第222話殆どお互いのすれ違いの結果でした!
「悪かった、本当に知り合いとは思わなかったんだ」
彼らの頭である男が目の前のテーブルに頭をぶつける勢いで頭を下げる。
「いえ、その、俺もちょっと調子に乗ってしまったというか・・・」
ちらっと、横にどかされた、破壊された扉を見る。
はい、すみません、破壊した扉です。俺がやりました、はい。
「扉、すみません・・・」
こちらも非があるので、頭を下げる。
ていうか、見方によっては非しかないよな、これ。
「いや、うちのが先走って下らない脅しをかけたのが先だ。こういう世界じゃ、舐められたら負けだ。あんたのとった行動は正解だよ。ただ、相手が俺らじゃなければ、ってのがつくがな」
「えと、はあ。そう言ってもらえると助かります」
頭目の言葉に申し訳ない気持ちで答える。
すると何を思ったのか、彼は楽しそうに笑い出した。
「くっくっく、いや、面白いな。これがあの扉ぶっ壊して、さっきまでスゲエ目で俺睨んでた野郎かと思うと」
「いや、まあ、ちょっと焦ってたんで。ホント、すみません」
「ああ、いや、責めてるわけじゃねえさ。お前ほど強かったら、もっとやりたい放題できるだろうにと思ってな」
「はぁ・・・」
やりたい放題ねぇ。そんな事したら、間違いなくイナイにぶっ飛ばされるな。
そうなると芋づる式にミルカさんとグルドさんにぶっ飛ばされるのが決定する。
なんかついでにリンさんも参加してきそう。
「こええ・・・・」
「ど、どうした?」
あ、しまった。想像したら思わず声に出た。
だってめっちゃ怖いもん。しょうがない。
「あ、いえ、なんでもないです」
「そ、そうか?」
とりあえず何でもないと否定。言ったところで、あの人たちの凄さは伝わりにくい気がするし。
まあ、そういうことがなくてもやんないけどね。人の嫌がることは基本しない。自分が気分悪くなるし。
ガラバウ?
・・・・・・・この話は無かったことにしよう。うん、それがいい。
「ところで、なんでタロウさんが私追いかけてるのー?」
黙って事の成り行きを見ていたウネラが同然の疑問を口にする。
「いや、ウネラがあのお店に入って聞くところが見えてさ。心配になって」
「ああ、なるほどぉ」
ぽやっとした感じで、本当にわかっているのかどうか心配になる返事をするウネラ。
「お店の人には、ちょっと話をさせて欲しい、って言っただけだったんだけどね」
「うーん、色々あったからねぇ。この辺も」
「ああ、それで素直に会わせて、連れ去られたり、路地で殺されてたりな」
え、なにそれ。なんでそんな物騒な事に。
「どういうことですか?」
「・・・この国の兵や貴族が腐ってんのは知ってるか?」
「え、ええ、まあ」
その人らのせいで王様に会う事になったし、最近まで色々関わりあった。
いや、まあ、今でもあるようなものだけど。
「そうか。まあ、なら、なんとなくわかるだろ?」
・・・ああ、なるほど。何となく確かに察せる。
腐った貴族、って言葉で、なんとなく。
「店に来た貴族が、気に入った店の子攫ったり、襲ったり、ですか」
「そういうこった。でまあ、そういう奴のために俺らみたいなのが出来た」
なるほど、やっぱ大昔の任侠みたいな感じなのかな。
「とはいえ、真正面から国に楯突いちゃ、ぶっ潰される」
「まあ、そうですよね」
「で、そこで出てくるのが上の薬ってわけだ。依存性がなかなかえげつないぜ」
「ああ・・・」
そういう用途なのか、あれ。
「あれをその辺の連中にまく商売はしてねえ。あくまでそういった連中を操るための道具だ。ま、そいつらからはむしり取ってやってるがな」
「兵は動かないんですか?どっちにも」
「動かねえさ。前者は当然。後者も動かせば、てめえがやばい薬をやってたのが、ほかの貴族や兵に知れる。あの手の人を蹴落すしか考えてない連中が、わざわざほかの連中にてめえの弱みは教えねえよ」
「なるほど、そんなもんですか」
貴族社会って、足の引っ張り合いなんだなぁ。疲れそうだ。
まあ、ウムルは違うみたいだけど。
「で、なんでウネラの心配を?」
彼は自分達の説明が終わり、俺に今回の説明を求める。
「いや、この子の身の上を軽く知ってるので、場所的になにか、無理やり働かされてるとか、何か無いかなって」
「ああ、なるほどな。まっとうな心配だ」
頭目はふっと笑い、ウネラを見る。馬鹿にするような感じではなく、優しい笑い方だ。
落ち着いて彼の顔を見ると、だいぶ強面だなぁ。でも目つきが優しい。
「タロウさんが心配するようなことは、なにもないよぉ。私の意思で働いてるからー」
「そっか、それならいいんだ」
別にあの手の仕事に嫌悪も侮蔑もない。本人がそれでいいなら構わない。
