第225話今回も相も変わらず、状況理解が出来てません!

「さて、じゃあ、落ち着いて話出来るな。イナイ・ステルさんよ」


ベドさんは扉から離れて、イナイに向き直る。

あれ、イナイの説明ちゃんとしてないんだけど、知ってるのか。


「ええ、そうですね。そうでしょう。

こちらとしても、タロウがあなた方と仲良く談笑しているのは予想外だったので、対応に困っています」

「だろうな。あんたの立場ならそうだろう」


え、何、どういう事?

俺がこの人達と和解してたらダメなの?


「で、どうする?タロウの実力は理解してる。が、はいそうですかとは俺達も言えねえぞ」

「そうでしょうね」


ベドさんはさっきまでの和やかな表情ではなく、鋭い目でイナイを捉えている。

相変わらず俺はこの急激な状況変化にこれっぽっちも付いて行けない。毎回なんでこうなる。


困惑する俺を置いてお互いを見つめあう二人。

だが、イナイがため息を吐き、目を瞑った事で、ベドさんがそれに方眉を上げる。


「・・・実は私は休暇中でして」


イナイは少し溜めを作ってから喋り出す。


「あん?休暇?」


ベドさんは明らかに、何言ってんだこいつって感じだ。


「別段、仕事をする必要は無いんですよ」

「・・・ははっ、そりゃいいや。くくっ、そりゃあいい」

「ええ、そうでしょう?」


イナイが休暇中で働かなくていいという言葉に、一瞬戸惑いを見せたものの、すぐに笑いだすベドさん。

んー、もしかして、イナイ的には、本来彼らを捕えないといけない、って事かな。

今はその義務がないと、そういう事?


