第223話俺以外にも誰かがここに来たようです!
かしてもらったテーブルに保護魔術をかけ、工具類を床に置く。
「さて、よっ・・・・重っ!」
扉を持ち上げようとしたら笑えるぐらい重かった。やべえ、素のままじゃ持ち上がらにぐらい重い。
うへー、仙術で強化してたとはいえ、良くこんなん吹っ飛ばしたな。こりゃ、拳痛い筈だわ。
いやま、軽く仙術も放ったからこその結果なんだけども。
「おいおい、流石にそれを一人で持ち上げるってのは無理だろ」
笑いながら頭目が言う。まあ、普通は無理だな、これ。重すぎる。
しょうがない、強化するか。作業で集中すると時間とか分からなくなるし、仙術は止めておこう。
途中で意識無くなって倒れるとかしたくないし。
「おい、ちょっと手をかして――――まじかよ。」
身体強化をして、扉を持ち上げる様を見て頭目は驚きの声を上げ、周囲の者達も同様に驚いている。
まあ、強化魔術使ってるって、気が付いて無いからだろうけど。
問題は、強化魔術を使っているにもかかわらず、まだ重い。かろうじて持ち上げれたというだけで、めっちゃ重い。
「くっ、おも・・・よっと」
何とか保護をかけたテーブルに乗せる。ふう、重かった。これの移動だけでも仙術使えば良かった。
「す、すげえな。これ一人で持ち上げんのか」
「ギリギリでしたねー。かろうじて持ち上げられました」
やっぱ俺、素の身体能力が低いなー。倍率が上がっても元が低いと話にならん。
ミルカさんとかなら、強化したらひょいっと持ち上げるんだろな。
アルネさんは絶対素のまま持ち上げる。あの人ならできる。あ、リンさんもか。
「かろうじてって・・・普通は無理だぞ。流石アレを単独で殲滅するだけは有るって事か・・・」
これとそれはそんなに関係は無いかなー。とはいえ真実を言う必要もないと思うのでスルー。
工具を持ったところで、男が一人慌てて室内に入ってくる。
「どうした、何が有った」
落ち着いた声で慌てた男に言う頭目。おお、かっこいい。頼れる親分だ。
男はそのおかげで少し落ち着いたのか、慌てずにきちんと言葉を紡ぐ。
「カガラナジャールの姐さんが来てます」
「ん、通せばいいじゃねえか」
「それが、見た事無い男と、やたら強い女4人が・・・」
そこで俺をちらっと見る。
「女たちは、彼を出せと。ここに居るのは分かっていると。一人はその兄さんの婚約者、一人はあの竜の女です」
「・・・そうか」
頭目がジト目でこっちを見る。
「他の連中に心当たり有るか?」
「女4人は物凄く。多分それ、一人男です。でももう一人の男はちょっと分からないですね」
一緒にいるって事は、俺も知ってる人だろうか。
いや、なんか聞いた事無い名前が出たし、単に偶然かも。
「・・・そうか」
はぁとため息を付いて、彼は部下に指示を出す。
「通せ。丁重にな」
「はい」
部下の男は急いで外に出ていく。
「凄い嫌な予感がするけど、やたら強いっていう事は、えっと」
「ま、そうだろう。つっても、何人か気絶させられた程度だろ」
「なんか、その、すみません」
「いいよ、もう」
はぁと、もう一度ため息を付く頭目。
だが彼を休めることなく、金属の扉が開く。
「なんだいこれ、なんで扉無くなってんだい?」
聞き覚えのある女性の声が部屋に通る。この声、さっきの店の人じゃないか。
「ん、扉があったのか?」
男性の声が聞こえる。あれ、この声ボロッカロさんじゃね?
入ってくる二人の男女を確認すると、女性はやはり先の店の人で、男はボロッカロさんだった。
そしてその後に物凄く心当たり通りだった4人も入ってくる。
イナイ達4人だ。イナイは若干あきれ顔で、ハクはキョロキョロと部屋を見回している。クロトはぽやっとしてるな。
ただ一人、シガルの様子がおかしい。顔は真っ赤で物凄く俺を睨んでいる。
「タロウさん!」
「は、はい!」
彼女は俺の名を叫び、ずんずんと歩いて、俺の胸ぐらを掴む。
「シ、シガル?」
「タロウさん!私達っていう物がありなが・・・・・・・・」
凄い剣幕で捲し立ててこようとしたシガルだが、いきなり静かになって、俯く。
シガルの行動に、物凄く不安を覚える。もしかして俺、女遊びしてたと思われてる?
