第231話剣の様子がおかしいです!
「素敵でしたわぁ!」
「ええ、本当に!」
「ひとたび剣を握ったときの凛々しいお顔のなんと素敵な事か」
「誰よりも早く、颯爽と駆ける姿は唯々見惚れてしまいました」
「次はわたくしとお話頂けませんか?」
「あ、順番ですよ。次は私です」
「わ、私も待ってましたよ!」
合同授業の休憩時間に、わいわいと一人の人間に女生徒が大量に押し寄せている。
理由は簡単。女生徒を危険から守ったというだけだ。
俺達全員が近づいてくる中型の魔物の存在に気が付き、騎士達が反応できるか一応確かめるために黙っていたが、現れるまで誰も気が付く事は無く、気が付いた後も集団で一体に押されるという言う現実であった。
なので、騎士達が危険だと判断すれば、いつでも割って入れるようにしていたのだが、魔物は急に女生徒の方に駆けだした。
恐らく、武器を持ち、抵抗する存在より弱い者を狙い、狩って逃げるという算段だったんだろう。
だが、魔物の判断とは裏腹に、どこに来ても対応できる様にしていた俺達にその首を狩られることになる。
結果、その姿を見た女生徒たちは、休憩時間に群がってきているという訳だ。
群がられている方は困惑の表情を隠せない。どうしてこうなったという感じだ。
「ふふ、大人気ですね」
「・・・格好良かった」
イナイとクロトのどこか楽しそうな声が聞こえる。クロトに限っては、何処か誇らしげだ。
ぽやっとした普段の声より、若干張りが有る。
「本当に、大人気だねぇ」
『だな!』
もみくちゃな光景を眺めて呟く俺の言葉に、ハクが元気よく、胸を張って応える。
ハクはどこかどころか、鼻息荒く胸を張っている。この光景はまさに当然と言ったところなんだろう。
シガルさん、とても大人気です。
そう、囲まれているのはシガルである。
因みに、助けを求めてこちらをちらちら見ている。
「そ、その、皆落ち着いて下さい、ね?」
まさかこんな事になるとは露にも思っていなかったシガルは、女生徒たちの反応に困惑しながらも丁寧に対応している。
それが尚の事女生徒たちが押してくる理由だとは知らずに。
ああいうのって、優しく対応すると、ぐいぐい来るんだよな。学習した。
助けを欲しそうにこちらを見ているのは解るんだけど、あれ助けるのは若干怖いなぁ。
悪意が有るわけじゃ無くて、全面的に好意しかないのが厄介だ。
でもまあ、流石にあの状態ずっと放置はかわいそうか。
俺はシガルの元まで歩いて行き、シガルはそれを見て助かったという顔で俺に抱き付いてくる。
それを見た女生徒は、うらやましいとか、私も抱き付いてほしいとか、シガルを連れて帰りたいとか、なんか色々言っている。
うん、最後ちょっと意味の取りようによっては怖いんですけど。
「シガル、イナイがちょっと話があるみたいだから、行ってくれるかな」
「え?あ、うん、わかった!」
一瞬俺の言った意味が分からず疑問の声を上げるが、直ぐに女生徒が寄ってこれなくするための方便と気が付き、イナイの方へ走っていく。
イナイはそれをくすくすと笑いながら見ていた。シガルが傍に戻ってからも楽しそうにシガルと話している。
「ああ、あんな楽しそうに」
「なんて素敵な笑顔かしら」
「戦いの場の凛々しいお顔もすてきでしたが、あの笑顔のなんと愛らしい事」
「シガル様・・・・」
うん、なんていうか、シガル、大人気である。
因みに騎士たちは魔物の退治どころか、中型の魔物に集団で互角だったという事実に、へこんでらっしゃる。そしてそれをシガルが一瞬で狩った事に尚の事。
ただひとつ気になる事と言えば、ああいう場で率先して前に出そうな主席のあの子が、その光景を見ているだけだったことだ。
何故か剣を握り締め、一切戦わなかった。
それにもう一つ気になる事が有る。彼の持つ剣。あの剣から何かいやな感じがする上に、なんかどす黒い魔力が薄く纏わりついている。
持ち主である彼にもだ。
最初は出ていなかったけど、彼が街の外に出て、剣を握り締め始めたあたりから、段々とどす黒い魔力がにじみ出し、今や鞘全体を覆っている。
イナイに相談したほうが良いかな。うん、その方が良いかもしれない。
そう思ってイナイの方を向くと、何やら難しそうな顔で教師陣と話していた。
シガルは、ハクとクロトに挟まれている。ハクが何か苦虫を噛み潰したような顔で会話しているが、それで済ましてる辺り良い事だろう。
ハクが居るせいなのか、3人で話しているせいかのか、女生徒たちも遠巻きで見るだけで済ませているし、そっちはいいとして、イナイは邪魔しない方が良いかな・・・。
