第229話騎士学校です!

騎士学校に向かう道中も、ちらほら見かける人はやはり富裕層というか、いかにもな感じの家と人しか見かけない。

やっぱ、こういう所にあったんだな。こういう地域そのものを避けてたから、学校あったとか気が付かないわけだ。


「しっかし、見られる」


めっちゃみられる。ものすごいじろじろ見られてる。

女学院の方に言った時もそうだけど、遠慮っつうものが無いな。


「慣れろ。流石にあれはどうにもならん」


俺が居心地の悪さを覚えていると、イナイに慣れろと言われる。

慣れろか。うーん、慣れるかなぁ。そのうち慣れるのかなぁ。


「ところで」


俺が首を傾げていると、シガルが声を発した。


「もしタロウさんに挑むような事が有れば、私が相手してもいいのかな」


シガルがちょっと楽しそうに言う。そう言えばこの子騎士相手に勝ち抜きしちゃってるんだった。


「騎士連中の目を最初に覚まさせたのはシガルだし、良いかもな。連中、お前の事も眉唾だと思ってるだろうし」

「はーい!」


イナイの許可に、元気よく答えるシガル。

ん、あれ、もしかしてシガルの騎士との事も広まってるのかな。


「シガルの一件も、世間に広まってる感じなの?」

「一般人にはそこまで広まっちゃいねえだろうが、騎士と関係者には全員、ある程度の話はいってるだろうな」

「へえ」


そういうの黙ってるかと思ってた。子供に負けたなんて生涯の恥的な事言いそうだと、勝手に思ってたよ。

まあ、でも、あの視線の中には、シガルを見る目がちょっと、尊い物でも見るような目だったのが居たなぁ。危険が無ければいいが。


「見えてきたな」


イナイの言葉で前に顔を向けると、さっきの女学院よりは明らかにサイズの大きい校舎が見えた。

それでもサイズ的には俺の馴染みのある学校校舎より、ちょっと小さい。やはり生徒数が少ないんだろうな。だが、広い訓練場らしきグラウンドがある。別に大きい建物も有るな。あっちはなんだろ。

門前には兵士が二人いて、門番をやっているようだ。こっちは兵士さんがやってんだ。なんで女学院はそうしないんだろ。


学校の様子を観察しながらてくてくと門前まで行くと、そこに居た兵士二人が剣を鞘から抜かずに、剣を二人で交差させて俺達を止める。


「申し訳ありません。タロウ様、少々お待ち下さい」


お、こっちは俺が来る事、ちゃんと伝わっていた感じか。


「こちら、騎士学校の敷地となっております。許可なく立ち入りは禁じられております。

タロウ様が来られることは存じておりますが、申し訳ございませんが、紹介状の提示をお願いします」


兵士二人は、交差させている剣を離し、頭を下げつつ俺に言う。

俺は素直に紹介状を彼らに手渡すと、片方の兵士がまた頭を下げて、校舎の方へ走っていった。


「お手数をおかけして申し訳ございません、もう少々お待ちください」


残った兵士さんもまた頭を下げ、少し下がる。これならイナイ先生も文句は無いのではなかろうか。

ちらっと見ると、女学院に行った時と同じように、全く思考の読めない無表情になっていた。

あ、これ、出来てる出来てない関係なく、思考読ませない気ないんだな。なるほど、理解。


暫くして、兵士さんが校舎から走って戻ってくる。


「申し訳ありません、お待たせしました。ご案内いたします」


兵士さんの言葉に従い、ぞろぞろとついて行く。道中突っ切ったグラウンドでは、どうやら実技訓練らしきものをやっていた。

見ると、現役の騎士が生徒に教えている様子だ。けど、何か、気を使って教えているというか、加減をしているというか、鍛えてるとは言い難いように感じた。


校舎に入ると、中はそこそこ綺麗で、座学に使われてそうな所は女学院とさほど差はなかったが、やはりなんというか、汗臭いね!