「ただし」


イナイは目を開き、隣で見てた俺が震えあがりそうになる迫力でベドさんを睨む。


「貴方がただの一般人に手を出したその時は、私も容赦はしません」

「・・・肝に銘じておくよ。タロウの言葉共々な」


睨むイナイに怯む様子無く応えるベドさん。この親分惚れるわ。俺ならビビってるよこれ。

俺が突撃した時も驚いてただけで、堂々としたもんだったもんなぁ。皆が頼りにするのが分かる。


「では、私が告げるべきはそれだけです。貴方達が、懸命に今を生きるためにそうあった事ぐらいは、理解していますから」

「・・・不思議だな、ウムルの貴族はみんなそんな感じなのか?」

「人によりますよ。私は元々貴族というわけでもありませんし。貴方の想いも、解りますから」


イナイは後半の言葉は、少し寂しそうに言った。

想像でしかないが、俺と出会う前のイナイに何かあったのだろうか。


「・・・その言葉と表情が嘘でないことを祈るよ」

「私も、貴方の行動が、彼女達の為で有る事を祈りますよ」


お互いにお互いを認めた、というわけでは無いのだろうが、何か思う所があったのだろう。

お互いに見える何かを見ているのだろう。ちょっと疎外感。


「そういや、あんた、こいつが最初から居るって解ってここに来たのか?」

「ええ、そうですよ」

「どうやってかは・・・」

「勿論教えられません」

「だよな」


イナイの返事を、当然と納得するベドさん。

多分それ、腕輪だよね。多分これ目印に追っかけてきたよね。

恐らく、イナイは荒事になってると思ったんじゃないかな。シガルは違ったっぽいけど。

ていうか、腕輪の追跡教えない方が良いのか。覚えとこ。


「では皆、帰る支度を」


シガル達の方に向き直り、帰宅宣言をするイナイ。

俺としては特にこれ以上いる意味は無いけど、ウネラの事はどうするつもりなんだろう。

なんて思っていたら、イナイはウネラの前まで歩いて行く。


「ウネラ」

「は、はい」


ウネラは自分の所に来ると思っていなかったらしく、驚いて背筋を伸ばす。


「貴方が誇りをもって仕事をしているならば、私からあなたに向ける言葉はありません。

ですが、誇りが有るならば尚の事、貴女の母に伝えるべき事は伝えた方が、貴女自身の為ですよ」


イナイは、優しい声でウネラに伝える。そこにどのような想いが籠っているのだろう。

イナイの慈愛と寂しさが混同するような表情は、何とも言えない苦しさを感じる。


「そう・・ですね・・はい」


ウネラは悲しそうな顔でその言葉に応える。

そんなウネラを見て、イナイは優しく頭を撫で、頭を抱き抱える。


「大丈夫ですよ。あなたの母を信じなさい」

「・・・はい・・・」


イナイがまた頭をなでると、ウネラはぽろぽろと泣き出した。

ベドさんとカジャさんが、何やら難しい顔をしてその光景を見ている。

だが、ウネラはすぐに泣き止み、笑顔になる。


「ありがとうございます~」

「いえ、ちょっとしたお節介です。礼を言われるほどではありませんよ。・・・あなたは強い子のようですし」


ウネラに対し、とても嬉しそうな表情で言うイナイ。


「では、また今度」

「はいー。またこんどぉ」


イナイは今度こそ、出口に向かう。

俺達もそれにぞろぞろとついて行く形で外に出ようとする。


「タロウ!」


だが、でる直前にベドさんが俺を呼んだ。振り向くととても真剣な顔だった。


「お前はもう、ここに来るな。お前にとってその方が良い」

「え、それはどういう・・・」

「意味はそこのねーさんから教えてもらえ。俺達のここでの関係は今回限りだ。いいな」

「えっと、その・・・」


どう返事していいのかわからず、イナイを見る。


「こちらで話しておきます。タロウは世間知らずなので」

「ああ、頼むよ。もし食堂で顔合わせたときは、そんときは世間話でもしよーや」

「ええ、その時は」


イナイは全て解っているという会話で、ベドさんに応え、部屋を出る。

俺は困惑しつつも、イナイに付いて行き、外に出る。


『けむい』


ハクのぼやきが聞こえるが、気持ちはわかる。あそこは煙たかった。

その言葉の意味が煙たいという意味ならだけど。


あ、因みにボロッカロさんはついてきてないです。お店のおねーさんとどこかに行きました。









あの場を離れ、暫く歩いて、人通りの多い道まで来たところで、イナイにさっきの事を聞いてみる。


「ねえ、イナイ、さっきの来るなってどういう事?」

「・・・あいつらは確かにあの地の人間の為に作られた組織なんだろうさ。それは間違いねえ。けど、あいつらはそれでも犯罪組織だ」

「え、いや、犯罪組織って」


確かにやばい薬は持ってたし、武装もしてたけど、あの街を守る為でしょ?


「お前の言いたいことは解ってる。あいつらは只自衛しただけだ。この国で生きていく上で必要だったんだろう。

けどな、それでも犯罪は犯罪なんだよ。あいつらのやってる事ってのはな。

そうするしか無かったってのも解ってるし、お前の言いたい事も解る。けど、それで済ませられない事も有る」


そこまで言うと、一回区切って立ち止まり、イナイは俺に向き直る。


「タロウ、お前は一般人だ。たとえこの国で英雄と称されても、お前は立場のない一般人だ。

そんなお前があいつらと同じ場所にいる事は、お前の為にならない。だからあいつはもうここに来るなと言った。お前の為にな。

・・・お前を上手く使えばやれることも有ったろうに、あいつもお人好しだな。だからあんな立場になっちまったんだろうが」


俺の為。俺の為に来るなといった。犯罪組織と関わりある事など無いようにと、気遣われたのか。

イナイが分かってて、当の本人はその気遣いに気が付かなかったとか、申し訳ない。


でも、それでもやっぱり思う所は有る。

確かに彼らは、おそらく人道的にはまずい事もやってるっぽい。あの薬を貴族に使ってる時点でアウトな気がするが、きっと話さないだけで,もっと色々有るんだろう。

けど、それであの街が平和に回っているなら、あの人達の存在は悪い事ではないのではないのだろうか。


「イナイ、俺は」

「解ってるよ。言ったろ」


イナイの言葉に反論しようとしたら、困った声で制された。その声はとても優しい。


「なあ、タロウ。あたしはお前が行く道を決めるなら、それに添い遂げるつもりだ。けどな、踏み外さなくていい道があるなら、引き戻すのもあたしの役目だと思ってる。

それでもお前が貫くというなら、ついて行くよ。全部捨てて、あたしはお前を守るよ」


それはつまり、俺が犯罪者になってもついて来るという言葉。俺が道を踏み外しても、俺の傍から離れないという言葉。

たとえ自分の言葉を聞き入れてもらえず、俺が俺の心のままに生きても、それでもなお支えると言われた。


「ずるいよ、イナイ」

「そうさ、知らなかったのか?」


イナイの言葉を聞いて反論できなくなった俺に、彼女はいたずらっぽく笑う。

今回の事は、きっとそこまで重い話じゃない。きっとイナイが今言ったほど、大事にはならない。

けど、極論は、そういう事になるという意味だ。


今の俺は、この国ではどうしても目立つ。そんな人間が犯罪組織に仲良さげに通えば、良くない事ぐらいは流石に分かる。

彼らとて、なりたくてなったわけでは無いと思う。それしか道が無かったんだと思う。それでも犯罪者は犯罪者なんだ。

それを理解した上できちんと行動しろと、そういう事だろう。けつは持ってやるって言葉つきで。

彼女にそんな事はさせたくない。別に意地を張るほど、彼らと仲良くなりたいわけでもない。ウネラの事は少し気にはなるけど、それとこれは別だし。


「気を付けるよ。今後も」

「ああ」


俺の言葉に嬉しそうに笑うイナイ。可愛いな、ほんと。


「今回完全に蚊帳の外だ・・・」


俺達の会話を聞いて、ボソッとシガルが言う。


『大丈夫だシガル、タロウに掴みかかったときのシガルの表情は凄かったぞ』


そりゃ、あの剣幕でこられれば。後、それ何のフォローにもなってないよハクさん。


「ハク、お願い、忘れて・・・」

『んー、わかった』


シガルは両手で顔を隠して俯く。ハクはその行動に首を傾げつつ了承する。

いやまあ、酔っぱらってたし、しょうがないしょうがない。でも今後は気を付けた方が良いと思います。


「・・・お酒って危ないんだね」


クロトが微妙に合ってるようなズレてるような感想を言う。

適量で済ませれば、楽しい物なんだと思うよ。うん。俺もあんまり飲んでないから何ともいえないけど。

お酒っていえば、グルドさん元気かなぁ。

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