「シ、シガル、少し話――」
「きぼちわるい」
「へ?」
俺がシガルの言葉に疑問の声を上げると、イナイが走ってきた。
「シガル、ちょっと我慢ですよ。そこのあなた。お手洗いはどこですか?」
「あ、ああ、あっちだ」
イナイの冷静な対応に、頭目は言葉に詰まりつつも返事をする。
「ありがとうございます。シガル、ゆっくり、ゆっくりでいいからあちらに行きますよ?」
「・・・・うん」
シガルはイナイに肩を貸してもらいながら、ゆっくりとトイレに向かう。
ハクはそんなシガルを見て、オロオロしながら付いて行く。クロトも心配そうな顔でついて行くが、二人はとりあえず外で待機するように言われたみたいだ。中には二人で入っていく。
「えっと・・・たぶんあれ、酒はいってるよね」
シガルのあの剣幕の理由は分からないが、明らかにアルコールの匂いがした。
絶対酔ってる。つーか、この世界、別にあの年齢の子に酒のましてもいいのか。
「タロウ、まさかと思ったけど、本当に居るとは。お前辿り着くのが早すぎないか」
「えーと、早いの意味は良く解んないですけど、ボロッカロさんはなんでここに」
「そりゃお前、そこの姐さんと交渉して、お前の探し人と話をしに来たんだよ。ま、無駄足だったっぽいが」
俺と部屋を見回して、ため息を付くボロッカロさん。
ああ、つまり俺が去ったときにあの女性と、この事について交渉してたのか。
ごめん、安くする交渉してるとばっかり思ってました。
「お前は?」
頭目がボロッカロさんに鋭い目で問う。だがボロッカロさんはまるで動じず、いつもの感じで応える。
まあ、この人、親父さんで耐性有るだろうからね。
「ひでえな、俺はあんたがここの頭だって知らなかったけど、あんた自身は知ってんぜ」
「あん?」
「ダン、って名前に聞き覚えはある筈だろ」
「・・・ああ、お前あそこの料理人か!」
「そっち本業じゃないんだけどな・・・最近悩んでるけど」
ほむ、俺は彼を見た事は無いが、どうやら彼は親父さんの食堂に来た事が有る客らしい。
「なるほど、だから連れてきたのか。カジャにしちゃ珍しいと思った」
頭目はカジャという女性に言う。あれ、さっきカガラナジャールとか言ってなかったっけ?
愛称なのかな。
「ええ、流石にダンさんの名前出されちゃね。もし嘘でもベドの所だし、何とかしてくれると思ってね」
「どうだか。ついさっきひどい目に有ったとこだ」
この人ベドさんという名前なのか。もしペだったら酷いことになる名前だ。いやまあ、発音的にはこっちでは通用しないけどさ。
「そう言えば、今更だが、お前どうやってここに辿り着いたんだ?
まるで知ってるかのような速さで来たよな。こいつもつけられてはいない筈だったし」
本当に今更です。最初の方に聞かれると思った事だ。
「探知でずっと位置は把握してたので」
「・・・店に入ってからずっとか?」
「いえ。俺、探知魔術は常に使ってるんですよ」
俺の言葉に皆がざわつく。まあそうなんだろうな。あのシガルでも、ずっと使い続けは出来ないらしいし。
でもシガルはそのうち出来る気がするけど。
「・・・おい、お前、魔術そこそこできたよな」
「え、ま、まあ、そこそこ程度ですけど」
「出来るかのか、そんな事」
「・・・少なくとも、俺は無理っす」
「・・・そうか」
ベドさんは魔術を使える部下の一人に問い、その答えに天井を仰いで、またため息を付く。
「分かった、よーく分かった。お前に喧嘩売ったのに無事だったのがどれだけ奇跡かよく解った」
なんて事言い出したかな。つーかあの場合、むしろ売ったのはこっちくさい。彼らは守る為に武器を取っただけだ。
お互いに事情があって、理解がずれてはいたけど、むやみに攻撃してきたわけじゃない。その辺に気が付けたなら、無茶はしない。
「うええ・・・喉が気持ち悪い・・・」
「自分の限界がある程度理解できたでしょう。今度は加減して飲みなさい」
「・・・ああい・・・」
こちらの説明が終わったところでシガル達が戻ってきた。とりあえず誤解解いておかなきゃ・・・。
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