第236話王女様が事実を知ったようです!
「なんか、そうでもないのに久々に来た気がする。来たくなかったけど」
王城の入り口で立ち止まり、そんな事を口にする。
「くだらない事を言ってないで、行きますよ」
入り口でボケっとしていると、イナイに叱られる。いや、叱られたっていうか、呆れられたっていうか。
なんでこうなるかなぁ。極力ここには近づかないで良いようにしてたんだけどな。
「今回ばっかりはしょうがないよ、タロウさん」
「まあ、それは解ってるんだけどね」
何故王城に来る羽目になったか。事は単純明快。
あの主席の彼。ベゼレヴァーネッジ君の一件を、その場で判断は難しいと結論付け、一度街に戻って、上の人間も交えて、後日正式な謝罪と、感謝の場を作るという話になった。
前者はイナイの事。後者は俺が街の被害を事前に止めた事。
その事が王女にの耳に入ったらしく、自らが謝罪をしたいと言う話になった。
宿に兵士が来たとき、とても気分が重かったのは言うまでもない。
イナイが言うには、彼の一連の行動を隠匿し、俺が彼をただ傷つけたという事にすることによって、問題を全て俺に押し付けて、自分達の保身を考えていたらしい。
教員の中にも俺の存在が気に食わない人間も居るらしく。女学院の責任者と、あの授業の騎士学校の引率の教員もそうだったらしい。これ幸いと俺に罪をかぶせ、この国での俺の立場を無くさせようと考えていたらしい。
なんていうか、そういうの聞くと、ちょっとあの彼が可哀そうに思えた。
だってそれ、結果論だけど、彼が死んでいた方が都合がよかったって事だし。なんだかなぁ。
そしてそんな連中だから、いつかの騎士や貴族のように俺達の闇討ちを画策した。
そして子飼いの者達を使って、人を集めようとしたのが間違いだった。
その中には、俺達の実力を良く知る人間が何人かいたらしく、そこから王女の耳に入る事になり、王女自身が彼を呼び出し、詰問したそうだ。
「彼、復帰できるのかね」
最後に見た彼は、剣を持っていた時と違い、げっそりとした顔になっていた。
初めて会った時の元気な姿からは全く想像できない、やつれきったような姿に。
「本人の努力次第ですが・・・どうでしょうね」
イナイは無表情で言う。その言葉には暗に、殆ど無理だろうなと言っているように聞こえた。
彼の性格と、あの状態を考えると、彼が努力して、また立ち上がるとは少し思えない。
「可能性として、似たような魔剣を探し出すとか」
「うわぁ・・・ありそう」
シガルが言った言葉に、あまりにも一番現実味が有って、物凄く嫌な気分になった。
本当に有りそう。
「まあ、難しいでしょうね。錬金術師が作る剣は、あのような持ち主が使えなくなる剣は基本的に作りませんし、あのような魔剣も、そうそう見つかる物では無いですから」
「でも、つくる人がどこかに居るかも」
「その場合、そこまでの呪いを詰めて作り上げた物、本人が無事で済む保証は有りません。めったに居ませんよ、そんなもの好き」
「だと、いいな」
お話とかだと、そういうMADな人いたりするからなぁ。雷で死者蘇生を試みる科学者とか。
あの科学者は、焼け焦げてようが、切り刻まれてようが、電撃でよみがえらせるから意味わからん。
暫く案内の兵士について行き、とある部屋に案内される。
会議室のような部屋の奥に、王女様がすでに立っていた。
けど、その表情は、硬く、少し震えているように見えた。
「こ、この度は、タロウ様にも、ステル様にも大変な無礼を働いた事、この身をもって、心からお詫びいたします。ど、どうか、ご容赦いただきたく」
頭を下げ、震えた声で謝罪を述べる王女様。
あれ、このこんなに殊勝な子だっけ。もっと堂々と言い放ちそうなものだけど。
「王女殿下、顔をお上げください。このような事態が今後無いようにするために、私達が出向いたようなものです。王女殿下が全てを背負う必要はありません」
頭を下げる王女様に、イナイは優しく声をかけて、頭を上げさせる。
「ス、ステル様」
泣きそうっていうより、泣いてる。嘘泣きじゃない事を祈る。俺この子の演技見抜けんし。
「本気で怖かったんだ」
シガルがボソッと呟いたのが聞こえた。あ、あれガチ泣きなんだ。
でもなんでそこまで怯えてるんだろう。今回の事は王女様の計画なんじゃないのかね。
ああいう貴族を無くすために、俺達に行かせたんだろうし。
「こ、今回の件は、あ、あくまで、ウムルという国の実力を、騎士候補の生徒や、貴族の子女達に示すために、タロウ様に、これからの人間達の意識を変えさせて頂ければと、そう、思って、その」
半泣きで俺に言葉を述べる彼女は、なんか、おいてかないでって鳴いてる子犬を想像させる。
「け、けして、タロウ様や、皆様の身の危険を前提としたつもりは、その、一切――」
「王女殿下、少し落ちつき下さい。私も、タロウも大丈夫ですから」
わたわたとした感じで言葉を紡ぐ王女様の言葉を、やんわりと止めて、落ち着くように言うイナイ。
『タロウ、泣かせるのは良くないぞ』
「ハクからそんな突っ込みが入るとは思わなかった」
余りにも予想外な所から突っ込みが入った。ハクがそんな事言って来るとか、あまりに予想外だわ。
「・・・お父さんが眉寄せてずっと黙ってるから、あの人、怯えてるんだと思うよ?」
クロトが、俺の袖を引きながら言う。なんでそんな事。
理解できなくてシガルを見ると、それに頷く。え、本当に俺に怯えてたの?
