第220話なんか思っていたのと違います!

男に案内されるままに歩くと、男の言う通り行き止まりに民家が有った。

男は民家のドアに手をかけ、そのまま俺の方を向く。


「兄さん。兄さんの要望を聞いたんだ、こっちの願いも聞いてもらえませんかね」

「願い?」


願いねぇ。願いって言うより、対価だと思うけどな。

俺を通す代わりに何か聞けって事だろ。


「この中で見た事、見た物は、見なかったことにする。でなきゃ入れることはできませんね」

「・・・分かりました」


とりあえず、俺は別にこいつらを潰したい訳じゃないし、今後関わり合いになる気は無い。

この先に居る人物の無事の確認をしたいだけだ。


「では、どうぞ」


男がそう言ってドアを開けると、さらにドアが有った。

表のドアを閉めて、中のドアを開けると、濁った煙たい空気の部屋に、様々な武器や、いかにもな男たちが居た。

ただなにより目についた物は、以前アロネスさんに教えてもらった事のある、ちょっとやばめの薬になる草が有った事だ。


「ご存知でしたか」


男は俺の目線に気が付いて、口を開く。


「先の通り、ご内密に」

「・・・一応約束しましたからね」


でもまあ現状、その薬よりもこの煙たさの方が堪える。多分たばこ的な何かだと思うけど。

微妙に仙術を使って自身の体調を正常に整えつつ、男について行く。

部屋にいた男たちはこちらを見るが、一切口を開く事は無かった。


男が部屋の奥に掛けられた布をずらすと、馬鹿みたいに頑丈そうな金属の扉が現れる。

隠し扉・・てほどでもないな。


「この奥です」


知ってます。さらに言うと、そのさらに奥に居ますね。

探知で場所は解ってる。俺が部屋に入るとさらに奥に連れていかれたあたり、どこかから様子を見れるのか、連絡を先にしたのかもしれない。

俺は無言で男が扉を開け、中に入るのについて行く。

中に入るとさらに同じような扉が有った。いや、扉だけじゃない。これ、壁も金属だ。


「一度、こっちは閉めますんで」


男はそう言って、後ろの扉を閉める。ご丁寧にしっかり鍵かけたな。

まあ、そうだろうな。この空間というか、ここや、この先では密閉してる方が良いもんな。


この空間、魔術阻害の道具が有る。魔力の流れがぐちゃぐちゃだ。下手な魔術を使うと暴発するようになってる。

まあ、この程度俺には関係ないけど。これなら亜竜の放つ魔力の方が上なんだよなぁ・・・。


「兄さん、一応言っておきますが、ここで魔術は使わない方が身のためですよ。もし使えば、身の安全は保障しませんよ」


・・・あ、これ、脅されてね?脅されてるよね。絶対脅されてる。


「脅しですか?」


一応聞いてみる。


「まあ、そうなりますね。兄さん見たところ、素手で来てらっしゃる。てこたあ、魔術師と考えるのが妥当。実際あの大規模な魔術拝見してますんで。

でもね、魔術が使えなかったら・・わかるでしょ?もちろん自爆覚悟でやられちゃこっちも大惨事ですけどね」


なるほど、この程度でどうにかなると本気で思ってんだな。

お前ら本当に手に負えない魔術師に会った事無いんだな。セルエスさんならこんな物通用しないどころか、気をつかう必要すらないぞ。


俺もこの程度どうにかなるっちゃなるけど、ここはひとつ分かり易く行こうか。

脅したのはそっちが先だ。なら仕返ししても良いよね?


