くわかる。


ふたりの会話をそんな風に思いながら聞いていると、部屋にノックの音が響く。


「入りなさい」


王女様がそれに応えると、兵士さんが入ってくる。


「殿下、集まりました」

「通しなさい」

「はっ」


凛とした声で兵士さんに言う王女様。もう鼻声は治ってる。

集まったって、何がだろ。


「誰かほかにお客さんが?」


俺の発言に皆、王女様すらも「え?」という感じの視線を向けてきた。

ハクだけ、首を傾げている。


「・・・えーと」


ああ、そうだ、ここに来た理由忘れてた。


「あの件の人達だね」


俺ホントダメだな。そして何よりも、クロトまでが俺に疑問の視線を向けてきたことがダメだと思ったよ。

この子、ぽやっとして空気読まない子かと思ってたんだけど、段々というか、凄い速度で空気を読むようになってきてる。

あれ、なんかこれ、また俺一人蚊帳の外になっていくの?


「全く、タロウ、当事者がそんな事でどうするんですか」

「はい、すみません」


イナイに叱られて謝る俺を見て、くすくすと笑うシガル。

王女様も、少し笑いを堪えてる感じだった。笑っても良いのよ?


少しして、あの授業に参加していた教員達や、それぞれの学校責任者、見覚えのない人達もそこそこの数入って来た。

あの人達も、教員達なのかな。


「ようこそ。まずはお座りなさい」


射殺すような眼光と、底冷えしてきそうな声音で彼らに言い放つ王女様。

やっべ、こっわ。この子こういう表情と声も出すのか。めっちゃ怖い。


王女様の言葉に従い、おずおずと用意された椅子に座る人と、堂々と座る人が居る事に気が付く。

なんとなくだけど、堂々としてる人達は王女様側の人なのかなと思う。

でないとあの王女様の威圧に堂々とは出来ないでしょ。


「さて、逃げ出さずに此処に来た事だけは、それだけは褒めてあげましょう」


全員が座り、王女様に目を向けたところで、王女様が口を開く。


「お、王女殿下、は、発言をお許しください」

「・・・いいでしょう」


女学院の責任者と名のった女性が、慌てながら発言の許可を望む。

王女様は、静かにそれを許可し、彼女に顔を向ける。


「わ、私は、なぜ、呼ばれたのか理解できていないのです。こ、此度の事は騎士学校側の責任かと」


騎士学校側の責任。確かにそうかもしれない。

暴れたのはあの彼だし、騎士学校側の生徒だ。筋は通ってると思う。

他にも女性の教師が数名、似たような感じだ。


「そうですか、では、ゼナージという名の生徒について、何かご存知ですか?」


王女殿下が誰かの名前を言うと、目を見開いて、あからさまな動揺を見せる。

うん?