まあ、男だらけだとそうなるよね、やっぱ。

合同授業の時はおろしたての服で行ったりするのかしら。


なんてくだらないことを考えていると兵士さんが立ち止まり、目の前にある部屋をノックする。


「タロウ様をお連れしました」

「入れ」


兵士さんの言葉に、渋い声が中から応える。

兵士さんは言葉に従いドアを開け、俺達を中に入るように促す。


「おじゃましまーす・・・」


中に入ると、高そうな調度品だったり、豪華なソファだったり、まさしく校長室って感じだ。


「ようこそおいで下さいました、タロウ様。そしてステル様。シガル様とハク様もこのような所にようこそ。・・・おや、そちらの方は」


中に入って声をかけてきた人物は、好々爺といった雰囲気のするおじいさんだった。

彼は女学院の時と違い、ハクとシガルにも言葉をかけ、歓迎を表す。

だがクロトの事は知らなかったらしく、疑問の声を上げる。


「この子は私どもが面倒を見ている子で、クロトと申します」


イナイが相変わらずの無表情で目の前の人物を見つめながら言う。


「クロトさん、ですか。あ、これは失礼。私はこの騎士学校の責任者をやらせて頂いております、ドラネラージャスト・ヴァラド・ジャガナラッドと申します。以後お見知りおきを」


深々と頭を下げ、名を名乗るおじいさん。その所作は堂々としており、優雅という感じだった。

おじいさんではあるが、老いを感じさせない雰囲気を持っている。


「どうぞ、そちらにお座りください」

「はい、失礼します」


促されソファに座ると、彼は書類をいくつか持ってきて、テーブルに広げる。


「さっそく本題に入りたいと思うのですが、よろしいですか?」

「あ、はい」


今回はイナイではなく、向こうから言って来た。

これはイナイ的にはどうなんだろ。


「今回の合同授業では、このあたりを中心に軽く行進をして、その場で実地訓練、模擬戦、その後に女学院との交友を深める時間を作り、日が落ちる前には校舎まで戻るという形になります」

「ふむ、実地訓練はどの程度の規模で?」

「・・・その地に居る動物の狩り、並びに同行している女学生の警護、となるでしょうな」


ん、なんか今、少しためらいが無かった?

凄く不本意だけど、こうなるでしょうねっていう雰囲気が有った。


「恥を承知で申し上げますが、この学校から出て行く騎士は、騎士であって騎士ではありません。貴方方ならば知っているでしょうが、所詮作法と最低限の技を覚えただけの有象無象です。