「約束は、ここの事を黙ってるだけだった筈です。脅したのはそっちが先ですからね」


俺は体を仙術で強化して、目の前の金属の扉をぶん殴る。

俺が打撃を加えたところは大きくへこみ、扉を留めてる頑丈な蝶番と、鍵をぶち折り、部屋の中に扉が飛んでいく。


「なぁ!!」

「な、なんだ!?」

「と、扉がふっとんで来たぞ」

「馬鹿な!あんな頑丈な扉が、どうやったらこんな形になるんだよ!」


男は俺の行動に目を見開いて驚く。中に居た人間達も飛んできた扉に驚き、騒いでいる。

そして俺はとても拳が痛い。めっちゃ痛い。あの扉すげー頑丈だった。せめて身体保護だけでもかけるんだった。

こっそり拳を治療しつつ、男を置いて中に入る。


「あなたが、ここの頭・・・ですか?」


驚きの顔をしつつも、でかいソファから立ち上がらずにいる男を見て言う。

男の傍には先ほど俺が殴った扉が落ちており、男の隣には先ほどまでここに知人かも知れない子を連れてきた女性が居る。


男は俺の言葉を聞き、扉から俺に意識を向ける。


「あんた、何やった」


俺を鋭い目で睨み、ドスの効いた声で問う。

いつもなら怖いわーとか思ってるところだが、今日はそういう気持ちはわいてこない。


「後ろの彼が俺を脅したので、魔術が無くても問題ない事を教えておこうかと、一発殴らせてもらいました」


こっそり拳治したのはノーカンでお願いします。気が付いて無いと思うけど。

俺の言葉に部屋に居た人間達がざわつく。あんまり広い部屋じゃないけど、全部金属で覆った頑丈な部屋だな。

人数は14か。ま、大丈夫だろ、この扉で何とかなるって思ってるようなやつらだし。


「・・・確かに、な。こんな事、素手でされちゃぁ、たまった物じゃねえ」


男はソファに背中を預け、天井を仰ぐ。


「で、何の用だって?英雄様」


ふむ、今の口ぶりからすると、俺の事は聞いてる感じなのかな。

連絡を取る道具でも持ってるのかもしれない。


「解ってるんでしょう?」


聞いている以上は、俺がどこから来たのかもわかっている筈だ。隣の女性もいるわけだし。


「さて、ねえ。悪いけど、まあるで解らねえ。ちゃんと教えてくんねえかな」


若干人をこ馬鹿にしたような表情で俺に言い放つ。中々余裕がある。

まあ、大将の余裕を見せないとって所なんだろうけど。


「ここに、いや、この奥に居る女性に用があります」


俺は奴が背にする壁のさらに向こうを見て言う。

出入り口がどこかは解らないが、向こうに居るのは判っている。


「・・・どこで、この部屋の事を聞いた」

「聞いた事は無いし、来るのは初めてですよ」

「嘘をつくな、この部屋の事を知ってる人間は限られてる」

「・・・本物の魔術師にこの程度の阻害、意味がないだけですよ」


俺は小声で詠唱して、水球を作り出して浮かべる。密閉された部屋だし、火は止めておきたい。


「うそだろ・・・」

「この程度の阻害では、何の意味もないですよ。竜の魔力はもっと強い」


俺の言葉に明らかに動揺を隠せない男たち。女性はこころなし怯えて、男の服を握り締めている気がする。

あれー、なんか俺、悪者っぽくなってね?


「こちらの要求はただの確認。って言った筈なんですけどね」

「何をそこまで、あの女に執着するんだ」


真剣な顔で男は俺に問う。


「知人かも知れないからですよ」

「もし、知人だったら、どうするんだ」

「まあ、本人の言葉次第ですね。場合によっては連れ帰させて貰います」

「はっ!根っこが知れたな!英雄様つってもこんなもんかよ!!」


男たちはそれぞれ近くにあった武器を取り、構える。槍だったり、剣だったり、斧だったり、色々持ってる。

ん、どういう事だこれ。


「女一人に何執着してるか知らねえけど、俺達も義理人情ってもんがある!俺達が管理してるシマの女、すき勝手にさせっかよ!野郎ども気合入れろ!」

「おうよ!国救った英雄か何か知らねえが、武装した人間にこんな狭い部屋で囲まれちゃ、戦えねえだろ!」

「こっちにも面子と覚悟ってもんがあんだよ!なめんなよ!」

「女一人力づくで連れてこうなんて野郎、誰が認めるかよ」


・・・うーん?なんかおかしいな?