イナイの方を見ると、ジト目で見られていた。あ、はい、すみません。
「あー、その、とりあえずみんな無事ですし、そこまで気にしてないので、落ちついて下さい」
俺の言葉に、王女様は、見るからにほっとした顔をし、少し深呼吸して、背筋を伸ばす。
一呼吸おいて、口を開いた。
「お見苦しい所をお見せ致しました事、お恥ずかしく思います。まさかこのような事になるとは、露も思わず、皆様にご迷惑をおかけした事、改めてお詫びいたします」
先ほどの慌てた姿とは違い、落ち着いた感じで頭を下げる王女様。
まだ涙が少し残ってるのと、鼻声なのは見ないふりをしておこう。
「この国の貴族は、どうにも危機意識が薄い。そこが改善されなければ似た案件はまた出てくるでしょうね」
「ええ、私もそう考えています」
イナイの言葉に落ち着いて答える王女様。
落ち着きを取り戻した彼女の目の奥に光るのは怒り。静かに、でも確かな怒りを感じる。
「これを契機に、彼らと同じ派閥の者達を一掃するつもりです。連中はこの国を亡ぼす危機を作りました。ウムルという大国を、竜を、我らの英雄をまたも敵にまわす行為をしました。それは国として許せる物ではありません。同じ過ちを3度も繰り返しても未だ学ばない者達は必要ありません。
兵と騎士の大半は、貴方方の力を良く知っています。抵抗に使える兵は、彼らにはありません。一切の容赦なく、断罪の鉄槌を打ち下ろします」
まあ、確かに。イナイに危害を加えるって事は、そういう意味になるよな。
だからこそ、この国の王様はイナイに屈することになったんだし。
「それに、今後この国は、貴族あっての民ではなく、民あっての貴族にならねば。でなければ遠くないうちにこの国は亡ぶ。そこが理解できぬものに、貴族の位は必要ありません」
「・・つまり、調査自体は元々済んでいる、という事でしょうか」
「ええ、ですが、これからの者達が改善できるのであれば、彼らに今後も任せようと思っていました。今の国を状況を理解し、行動を変えられるならば、使えるならばと。
ですが、与えた機会を不意にするどころか、ましてやタロウ様を・・・!」
ぎりっと、手を握り、怒りを完全に露わにする王女様。俺よりイナイ狙ったほうが問題だと思うんですけど。
「簡単な、彼らに現実を教えるだけの、簡単な話だったのです。まさかこんな事になるとは・・・」
「先ほども申しあげましたが、私どもは気にしておりません。王女殿下はよくやっておられます」
実際王女様、こういうのやる立場じゃないと思うんだけどな。
王様がやるべきことだと思うんだけど。
「そう言えば王様はどうしたんですか?」
気になって聞くと、王女様が目を伏せる。
「・・・父が、最近部屋から出て来ず、私ともあって下さらないのです。政務も全て、一切手を付けず、私が代わりにやっているのが現状です。
臣下に助けられながらなんとかやっています」
「そう・・・ですか」
王様引きこもりになった模様。
おい、娘ほっぽって何してんだよ、あの親父は。
その後、王女様とイナイが色々小難しい話を始めてしまい、隅っこでポツンと待つことになりました。
でも最近こういう機会が増えてきたせいか、言葉の節々に不穏さが見て取れるのが分かってくる。
これ、大目玉食らう人間沢山出て来るなー・・・。
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