もしあなた方さえよければ、彼らの目を覚ませて頂けないでしょうか」


おじいさんが、さっきまでの穏やかな目ではなく、鋭い目になる。

あ、この人、支部長さんと同じタイプだ。にっこにっこしてるけど、食えない人だ。


「それは、今から彼らに現実を教えろ、という事でよろしいですか?」


イナイが同じような鋭い目で、彼に問う。


「ええ、勿論。叩きのめして頂いて結構です。出来るならば、自身の手でやりたいところですが・・・申し訳ない」


おじいさんは頭を深々と下げる。自分の手でやりたい。つまりこの人は、現状を憂いている人なんだな。

騎士達が、ただのお飾り騎士である事に、我慢できない人なんだ。

でもこの人本人ではそれを正せない。その理由がどこにあるのか解らないが、やりたくても出来なかったんだろう。


「解りました。実技授業でタロウとシガルに相手をさせましょう」

「おお、ありがたい。では、そうですね・・・もう少しすれば、今年卒業の首席の者が訓練に入りますので、それに合わせて頂けますか?」

「解りました」


そして俺が受けるという前に、イナイさんが俺にやらせると決定。俺に決定権は無いようです。知ってた。

まあ、別に良いんだけどね。

シガルはなんかちょっと楽しそうだ。ハクがそわそわしてるけど、君はダメです。強すぎます。クロトは相変わらずぽやっとしてる。









暫くして、騎士のひよこさん達の模擬戦の相手をする形になり、ぶっちゃけ目も当てられないほど未熟の塊な坊ちゃんたちを、俺たち二人で叩きのめしている。

俺にやられた者より、シガルにやられた者達の方がダメージがデカそうである。

あんな子供にとか、女にとか、皆一様に膝と手をついて、なんかいろいろ呟いてる。


「くっ、よそ見をするな、平民!」


そんな光景を眺めていると、主席と紹介された彼、ええと、ベゼレヴァーネッジ君だったかな。

彼が叫びながら斬りかかってくる。

だが、今まで相手をしてきた人達とは、比べるまでもない遅い剣閃、稚拙な体捌きを当たり前にいなし、軽く反撃を加える。


「ぐっ、くうっ!」


それでも主席というのは本当のようで、他の生徒では無理だった剣速も、彼は反応して見せた。

まあ、いっぱいいっぱいだけど。


「ばかな・・こんな平民ごときが・・・・本当にこんな強い訳・・・!」


さっきからこればっかりなだよな、この子。

まあこの子って言っても、たぶん俺と2つか3つしか変わらないと思うけど。


「王女殿下をたぶらかし、我が国の騎士が成した偉業をかすめ取った薄汚い平民のくせに・・・!」


うーん、それは初耳。そういう風に思われてるのか。

あの時、騎士も兵士もかなりの人数出張ってたからなぁ。あの人達がやった事を俺がやったと、王女様がシナリオを作って俺を祭り上げたと、そう思ってんだなこれ。

俺に何の得が有るんだよそれ。俺以外にはあるんだろうなぁ。


「このぉ!」


叫びと共に放たれる、大振りが過ぎる一撃に合わせて剣を側面から絡ませて、手元を柄で叩き、剣を手放したのを目視しつつ、首元に刃を向ける。

とはいえ木剣なので、さほど危険はない。


「ぐ、ぐ、ぐぅぅぅぅ・・!」


心底悔しく、心底憎らしいという目を俺に向けて唸る彼。


「平民ごときが・・・、この侮辱、後悔させてやる・・・!貴族に逆らったらどうなるのか、教えてやる・・・!」


彼は睨みながらそんな呪詛を吐き、俺から離れていく。

貴族に逆らったらっていうか、単に訓練の模擬戦ですけど。どうやらいたくプライドを傷つけられた模様。

彼にとっては平民が自分に剣を向けること自体が我慢ならないと言った感じだろうか。


その後も同じように全員と模擬戦をやり、終わった頃には、彼らは皆意気消沈。

重苦しい顔で、分かり易く落ちこんでいた。

やり始める時は俺の化けの皮を剥いでくれるとか、なんかそんな感じだったんだけどな。

残念ながら、ミルカさんとリンさんのしごきに耐えた俺は、素の状態でも鍛え方の甘い君らには負けんよ。一回ガチで血反吐を吐くまで訓練してみると良い。今更だけどよく耐えたな俺。


でもその中で、先ほどの彼だけは、暗い怒りの表情でこちらを睨んでいる。

睨みで人が殺せるなら、そのまま殺しそうなほどだ。


その様を見ていた騎士たちは、流石だとか、やはりお強いとか、なんか言ってたけど、ただの世辞だろあれは。

シガルもわりと余裕だな。まあ今回はそんなに人数相手にしなかったから、こんなものか。


「皆、理解できたでしょう、自分たちの考えが間違いであったと。今の騎士達に亜竜を、大量の亜竜を狩るような力量など無い。

彼が居たからこの国は救われた。そして今のままでは、この国の騎士という存在は無用の物になると。

騎士が騎士として、その義務を成す事が出来ねば、この国はもはや立ち行かぬ。今までの様な温い在り方ではいられぬという事が分かったでしょう」


ドラネらー・・らー・・・ドラネさん。うん、ドラネさんが意気消沈している子たちに追撃をかける。


「現実を直視できぬなら、そのまま温い状況に甘えると良い。その先に待つのは今まさに騎士の体制を変えるための地獄の訓練に放り込まれるだけですがね。もし耐えられぬというならばこの学校を去ると良いでしょう。特に来年も通う者達は、その基準に成って貰う為に訓練は過酷になる。逃げるなら今のうちですよ」


