第230話不穏な相談ですか?

「くそっくそっ、くそおおおおおおおおお!!」


壁を殴りつけながら思い切り叫ぶ。

悔しい、悔しくてたまらない。何だこの様は。なんて無様を!


「このような屈辱!それも平民に!」


拳から血が出るのも気にせず、壁を何度も殴る。


「お、おやめくださいベゼレ様!血が出ております!」


取り巻きが数人がかりで俺を止める。

それにより動きが止まり、壁を殴れなくなる。


「だからどうした!こんなもの・・こんなもの・・・・!!」


拳の痛みなぞわからなくなるほど怒りがこみ上げてくる。

あの平民め。こんな無様をさらさせられたのは全てあの平民のせいだ!

あんな、あんな無様な姿を!


「殺してやる。絶対に殺してやる・・・殺してやるぞ・・・!」


心の底からの言葉を吐き出すと、周囲の者がざわめきだす。

理由なぞわかっている。解り切っている。


「で、ですが、あの男は殿下のお気に入り。下手に手を出せば・・・」

「そんなこと知っている!知っていて言っているのだ!」

「ひっ、も、申し訳ありません」


ああ知っているさ。解っているさ。あの平民が殿下のお気に入りだという事ぐらい。

だからこそ、尚の事気に食わない。あの男は平民のくせに殿下の言葉を断ったのだぞ?

許せる物では無い。本来打ち首が当然の人間だ。なのになぜあいつは生きている。あいつは生きていてはいけない人間だ。

そうだ、殺すべきだ。あいつが居たせいで全てがおかしくなっているんだ。あいつさえ死ねばきっと、王女殿下も目を覚ます。


そう考えると少し心が落ち着いて来た。先ほどまでの怒りがすっと消えていく。

そうだ、殺せばいい。平民ごときの命、たいしたものではない。


「そ、それに殺すと言っても、あの男、生半可では・・・」

「解っている。あれが強い事ぐらい」


ああそうだ。あれが強いのは解った。あの剣が異常なのも分かった。

ならば異常には異常で当たればいい。馬鹿正直に自分の力で真正面からやる必要は無い。


「剣を、屋敷から取ってくる」

「け、剣ですか?」

「ああそうだ」


我が家の家宝。屋敷の地下に厳重に封じられている剣。

その剣をもって、奴を殺す。あの剣ならば、あの技工剣に対抗できる。


「よ、よほどの名剣なのですか?」

「名は知られて無い。だが、間違いなく、奴の剣に対抗できる剣だ」

「技工剣に対抗・・・魔導技工剣をお持ちだったのですか?」


魔導技工剣。それを聞いて、あれを握ったときの記憶がよみがえり、怒りがまた爆発しそうになる。

壁を殴って、何とか一瞬で耐え、深呼吸をする。いかん、やはりまだ落ち着いてはいないな。


「ひっ、そ、その」

「あれではない。あんな物はいらん」

「で、ではいったい」

「魔剣だ。我が家には家宝の魔剣が有る」


そう、魔剣。魔導技工剣のように使い手の魔力を吸い上げるのではなく、自らが魔力を周囲から吸い上げ、変換し、現象を発現する剣。

技工剣のように剣技以外の技量は必要のない、特殊な剣。


「で、ですが大丈夫なのですか?」


だが、取り巻きの一人が疑問の声を上げる。


「何がだ」

「その、魔剣は使い勝手はいいですが、その出力からまともに打ち合えば、魔道技工剣には劣る、と聞いたことが」

「そうだな、普通の魔剣ならばそうなる」

「普通?」


そう、普通の魔剣なら。錬金術師が作る魔剣なら、正面から打ち合った場合、魔導技工剣には劣る。

基本的に、特殊な力を持つ剣、という物なだけだからだ。普通に打ち合えば、起動した技工剣の方が優秀な事が多いし、最高出力で放てば、魔剣はその一発で壊れる可能性すらある。


だが、今回使う剣はそんな物ではない。錬金術師が作った魔剣ではない。そんな弱い代物ではない。


「家にある剣は、本物の魔剣だ。錬金術師の作りだした、魔剣を模倣して作られた人造魔剣でも、まがい物の魔導技工剣でもない。

本物の、自然発生した、超常の力を持つ剣。その力は人造魔剣や魔導技工剣など恐るに足らぬ」


私はにやりと口をゆがませながら、剣を握る瞬間を想像する。

あの剣が有れば、あの魔剣が有れば、あのようなまがい物どうとでもなる。


「魔剣の力が有れば、技工剣などいらぬ。必要などない。竜も、他国も、何の造作もない。皆屠ってくれる」

「おお、すばらしい!」

「さすがです!」

「あの平民に目に物みせてやりましょう!」


私の言葉に皆が賛同し、先ほどまでの暗い空気の一切が消える。

そうだ、これでこそだ。我々が居ればいい。貴族が居て、平民は従っていれば良いのだ。

ああ、愉快だ。やつの死に様を想像すると愉快でたまらない。


ここまで私に恥をかかせたのだ、ただ殺すだけでは飽き足らん。奴の連れていた女ども。特にあのシガルという生意気な娘は、動けなくなった奴の前で嬲ってくれる。

いや、あの女たち皆だ。皆許さぬ。奴らは皆あれと同罪だ。全員我々で精々遊んでやろう。


手足を切り落としたうえで死なないように治療し、死ぬまで飾っておくか?

そうすればあの平民も、殺さず飾るのも良いかもしれん。結局最後は殺すがな。


愉快だ。とても愉快な気持ちだ。

待っていろ平民。合同授業の日、のこのことやってきたその日が貴様の最後だ。

殺す。絶対に殺してやるぞ平民。

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