とりあえず、シガル達の方へ行き、クロトの横に座る。
そうだ、シガルにも見えてるかも知れない。シガルに聞いてみよう。
「ねえ、シガル、あの主席の彼の剣、なんか変じゃない?」
「あ、やっぱり、タロウさんも気が付いてた?」
「てことは、シガルも見えてたのか」
「うん、だからさっきお姉ちゃんに言ったの。それでお姉ちゃん、教員たちと話してくるって」
ああ、なるほど、それでなのか。
何やら難しい顔で教員たちと未だに話している。皆ちらちらと彼を見ているのが伺えた。
みられている本人は、何かすごく楽しげに取り巻き達と話しているが。
「あれ、なんかヤな感じするから、言った方が良いかなと思ったの」
「うん、凄く嫌な感じだ。正解だと思う」
「何より、なんていうか・・・汚い」
「あ、わかる」
シガルは彼の持つ剣を汚いと言う。俺もその言葉に前面同意だ。
あの剣の放つ魔力の色が、とても汚い。ヘドロの様な色だ。
『あれは、人間達が魔剣と呼ぶものじゃないのか?』
「え、そうなの?」
「え、俺あんな魔力見たことないぞ」
ハクの言葉に俺とシガルが驚きを口にする。
あれが魔剣?俺の知ってる魔剣と、大分違うんだけどな。
なんというか、あんな、どす黒い魔力を放つものではない筈だ。俺の教えられた知識ではだけど。
「・・・あれは、呪い。様々な怨嗟の塊。持ち手を蝕む呪いの力」
クロトが剣を見つめながら、言う。何その物騒な話。
「持ち手を蝕む?」
「・・・うん、制御できれば別だけど、出来ないなら魂を侵食されて、いつか剣の一部になる」
やばい、物騒とかいうレベルじゃない。かなりやばい代物だ。
あの子解ってて使ってるんだろうか。この間会った時はあんなもの持ってなかった筈だ。
「あの子は、制御できてそう?」
「・・・出来てない。多分、お父さんや、お母さんたちぐらい魔術に長けてないと、制御できずに剣に食われる」
俺の問いに完全に不味いという事を理解させる言葉で返すクロト。
しかし、お母さん達?もしかしてシガルも行けるの?
「達っていうと、シガルも大丈夫そう?」
「・・・シガルお母さんも、たぶんあれ使える。凄く疲れると思うけど」
「そ、それはヤだなぁ」
お母さんと言われたことに、相変わらず戸惑いながら、シガルはあの剣を使う事を嫌がる返事をする。
「ハクは?」
『私はあれ、なんかヤだから触りたくないぞ』
「あ、ハクはそういう感じなのか」
「・・・そもそも、相性が悪くて、使えないと思う」
「へえ、そうなんだ。それはなんで?」
「・・・なんとなく?」
「あ、はい」
理由は解らないけど、ハクとは相性が悪いのか。
まあ、元気はつらつなハクに、あの薄暗くドロドロした感じの魔力は似合わない。
竜の魔術はきれいな三重螺旋を描いてる時が多いし。それにあの薄汚い色を混ぜるのは確かに嫌だ。
「とりあえず、教員の判断待ちかな」
「多分、模擬戦でタロウさんが相手する事になると思うよ」
「うん、それはそんな気がしてる」
あの子はおそらく、俺とやるためにあの剣を持ってきたんじゃ無いかと思う。あの恨みのこもった目は凄かった。
あれが魔剣なら、打倒すべき何かの為に、持ってきたんだとしか思えないし。
そして、それが分かった今なら、魔物に使わなかったのは、手の内を見られないためだと想像できる。
初撃からいきなり、剣の力を使って来る可能性大だな。
「どういう力なのか分からないのが怖いな」
「魔剣って言っても、どんな能力かは、ばらばらだもんね」
「・・・多分、身体能力強化と、世界への干渉」
俺達の危険に対する疑問にクロトが答える。
身体強化はともかく、世界への干渉?
「クロト、解るの?」
「・・・多分だけど」
「そっか、ありがと。干渉ってどういうものかな」
何故かクロトにはあの剣の力が解るらしい。
もしかしたら、俺達とクロトでは見えている物が違うのかもしれないな。
さっきも、呪いとか、怨嗟とか、そういうの言ってたし。
とりあえず、正面から受け止めないように気を付けておこう。
「・・・多分、あれに斬られる事自体が、危ない」
「え、どう危ないのそれ」
「・・・魂の浸食、呪いの増加?わかんないけど、危ない」
「そ、そう」
なんかわかんないけど、どうやら一発でも貰ったら危ないらしい。
やばいなんてもんじゃねえだろ、あれ。うへぇ、あれ相手にするのかぁ。やだなぁ。
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