ドラネさんの言葉に、皆黙り込み、俯く。

いや、皆ではない、彼は相変わらず、こちらを睨んでいる。


「黙って聞いていれば好き勝手を!」


そして彼は落ち込んでいる者達を押しのけ、ずんずんとドラネさんに歩いてくる。


「貴様、何時から私にそんな口を吐けるほど偉くなった!」


学校責任者だし、教えられる側よりは偉いでしょ。

と思うのだが、彼にとっては元々の身分が全てっぽいな。これのせいかな、あの人が自らやれないって言った理由。


「王女殿下の意向をお伝えしたまでです。私個人の意志ではありません」

「ぐぅ、だからと言って、あの平民に膝を付けというのか!」


なんでそういう話になるのさ。全然そういう話してなかっただろ、今。


「そうは言っておりません。ですが事実として、我々ではどうにもならない相手というのが当たり前に世の中にはいるのです。それらに対抗するために、今のままではいられません」

「はっ!竜に怯えて攻めてこなかった連中など、どれほどの物か!」

「その竜が居なくなったから簡単に攻めて来られるのですよ」

「なればそのような腰抜け連中、恐るに足りん!」


そこで彼は俺をまた睨み、口を開く。


「それに俺はごまかされんぞ!奴の力の秘密を知っている!」


俺を指さし、叫ぶ彼。それに周囲の者達もざわめき、俺を見る。

俺の力の秘密?なんだそれ。俺も知りたいぞ。


「奴は魔導技工剣の持ち主だ!先の話が嘘でないとしても、単身で実力のみでそのような戦果を上げられるはずがない!」


・・・あっそ、なるほど。

まあ、あの事件に技工剣を使ったのは間違いないので、ある意味では間違いではない。

けど、今の話は、そういう事じゃないんだけどな。


黙っている俺をにやにやとみる彼を見て、魔導技工剣を扱うことの難しさを理解してない気がした。

なので、ちょとイナイの方を見ると、イナイはこくんと頷く。

許可をもらったので、俺は逆螺旋剣を取り出し、起動させる。唐突に出したので、皆驚いているのが分かる。


皆、あれが魔導技工剣とか、なんと武骨なとか、なるほどすべてあれのおかげかなど、色々言ってる。

確かにあの時これ使ったけど、別に君らが弱いのは変わらないからね?俺これ使わずに君らとやってたからね?

つーか、シガルにも負けてるからね、君ら。


そう思いつつ、起動させた剣を持ちながら、彼の元へ近づく。


「な、なんだ!?」


ちょっと怖かったのか、声が上ずって、後ずさりする。


「君がこれを扱えるのか、試してみるかなと思って」

「・・・・ふん、なるほどな。貴様の様な平民が使えて、私が使えんわけが無いだろう」


すげえ自信満々だな。どっから来るんだそれ。

とりあえず、魔力の供給を切らずに剣を彼にもたせ、手を放す。

その瞬間、彼の目は驚愕に開かれる。


「あっ、がっ」


直ぐに剣は魔力をよこせと、彼の体から暴力的に魔力を吸い上げる。


「な、なんだこれは、な、あ・・・」


ついには魔力がゼロになり、彼は一気に魔力を失った負荷に耐えられず、その場で崩れ落ちる。

頭を打たないように襟を掴み、剣も掴む。上に乗ったら大惨事だからね。


「ま、こういう事です。剣を扱うにはそれなりに扱う技量が要ります。これは普通の剣でも同じです」


俺が静かに、生徒達に向かって言う。

この剣を使えるようになるぐらい、えげつない訓練を乗り越えてきたんだ。これぐらい言ってもばち当たらないだろ。

俺の言葉と、倒れた彼の姿に、またも静かになる生徒達。

そしてこの場は、彼らの心の整理の為にも、ここで訓練を終わりにすることになった。







その後はまた、授業の打ち合わせの細かいすり合わせを行い、帰宅となった。

イナイ先生的には、あの人の取れる行動の範囲でやれる限りをやったのだろうと判断したようだ。

騎士学校の方はそこそこいい評価か。

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