第226話指名依頼を受けます!

「指名依頼ですか?」


朝、組合に行くと職員にいきなり呼び止められ、支部長さんの部屋まで通され、指名依頼が入ったと告げられた。

シガルとハクも一緒に来ていたのだが、俺だけとのことで、待ってもらっている。


「ええ、王女様から直々です」


支部長さんの言葉を聞いて、一気に気が重くなった。

王女様からかぁ。なんかやな予感がするんだけどなぁ。


「断ったらダメですかね」

「・・・まさかそんな、あからさまに嫌そうな顔で断ろうとするとは思いませんでした」


うん、だって嫌だもの。モノスゲー嫌な予感しかしねーもの。

王女様直々とか面倒事の匂いしかしねーもの。


「普通は飛びつくものなんですけどね。今は平時だし、平時の依頼ってことは簡単で美味しい仕事なんですし」

「そうなんですか?」

「勿論です。こういうものは、立場ある人間が美味しい仕事を回しただけですよ。異常事態が起きた時なら、無茶な依頼を振られますけどね」

「・・・今回は無茶じゃないんですか?」


俺の訝しげな顔に、溜息を吐きながら応える支部長さん。


「無茶じゃないですよ・・・内容は簡単なものです。もちろん一定以上の技量の者にとってですが。あなたなら片手間で十分なものですよ」

「んー、まあ、なら、とりあえず話だけでも」

「・・・はぁ」


支部長さんは俺の言葉にため息をつき、内容を話し出す。


「仕事の内容は、端的に言えば護衛です」

「護衛?」

「王立の騎士学校と、女学院があるのは知っていますか?」


学校があるのか。そんな存在全く知らなかった。

あれかな、貴族の学校で、貴族の行くようなところに建ってるパターンかな。

そういう所は避けてたから知らない。


「いえ、初耳です」

「ま、そうでしょうね。その学校で、野外の合同授業がありまして、その護衛をお願いしたいんです」


・・・野外授業ですか。その護衛ですか。まあそれは構わない。うん、そこはいいとしよう。

騎士を護衛ってなんだよ。


「・・・騎士学校ですよね?」

「言いたいことはわかります。とてもわかります」


組合長さんが頭を押さえていう。


「私も思うところはありますが、あなたもこの国の騎士の力量は知っているでしょう?」

「ええ、まあ」

「そういうことです。騎士とは名ばかりの未熟者の集まりですよ。ただ騎士の位を手に入れる為の学校。そこの生徒というだけです。全員貴族の子弟といえば通じますか?」

「あー、なんとなく」


ようは、貴族のお坊ちゃんたちの集まりなわけね。


「とはいえ、一応騎士としての作法と、剣技の授業はありますので、そのへんの小動物ぐらいは平気でしょう」

「しょ、小動物ですか」

「ええ、大型は無理でしょう。おそらく」


なんだそれ。それが騎士でいいのか。


「まあ、それも今年まで、来年からはキツイですよ」


にやりと笑いながら告げる支部長さん。

ああ、そう、なるほど。ウムルが絡んだことでそっちにも影響が行くのね。

まあ、騎士と兵士たちは、ミルカさんの訓練を相変わらず受けているし、当然か。

最低水準を上げるためにも、学校の時点でやっておいて損はない。ま、今年の卒業生は地獄を見るだろうけど。


「で、合同授業って何するんですか?」

「騎士たちが小動物を狩る所を、女学院の生徒たちに見せるだけです」

「・・・それ、合同なんですか?」

「名目は。中身はお見合いですよ。早いうちに相手を見つけておこうっていうね」

「学生で?」

「ええ。別に珍しいことではないでしょう?特に貴族では」

「あ、はい」


正直そのへんはわかんないけど、とりあえず常識らしいので頷いておく。


「適当ですねぇ・・・まあいいですけど。で、受けてもらえるんですか?