うーん、小説や漫画の見すぎだったかもしれない。そりゃ自分の意志で働いてる人もいるよな。
「院長さんは、知ってるんだよな?」
「・・・えっとぉ」
ウネラは院長の事を言うと、目をそらす。
「まさか知らないのか?」
「だってぇ、こういう仕事って一般的には理解がないでしょー?」
ああ、この世界でもそうなのか。でもそこに来る客が存在する以上、立派な仕事だと思う。
しっかり技術を学んで、それで客を満足させるなら、立派な接客業だ。
と、昔から思うんだけどな。元の世界でもこの考えはどうにも理解されないことがある。
「でも、それで稼いだ金渡したら、心配しないか、あの人」
「してる、ねぇ。でもさぁ・・・」
「黙っててもいつかバレるんじゃないか?俺みたいに知ってる奴に見つかったり」
「一応サーラは知ってるよぉ。常連さんにも何人かご近所さんいるし。黙ってもらってる代わりにちょっとサービスしてるー」
なるほど、何人かには既にバレてるわけだ。でも人の口に戸は立てられない。
「なあ、それ、バレてるけど、黙ってるだけじゃないのか?」
「・・・かも、しれない」
「ちゃんと話したほうがいいと思うぜ。後ろめたい思いがないなら特に」
「・・・うん」
ウネラは顔を俯ける。すると自然に際どい服から、いろいろ見えそうになるので、目を背ける。
それを見た頭目が笑い出した。
「あっはっは、英雄様、お人好しな上に、女性にはあんまり免疫がねえのか?」
その言葉にウネラがハッとして、顔を上げて、服を少し正す。
でも正したところで限界があると思うの、その服。上着を着よう、上着を。
「タロウさんはちゃんと恋人いるよー?」
「あのちっさい子だろ?そういう事はしたことねーんじゃねえの?」
「でも、もう一人の恋人は大人だよ」
「へえ、やるねぇ」
にやっと、少し意地の悪そうな顔でこちらを見る。うわぁ、嫌な顔するなぁ。
でも残念ながら、その小さい子の方が積極的です。
「知り合いの子を、そういう目で見るのはどうかと思っただけですよ」
「ははっ、だったら尚更目を背ける必要はねえと思うがな。ま、いいだろ、そこについては言及しねえよ」
くっくっくと笑いながら言う彼の言葉に、若干の不満を持ちつつも、これ以上言えば墓穴を掘る気がするのでやめておこう。
「ま、ウネラが別に問題ないならいいよ」
「うん、大丈夫ー。このお兄さんたちのおかげで、あの辺そこそこ安全だし」
強面のお兄さん達を見て笑うウネラ。すると照れくさそうに笑う強面さんたち。
あ、これ、もしかしてこのお兄さん達もお客なのでは。ま、まあそこは良いか。
「そっちの話が片付いたなら、今度はこっちの話だ」
「え?」
さっき事情は聞いたんだけど、まだ何かあるの?
「上の薬のこと、本当に見逃してくれんのか?」
「ああ、入る時の約束ですか」
「ああ、そうだ。其の辺はっきりさせとこうと思ってな」
上の薬か。やばい物なのは知ってるし、この人たちが犯罪を犯してないとは言えない気もする。
けど、この土地で、この人たちは必要な存在なんだろうなと思う。
「俺としては、約束は守るつもりです」
「・・・そうか」
「でも、忠告を」
「なんだ?」
「もしあれに、俺の友人知人が犠牲になっていたら、場合によっては、あなた方と敵対することになるかもしれません」
「・・・なるべくなりたくねえな。肝に銘じておこう」
俺の言葉に彼は神妙な顔で応える。
「そしてなにより、今後、あなた方の言うような貴族が、何らかの処分にあう可能性が多大にあります。なので、そこから被害を被らないようにお気をつけて」
「・・・なるほど、な。わかった。忠告感謝する」
彼は俺に頭を下げると、傍にいた男に手招きして小声で何かを伝える。
伝えられた男はすぐ出て行った。
「はあ、誤解が重なった結果、金だけがかかるな」
ため息をついて壊れた扉を見る彼に、また申し訳ない気持ちになる。
扉を触って、素材を確認してみると、なかなか頑丈な金属だ。これなら叩き直してもある程度なんとかなりそうだ。
本当は溶かし直してやったほうがいいんだろうが、場所があるのかなぁ?
金属疲労を考えると、本当はそっちがいいんだけど。ま、応急処置だ。
「もしよければ、この扉軽く直しましょうか?」
「え、いや、直すって、お前」
「工具類あります?ハンマーとか」
「あ、ああ、簡単なのなら有るが」
「あと壊しても問題ないテーブルとかあれば、お願いします」
「あ、ああ、分かった」
俺の言葉に困惑しつつも、部下に指示を出し、工具とテーブルを持ってこさせる頭目。
さって、やりますか。
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