「わ、わが校の生徒です。か、彼女が如何されたのでしょう」


如何されたのでしょうって、あなたが如何されたのよ。名前言われただけで焦りすぎだろう。


「知らぬと?あなたが何を企んでいたのか、あの男と何を企んでいたのか、私が知らぬと?」


王女様は少し首を傾げ、目だけで人を殺せそうな眼光で彼女と、もう一人の男性を見る。

男の方は、あの授業の引率の男だ。ふむ、あの二人で何か企んでたのかな。


「そしてそれに賛同した者も」


ぎろりと、他の教員達を見る。

ああ、なるほど。そういう事か。あそこで何か企んでたのか。

もしかして、さっき言ってた名前の生徒も噛んでたって事かな?良く解らんが。


「これからの者を犠牲にし、身の保身の為に利用。それも先の事が一切見えていない、本物の愚行。なおかつ、生徒が憂き目にあったにも関わらず、それをこれ幸いと利用する。

貴公等に人を教える立場に立つ権利など、持たせる必要は無い。なにより、そのような者達に、大国を敵に回す行為を平然とやってのける者達に、貴族位など必要ない」


王女様が言い放つと、半数以上の者達が椅子から降りて、跪いて頭を下げる。


「ど、どうか御容赦を。画策したのはこの男と、学院長です。わ、私どもは逆らえず」

「舐めないで下さい」


自分の言い分を口にした教員に、王女様はまたも冷たい声で言い放つ。


「先ほど言いましたよ。私が知らないとでも、と」

「そ、それは――」


王女様の言葉に震える女性。なんつうか、王女様凄いな。

王様引き籠ってるんだし、もう女王様になったらどうかな。


「貴方方が皆、彼を、タロウ様を、そして口出しをし始めたウムルを疎んじていたことなど、とうに耳に入っています。いずれ学院にもその手が伸びるのを避けたい、と。

そして、彼が居なくなれば、この国での居場所さえ奪えばそれも無くなるなどと、あまりにも愚かしい事を話していたのも」


ほむ、俺が居なくなればウムルとの関係が無くなる?

・・それって、有りえないと思うし、有りえたとしても、多分今のこの国にとってマイナスしかないと思うんだけど。


「我が国は、ウムルと戦争になる所だったのです。それも我々がウムルに無礼を働いての戦争です。そこが意味するところが解っているのですか? そして、今の我が国がウムルからの庇護を良しとしなければ、どうなるかも想像できないのですか?」

「い、いえ、その」


そうだよね。この国、戦力っていうか、軍事力っていうか、そういうのが低い。

アロネスさんから聞いた範囲では、国の奪い合いをしている国が、無いわけでは無いとも聞いている。

そう言った国に狙われれば、学校どうこうなど言ってる場合では無くなると思う。


「私は、私自身から、両学院に指示を与えました。機会を与えました。それを逸した。その報いを受けなさい」

「で、殿下!」

「兵よ!彼らを捕えよ!」


跪いている者達は皆、王女様の声でどかどかと入って来た兵士さん達に捕らえられる。

なんか、心なし兵士達の動きが良い気がするけど、気のせいかな。


「で、殿下!どうか、どうかもう一度お情けを!」

「勿論。処刑などいたしませんよ」

「で、殿下・・・」


捉えられ、焦りながら王女様に許しを請う教員達に、王女様はにこやかに応える。

教員達は少し救われた表情をする。


だが――。


「貴方方は新しい情報源です。処刑などしませんよ。まだ私が知らない事も吐いてくれることを願います」


悪魔のような笑みを見せた王女様に、一同は絶望の表情になる。

やっぱこのこ怖いわ。


「ただ、貴族としての責務を全うできなかったとはいえ、これまでわが国に仕えた事を考え、貴族位剥奪後の生活も出来なくは無いように手配はします。

・・・犯罪者としてこき使われないだけ容赦されたと思いなさい」


つれていかれる者達にそう声をかけて、最後まで見ずに、この場に残っている教員達を見る。


「では、伝えた通りに、あとはお願いいたします」

「「「「「「「はっ」」」」」」」


こちらも皆跪いたが、やはり王女様に仕える側の人達だったようだ。

たぶん、この人達には最初から話が通ってて、今後どうするかも話が通ってるんだろうな。


「タロウ様。ステル様。シガル様。ハク様。・・・クロト様。此度の不始末、彼らの貴族位の剥奪、およびそれに連なる物の処分。それでご容赦願います。

もしご不満がおありでしたら、この身に出来る事ならばどうぞお申し付けください。・・・タロウ様が死ねと申されるならば、それも厭いません」


何を言い出すかなこの子は。いや、まあ、もしかしたらあの場の俺の行動を聞いてて、その上でかも知れないけど。

それに厭わないと言いつつも、少し震えているのぐらいは流石の俺でもわかる。さっきもあんな顔で泣いていた子を、責める気は無い。


「私は結構です」

「あたしも、構いません」

『私は別に最初からどうでも良いぞ?』

「・・・僕は別に」


そして皆それに応えた後、俺を見る。あ、はい。


「特に気にしてませんよ。むしろやりすぎたと思っているので、彼が立ち直れることを祈ってます」


割と本心。激情に身を任せ、本当にやりすぎる所だった。何も無くなった彼が、まともになる事を祈りたい。

止めてくれたイナイさん、ほんと素敵。愛してる。


「・・・感謝を。皆様の寛容に心からの感謝を」


王女様は頭を深々と下げ、礼を述べる。

とりあえずこの件は、本当に落着かね?

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