正直この依頼は断られると、頼める人間探さないといけないので、私としても助かるんです。

相手が貴族なので、色々と面倒なんですよねぇ。私が行ければ別なんですけど」


支部長さん的にも受けて欲しい依頼なのか。もしかして毎回護衛を探してたのかな。

今回俺がいるから、たまたまそういう事になっただけで、普段は探し回っているのかもしれない。

支部長さんには迷惑もかけちゃったし、受けとくか。


「受けます。その依頼」


俺が受ける旨を伝えると、支部長はほっとした顔をする。


「助かります。あ、あとあなたが受けるなら追加で条件があるんですよ」

「は?」


なにそれ、そういうのは先に言いましょうよ。いや確認しなかった俺も悪いのかもしれないけど。


「これはただの気遣いだと思うんですが、シガルさんも一緒にとのことです。あと、授業の視察としてステル様も一緒に行って欲しいと」


あ、割とガチな依頼だこれ。真剣にこの先のこと考えてるんだな。


「シガルはともかく、イナイはちょっと聞いてみないとわかりませんよ」

「ええ、構いません。合同授業は3日後になります。それまでに一度、どちらの学校も訪ねておいてくださいね。これ、学校の位置と紹介状です。

いやー、今日来てくれなかったら、ダンの宿まで行かなければいけないところでしたよ」


頭をかきながらホッとした感じで言う支部長さん。

でも俺さっきのこの人の発言で気がついちゃったんだ。依頼の内容もそうだけどさ。


「支部長さん、これ、断らせる気なかったでしょ」

「・・・まさかそんなこと」


ニッコリと胡散臭い笑みで言う支部長。めっちゃ胡散臭い。

まあいいか、受けるって言ったし、今後を考えたら、いい事なのかもしれないし。


「じゃあ、早速帰って相談してきます。」

「はい、お願いします」


支部長室を出て、受付をスルーして、シガルのもとへ行く。

シガル達は依頼を眺めていた。


「おまたせ。何かいいのあった?」

「あ、おかえりタロウさん。うん、これとかどうかな。日帰りで帰ってこられるよ」


シガルが指さした先を見ると、森に少し入った辺にいる魔物を狩ってくる依頼だった。

ノレウネガウって魔物らしい。特徴を見る限り、蛇っぽい。でもサイズが大蛇ってレベルじゃねえ。怪獣だこれ。

でも、危ないからの討伐じゃなく、素材が欲しいとの事だ。

場所はそこまで遠くないし、いざとなれば帰りは転移で帰って来れるから、1日でできるな。

けど、その前にだ。


「ごめん、シガル。シガルにもそうだけど、イナイと相談しなきゃいけないことが出来たんだ」

「さっきのお話の?」


俺の言葉に目が鋭くなるシガル。


「うん、指名依頼。シガルも一緒にだってさ」

「・・・もしかして内容に問題ありなの?」

「いやー、内容は問題無いんだけど・・・うん、ちょっとね。まあ此処で話すのもなんだし、一旦宿に戻ろう。もしそのあとでもあの依頼あったら、やりに行こう」

「うん!」

「ハクも悪い、戻っていいかな」

『構わないぞ』

「ありがと。じゃあもどろっか」


ふたりの同意を得たので、組合をでて、宿に戻る。

道中、ハクが屋台の前で立ち止まって、食べながら帰った以外は特に何事もなく宿に到着。

部屋に戻ると、イナイは地図を広げながら、クロトと何か話していた。


「ん、タロウ、どうした。忘れもんか?」


戻ってくるのが早すぎるため、何か忘れたのかと思われたようだ。


「ん、ちょっと事情が出来まして」

「何かあったのか?」


俺がそこまで深刻ではない感じで言ったので、イナイもそっけなく聞いてくる。

視線は地図に向いたままだ。クロトはトテトテと俺の方へ歩いてきて、お帰りと笑顔で言う。

なので頭を優しくなでると、嬉しそうに笑って、椅子に戻っていく。


「指名依頼をされたんだ」

「まあ、お前階級上がっちまったしな」

「それが王女様からの依頼でさ。できればイナイとシガルも一緒にって話なんだ」

「あん?どういうこった?」


イナイはそこで視線を俺に向ける。俺は依頼の内容を詳しくはなし、イナイたちが嫌なら俺一人で行ってくる旨を伝える。


「あたしはいいよ」

『私も行くぞ』

「その内容でお前だけ行かすわけには行かねえだろ。あたしも行くよ」


どうやら二人共行くようだ。ハクは・・・まあ大丈夫だろ。


「・・・僕は、お留守番?」


クロトが寂しそうな顔で聞いてくる。えっと、どうしよう。一人にさせるのは不安だな。


「いや、一緒に行くぞ。あたしの傍にいろ」

「・・・うん」


俺が悩んでいるとイナイが連れて行くという。クロトはそれを聞いて、ものすごく嬉しそうだ。


「じゃあ、早速学校の職員に話をしに行くか」


イナイは地図を片付けて、さくっと出る準備をする。行動が早い。


「場所はわかってるし、支部長の話かたからして、お前が行く話はもう通ってるはずだ。こういう打ち合わせは早いほうがいい」

「ん、わかった。じゃあ今から行こうか。ごめんシガル、あの依頼は今日できそうにない」

「いいよ、きにしなくて。タロウさんと一緒ならそれでいいよ」


にっこり笑いながら言うシガル。照れる。

二人共こういうところストレートだよなぁ。イナイは結構照れながらいうこと多いけど。

ともあれ同意を得たので俺たちは学校に向かうことになった。

どんなとこなんだろ、こっちの学校って。

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