彼らの発言を聞いてると、どうにもこっちが悪者臭いぞ?

あれ、この人らもしかして、あの子を匿ってる感じ?


「あのー、何か勘違いがある気がするんですけど」

「何が勘違いだってんだ。てめえ今、連れ帰るって言ったじゃねえか」

「いや、場合によってはって言ったじゃないですか」

「るせえ!何でもかんでもてめえらの思い通りになると思うなよ!」


あかん、話通じない。頭に血が上ってらっしゃる。つーか、てめえらって誰だてめえらて。

いや、うん、解ってる。解ってるさ。騎士たちの事だ。貴族たちの事だ。

多分、俺アイツらと同類と思われてるのと、俺がその子に無理やり何かしようとしてると思われてる。


だからかー。あのお店でも俺への反応がおかしかったの。

これどうすんべ。なんか流れ的に、権力を振りかざして女攫いに来たのを守ろうとしてる感じじゃね?


「あのー、本当にちょっと話聞いてくれませんか?扉ぶっ壊しといてなんですけど」

「今更怖気づいて命乞いか?させるかよ。お前みたいなのは逃がすと後々面倒になる」


あ、もうだめだ、これはもう話聞いてくれないな。


「はぁ、しょうがないか。じゃあ全員手加減するので、終わってからお願いしますね」

「ほざけ!」


頭の男が叫ぶと同時に、全員かかってくる。俺はそれと同時に身体強化の魔術を使い、最初に切り付けてきた男達の剣を裏拳で折り、それぞれ胸に拳を突き入れる。

拳を受けた男たちが崩れるのを確認する前に、残りの男たちの懐に潜り、また胸に拳を突き入れる。

頭以外の全員が崩れ落ちてうめいている状態になったところで拳を下ろし、頭に言う。


「ちゃんと手加減しましたし、そちらが襲ってこなければ手を出す気はありませんでしたからね?」


俺を見て、歯ぎしりをして睨む男。女性は怯えて震えている。

完全悪役じゃねえか俺。


「何が望みだ。あの女つれてってどうするつもりだ」

「どうするも何も、彼女の意志でいるなら別に何もしませんよ。思ってたのとなんか状況違うみたいですし」


正直最初は彼女が脅されてるか何かで、あそこで働いてるのかと思った。

そんな話何も聞いてなかったし、彼女の育った場所を考えれば、もしかしたら何かの問題を自分で抱えたのたとも思ったからだ。


「お前、一体何考えてやがる」

「しいて言えば今は特に何も。色々考えてたのが、馬鹿らしくなるぐらい無意味だったみたいなんで」

「・・・本当に話を聞きに来ただけなのか?」

「んー、状況次第では今と同じことになってたと思いますけど、向こうの彼女が無事で、彼女の意志でここに居るならこの惨状は無いですね」


男は俺の言葉の真意を探るように睨む。でも睨まれても困る。今本当に何も考えてないぞ。

とりあえず、なんだ。この人ら、犯罪はやってるっぽいけど、昔の渡世人みたいな感じなのかね。


「はぁ・・・気張って損したぜ」


男はソファにドカッと座り、女に手で合図をする。すると部屋の端の壁を押し、それがそのまま向こうに開く。

壁っぽい扉か。面白い。


「終わったんですかー?」


のんびりした声で出てくる女性。その女性の姿を見て、やはり知り合いだったと分かり、ほっとした。これで人違いでしたじゃ、ただここで暴れただけになる。


「あれ、タロウさん?」

「やっぱり、ウネラだった」


孤児院の年長の子、ウネラがきわどい服を着てそこに居た。すげえきわどいなあの服。

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