第224話扉を直します!
コンコン、カンカン、ガンガン、ガァン!
「めっちゃ堅い」
ハンマーで扉のへしゃげた部分を叩いて見るが、全く変化が無かった。
へこむ気配もないとか、頑丈だな。
「お前、それを殴って壊したんだけどな」
「いやまあ、そうですけど」
これは普通にハンマーでたたいても、どうにもならないな。
・・・うーん、どうせテーブルは魔術で保護してるし、ちょっと試してみるか。
ハンマーにも保護魔術をかけてっと。ついでに強化も。
『熱せよ』
扉に手を付きながら、ただ熱を発生させるだけの魔術をかける。
本当は火を出してあてたいけど、この部屋ではちょっと怖い。
熱してる間が少し間が空き、手持ちぶたさで周りを見る。
シガルは先ほどイナイに解毒をしてもらい、素面に戻っている。
どうやら酔っ払った時の記憶はちゃんとあるようで、何かイナイに必死に謝っていた。
あんな事偉そうに言ってごめんなさいって、何言ったんだろう。イナイはその通りだから気にしなくていいって言ってたけど。
一応皆にはここに居る理由は説明をした。無理やり連れていかれた事も含めて。
ボロッカロさんが冷たい目を向けられていたが、そこは知った事ではないです。
ハクはシガルの横で、クロトはイナイの横でともに俺の作業を見ている。
イナイに何をするのか説明したら、見といてやると言われた。採点が怖い。
「これぐらいでいいかな」
自身にも保護魔術をかけているおかげで熱さはなんとなく分かるが、火傷はしない。
熱された金属の扉を、保護して強化したハンマーで軽く叩く。
すると形がちゃんと変わっていった。よしよし、いい感じだ。
これで熱し過ぎて形が変わりすぎないように、今の状態を維持しつつ、コンコンと形を整えていく。
偶にハンマーを横に動かして平らにすべき所は平らにしていく。
汗がぽたぽたと垂れる。流石に熱いな。これ、自分にも保護と強化かけてるから良いけど、無かったらえらいことになってるな。
あれ、これ、部屋の中、蒸し風呂になるんじゃね?と思って回りを見ると、皆たいしたことなさそうだった。
・・・あ、これイナイが魔術で空気を動かしてる。熱気が俺の周辺に留まるようにしてる。あんまり長引くと俺が倒れるぞこれ。
「気がつきましたか。早く終わらせないと、大変なことになりますよ」
ニヤッと笑いながら言うイナイに、久々に怖さを覚える。
この人達こうやって人を試すとき、容赦ないよなー。
「なるべく頑張るよ」
とりあえずそう言うしかない。とはいえ、形はきれいになってきている。もともと扉というには装飾の無い、ただただ頑丈な扉だったようだし、形さえ整えれば問題ないだろう。
あ、でもこのままだと大きさが変わる可能性があるな。気が付かないうちにちょっと伸びてましたでは目も当てられない。
『冷気よ、回れ』
扉の周囲だけをゆっくり冷やして、これ以上サイズが変わらないようにする。急激に冷やさなきゃ大丈夫だろ。ゆっくり、ゆっくりだ。
元々新しく作り直すつもりだったみたいだし、ダメだったら素直に謝ろ。
「なあ、違う魔術幾つ並行で使ってんのあいつ」
ボロッカロさんがイナイ達に俺の状況を聞く。
「6・・・いや、7つですね」
「はぁ!?」
イナイの答えに驚きの声を上げたのは、聞いた本人ではなくベドさんだ。
「俺が驚く前に驚くなよ」
「いや、普通驚くだろ!7つ同時とか!」
「まあ、驚くけど、タロウだからなぁ」
何その言い草。ひどい。でも反論できない。自分でも今のこれは、無茶苦茶やってる自覚はある。
セルエスさんの容赦のない訓練のたまものだね!
マジで容赦なかった。加減はしてくれるけど、容赦はしないんだよなあの人。セルエスさん怖い。
「・・・お前、前からあいつの事知ってんのか?」
「んー、大したことは知らねえよ。ここに来て、親父さんの宿に泊まってからの事しか。
一回手合わせして遊ばれた事が有るから、とんでもねえのは知ってるってだけだよ。ガラバウよりはるかに強いしな、あいつ」
「ガラバウって、あの獣化のガキか。勘弁しろよ」
お、ガラバウは結構有名なのか。まあ有名か。あいつ、組合長さんの部下みたいな感じだったし。
あいつ自身の性格と力量も相まって、名と顔が元から知れていてもおかしくない。
俺はそんな雑談をなんとなく聞きつつ、作業を淡々と進める、形が整ったらゆっくりと冷やしていく。
冷気を当てて冷やすというよりも、熱を奪うイメージで。全体的に温度を落としていく。
そのまま扉を冷やしつつ、今度は蝶番と、鍵を作っていく。蝶番と鍵の留め金も扉と同じ要領で形を整えていく。こっちはサイズ小さいし、少し変形しても行けるから気楽だ。
それよりも今この周囲の尋常じゃない暑さの方が問題だ。汗が止まらない。
・・・あれ、保護かけてるのにこの汗っておかしくね?
まずい、これ俺の周囲尋常じゃない温度になってる。
慌てて自身の周囲も冷やしつつ、形を整えた部品も一緒に冷やす。
「相変わらず、凄いなぁ」
「本当に。あの精度を当たり前のように維持し続けるのは、さすがセルに認められただけのことは有ります。単一の魔術や、2,3個程度なら同じ事は出来ますが、あの数の魔術を同じ精度で維持となると難しいですね」
シガルとイナイが俺の魔術を見て、それぞれの感想を述べる。でもイナイには魔術より、こっちの作業を褒めてほしかったり。
まあ、無いか。叩いて伸ばしてるだけだもんな、これ。
「うっし、できたー」
扉と鍵と蝶番とそれを留めるネジもちゃんと作った。後は設置するだけだ。
部屋の温度もちゃんと普通の温度に戻したし、とっとと取り付けますかね。
「よっと」
扉を抱えて、もともと扉が合った位置に設置していく。元々あったネジ穴は使い物にならないので、別の位置に無理やりねじ込んでいく。
扉の大きさもちゃんと維持できてるし、軽く叩いた感じ、強度も問題なさそうだ。
「これでどうかな」
「どうかなってお前・・・」
ベドさんは信じられない物を見る目でこちらを見ている。部下の方々や、お店のおねーさん達も。
イナイはこちらに歩いて来て、部品と扉と設置の具合を見ている。
「まあ、いいでしょう。劣化もそこまで酷くなさそうですし」
「よっし!」
イナイの言葉にガッツポーズをしてしまう。
「あくまで、そこまでです。どうせああいう手法でやるなら、貴方なら形を維持するようにして、熱を均一に出来た筈です。金属のみならず、熱の差異によって歪が生じるのですから」
「あ、はい、すみません」
ガッツポーズをした手が下に落ちる。うーん、形を保ったままか。
空気の器とか?いや、それなら板用意して、固定して保護魔術かければ良かったか。
それならさほど手間はかからなかったし。
「き、厳しいな。俺にはそういうのは良く解らんが」
ベドさんがイナイの言葉にそんな事を言いながら、金属の棒で扉をガンガン叩く。
「うん、俺としちゃ、問題なしだ。へこみもしねえ」
どうやら持ち主的にはOKのようだ。良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます