変わる情勢、変わらぬ気持ち。
第218話どこかに連れて行かれます!
「帰りは静かでよかった・・・」
ポヘタ王都まで戻ってきて、最初の感想がそれだった。
だって行きは無茶苦茶だったもん。
騎士隊長さんとの出来事のあと、お偉いさん方の話はあったものの、俺がそれに参加する筈も無く、シガル達と飛行船内部を歩いたり、時間のある兵士さんたちと話したりしていた。
しばらくして俺達は帰る話になったので、行きと同じ様にここまで戻ってきた。
帰りは平和であった。とても平和であった。
「・・・張り合わなかったら、やらないよ?」
俺の袖を掴みながら、首をかしげて言う。
『我慢するって言ったからな』
ハクが若干嫌そうな言い方で言う。いやまあ、鳴き方だけど。
「ハク、はい」
シガルがイナイから受け取った服をハクにかけてやり、ハクはそのまま人型になる。
うまい事、人型になるとちゃんと着れる形でかけてる。
『ありがとう、シガル』
「うん」
二人の関係はやっぱり変わらなかったようだ。
ま、当然だろうと思う。もともとこの二人は仲がいいんだ。
クロトが現れたからって、二人の関係が変わるわけじゃない。
ハクのいったとおり、シガルはハクの庇護の下にあろうなどとは思ってない。
いや、ハクだけじゃない。俺とイナイにも、求めてはいない。
いざというときの助けや、本当に危ないときの頼りにはしているとは思う。
けど、彼女は強い子だ。強くある女性だ。誰かに常に寄りかかるような事は、考えてない。
「本当に仲いいよな、お前ら」
イナイが、そんな二人を見て楽しそうに言う。
ただ一瞬、どこか寂しそうな表情を見せたような気がする。
「イナイ、どうしたの?」
イナイだけに聞こえるように小声で言う。
「たいした事じゃないさ。うん、今はたしいた事じゃない。
・・・時間は、止められない。いつか本人たちが対面して、向き合う事だ」
イナイは明らかに、ここじゃないどこかを見る表情で、シガルとハクを見ている。
時間は止められないとは、いったいどういうことだろう。あの二人に何か、この後あるのだろうか。
「あの二人に、何かあるの?」
「ねえよ、何もな」
んー、どういうことだろう。でも聞いてもこれ以上は何も言う気は無いのかな。
時間か。なんだろう、時間って。ハクが山に帰らないといけないとかなのかな。
「おーい、とりあえず宿にもどんぞー」
「はーい」
『わかった』
「・・・うん」
イナイは完全にさっきの話を切り上げて街に戻る宣言をする。
ま、いっか。
「お、お帰り」
宿まで戻ると、親父さんが宿側の玄関前で掃除をしていた。
「ただいま帰りました」
「ただいま親父さん」
「ただいまー」
『帰った!』
「・・・ただいま?」
クロトが一人首をかしげ疑問符で言う。
「なんか増えてね?」
親父さんはクロトを見て言った。
「あれ、そういえば親父さんに見せてませんでしたっけ」
「おう、しらんぞ。誰だこいつ」
「・・・お父さん、誰この人」
親父さんとクロトはほぼ同じタイミングで俺に疑問を投げる。
即座に親父さんは目を見開いて俺とクロトを見比べる。
「お前子持ちだったのか!?」
「あ、いや、この子はなんていうか、拾った子って言うか」
「拾った?拾った子の親になったのか。お前もお人よしだなぁ」
「・・・親・・・なのかな・・・・」
「あん?何言ってんだよ。そいつの面倒見るんだろ?」
「まあ、そうなんですけど・・・」
クロトの面倒は見る気だけど、どうにも親になったという気持ちは持てないなぁ。
実際の親になったら、また変わるのだろうか。
思わずイナイ達をチラッと見ると、イナイがこちらを見ていたが、少し顔を赤くして目線をそらした。
もしかして同じ事考えてたのかな?
「ま、いいや、部屋はあれ以上でかいのねえぞ」
「ああ、部屋はあれでいいですよ」
「あいよ」
親父さんはそのまま掃除を続ける。あんまり気にして無いのは本当だな。
宿の中に入ると、ガラバウとボロッカロさんが騒いでいた。
「だから俺はいかねえって!」
「そんな事言うなって。一緒に行こうぜ」
「一人で行って来いよ!」
何言い合ってんのこの人ら。
ガラバウは割と真面目に嫌そうなんですけど。
「二人共なにしてんの?」
「お、タロウ、お帰り。いやな、ちょっとばかし臨時収入が入ったんで、ガラバウつれてナラケウナまでつれってってやろうと思って」
「頼んでねえ!」
ナラケウナ?なんだろう、お店の名前なんだろうか。
臨時収入が入ったって言ってるし、お金がいるところなんだろうけど。
「・・・タロウ、私達は先に上に行ってますよ。クロト、おいで」
「・・・お父さんは?」
「彼らは男同士で話すことがあるようですから。行きますよ」
イナイはなんかすごい無表情で、困惑するクロトをつれて部屋に向かう。
「・・・ハク、あたし達もいこう」
『んー、いいのか?』
「いいの!いくよ!」
『分かった』
シガルはこちらを見ずにハクの手をとって走っていった。何その反応。
「どうしたんだろう、あの二人」
「気を使ったんじゃねーの?」
俺の呟きに、ボロッカロさんがそう言う。気を使ってもらわないといけない話なの?
んー?
「おい、お前大丈夫なのか?」
ガラバウがイナイたちが去っていった方向を見て、俺に言う。
「大丈夫って、何が?」
「何がってお前・・いや、大丈夫ならいいけどよ」
「?」
イマイチ要領を得ない。もしかして女性には嫌なところなのだろうか、さっきのところ。
「せっかくだし、タロウも行こうぜ」
「え、いや」
さっきのイナイたちの反応見るに、ついて行ったら後が怖いことになりそうな予感がするんですけど。
いやまあ、どんなところかわかってないけどさ。
「ただいま・・何してるの入口前で」
男三人が宿の入口で固まってるのを見て、帰ってきたレンさんが不思議そうなお顔で聞いてくる。
「お、レン。今日は早いな」
「うん、今日はね。で、どうしたの?」
「これから3人でナラケウナに行ってこようと思ってさ」
「・・・・・・・・・あっそ」
あれ、なんか今、どこ行くか聞いた瞬間、レンさんの目がすごい冷たくなった気がする。
「お、おい、俺は行かねえからな?」
「別にガラバウがどこに行こうと知らないわよ。楽しんでくれば?」
ガラバウの言葉にものすごく冷たい声で言い放ち、横を通って部屋に向かうレンさん。
あ、これ多分いったら女性に嫌がられる類のお店だ。
イナイとジガルの行動も理解できた。これは行くのやめておこう。
レンさんが去っていく方向に伸ばしているガラバウの手が切ない。どんまい。
「じゃ、俺も部屋に戻るんで」
被害をこれ以上被らないように部屋に戻ろうとすると、二人に両腕を掴まれた。
「え、お、おいガラバウなにしてんだ」
ボロッカロさんはともかく、なんでお前まで俺掴んでんだよ!
「ふ、ふふ、こうなった以上お前だけ静かに済ませてやるかよ」
「な、おま!」
コイツ俺も巻き添えにするつもりだ。
お前イナイが怒ったらどれだけ怖いかしらねえだろ!
「行くぞボロッカロ!」
「おお!」
二人は俺のことを無視して、抱えあげて走り出す。
低い身長が恨めしい。踏みとどまれない。これ振りほどくにはこの2人殴るか蹴るしかない。
俺は二人に抱えられ、どこかに連れ去られるのであった。
「お前ら馬鹿だなぁ」
という親父さんの呟きを後にして。
「さーて、今日はお前らがいるし、安全なとこがいいな」
「勢いで来てしまった・・・」
ものすごく楽しそうなボロッカロさんと、自分の行動に冷静になってしまったガラバウ。
「いい加減下ろしてくれませんかね・・・・」
そして未だに抱え上げられたままの俺がいる。
「下ろしたら逃げるだろ?」
「もちろん」
「じゃ、ダメだな」
「なんでですか、一人で行ってきたらいいじゃないですか」
「それは、ほら・・・一人は心細いじゃん?」
「なんですかその理由・・・・」
そんな所に俺を連れて行かないで欲しい。
「つーか、ガラバウ、冷静に戻ったなら下ろせよ。んで帰ればいいじゃねーか」
「・・・そうなんだよな」
「あ、ここまできてヘタレんなよお前!」
ガラバウが俺の言葉に耳を傾けている事に焦るボロっカロさん。
とりあえず二人を置いておいて周囲を見ると、肌の露出が多い服装の女性がたくさんいる。
客引きっぽい事をしてる人もちらほら。
まあ、そういう所かなとは思ってたけど、大当たりか。風俗街だここ。
「とりあえず、俺はシガルとイナイ以外は嫌なので、帰してくれませんか?」
「・・・お前すごいな、そういうのはっきり言うのな」
「まあ、ここは流石に・・・」
はっきり言わないと帰してくれなさそうだし。それにさっきから視線がものすごく痛い。とっとと逃げたい。
「ま、そうはっきり言われたらしゃあねえか。このまま勢いでいけるかなって思ったんだが」
ボロッカロさんはそう言って俺を下ろす。ガラバウもそれを見て俺を離す。
「つーか、お前も帰ったほうがいいんじゃねえの?レンさんの顔怖かったぞ」
「・・・まあ、うん」
ガラバウはものすごく微妙な顔だ。帰ったところでどうしろてんだって思ってるんじゃないかな。
「お前はこっち。タロウは帰すけど、お前は帰さない」
「なんでだよ・・・」
「独り身同士、傷を舐め合おうぜ」
「俺は別に気にしてねえよ・・・」
「まあまあまあ、今のお前がいれば、ちょっと安くしてくれるかもしれねえしさ」
「お前絶対それが狙いだったろ!こいつ連れてこうとしたのもそれが理由だろ!」
「あ、口が滑った」
どうやら俺とガラバウを誘ったのは、自分のお財布を軽くしない為だった模様。
まあ、今の俺たちのこの国での知名度的なものを考えると、ありえなくは無いのか。
・・・ん、あれ?
「なんで、こんな所に」
見覚えのある女の子が、どう見ても娼館って感じのお店に入っていくのが見えた。
「ボロッカロさん、あの店って」
「ん?あー、あそこ可愛い子多いし、しっかりしてんだけど・・・高いんだよなぁ。なんだ、興味沸いたのか?」
嬉しそうに聞いてくるけど、そういうつもりはないです。
「いや、今そこに知り合いが入っていったんです」
「・・・行くか?」
俺の怪訝そうな顔に何かを察したのか、ボロッカロさん真剣な顔で聞いてくる。
「・・・一応、確かめておきたい、かも」
「じゃあ、行きますか」
「え、ちょっとまてよ!おい!」
ガラバウはここに来た時と違い、俺とボロッカロさんに捕まって連れて行かれる。
仕返しなんて考えてないない。
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